文:赤井大祐(FINDERS編集部)
毎週だいたい1社ずつ、気になるスタートアップ企業や、そのサービスをザクッと紹介していく「スタートアップ・ディグ」。第13回は、人口2億人を有するアフリカ最大の国家・ナイジェリアで爆発的な成長を見せるモバイル決済サービス「OPay(オーペイ)」について紹介する。
Opay
創業 2018年1月
調達総額 約5億7千万ドル(約650億円)
モバイルマネー広がるアフリカ
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近年フィンテック先進国として名を馳せるサブサハラ・アフリカ地域(サハラ砂漠以南のアフリカ諸国)において広く利用されている「モバイルマネー」。銀行口座を介さずに、simカード上に金額の情報を直接登録し、メッセージ機能(インターネットではなく、いわゆる携帯の電波によるもの)などを使って個人間の送金や支払いなどを行えるケニアの「M-PESA」が有名だ。
銀行口座は持っていないが、プリペイド式の携帯電話は持っている、という人が大半を占める国々において、2010年頃から大きく普及が始まっていった。
ケニア在住のAfrica Business PartnersにてCEOを務める梅本優香里氏のnoteによれば、アフリカ一の人口を誇るナイジェリアでは比較的銀行が強く、すでにデビットカードが大きく普及しており、ケニアなどと違ってモバイルマネーの利用が進んでいなかったということだ。
ところがOPayは2018年スタートとかなり後発ながら、ナイジェリアにて爆発的に普及。『Emergent』の「OPay and Nigeria's Mobile Money Wars」という記事によれば、その決済量は2019年の8300億ナイラから2020年には3兆ナイラ(約8000億円)以上と、260%増加。2021年6月の時点で、ナイジェリアのモバイル決済量は2020年の総量をほぼ上回っているという。
現在OPayが提供する主なサービスは3種類。P2Pでの支払いや送金などを行う「Opay Payments」。小売店などが使用するための無料のPOSシステムの提供と、それを介したモバイルデータの販売などを行う「Opay Mechant Tools」(OPayのPOS利用については梅本氏のnote『ビジョンファンドがアフリカに初投資、ナイジェリアの中国企業Opayの不思議な金融サービス』に詳しい)。 そしてクレジットカードの代わりとしても使えるため、例えばNetflixのサブスクライブをするといった、海外企業への支払いなどを行えるデビットカードの「OPayカード」だ。
アプリ自体はインターネットを介した利用を想定したものとなっているが、従来の基地局を介したアナログ回線による送金や支払いにも対応しているという。
過去に名を馳せたブラウザ企業「Opera」の取り組み
実はこのOPay、ブラウザアプリ「Opera」として有名なノルウェーのOpera Software ASA社によって立ち上げられた企業である(ちなみに2016年に中国の奇虎360によって買収済み)。『AFERICA』によれば、ナイジェリアで人気のサムスン製のスマートフォンにOperaがプリインストールされていたため、Operaが広く普及したことが、Opay設立の背景にあるという。「ブラウザ戦争」において、Fire Foxらと並んでGoogle Chromeに敗北を喫したあとも虎視眈々と次に備えていたのだ。
設立当初、OPayはいわゆる「スーパーアプリ」として事業を開始させ、ORide(バイク配車サービス)、OBus(バス予約プラットフォーム)、OExpress(ロジスティクスサービス)、OTrade(B2B eコマースプラットフォーム)、OFood(食品配達サービス)といったサービスを展開。しかし多くが軌道にのらなかったことや、OPay事業への集中のため現在は事業を絞って展開しているということだ。
そんなOPayだが、投資企業などからの評価も上々。ソフトバンクグループ傘下のソフトバンクビジョンファンドも約440億円を投資。グループとしては初めてのアフリカ企業への投資となった。また、現在企業価値は20億ドルと評価され、アフリカ大陸では5番目のユニコーン企業となった。
欧米諸国を始めとする先進国ではブロックチェーンを利用した、非集権型金融である「DeFi」なども注目を集めており、世界中で金融のあり方が変化している。強かに生き延びるためには、改めて勉強し直す必要がある分野だろう。