CULTURE | 2022/01/19

実はクレバーな笑いもできる「錦鯉」。今後目指すべきは志村けんのような年代不問の芸人か【連載】テレビの窓から(13)

イラスト:IKUMA

木村隆志
コラムニスト、コンサルタント、テレビ解説者
「忖度なし」のスタンスで各媒体に毎...

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イラスト:IKUMA

木村隆志

コラムニスト、コンサルタント、テレビ解説者

「忖度なし」のスタンスで各媒体に毎月30本超のコラムを寄稿するほか、テレビ・ウェブ・雑誌などにメディア出演し、制作現場への情報提供もしている。人間関係コンサルタントや著名人専門のインタビュアーとしても活動中。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。

実は順調なステップアップだった

昨年末の『M-1グランプリ2021』(ABCテレビ・テレビ朝日系)で、「合コン」「猿の捕獲」というネタと、「史上最年長優勝」という結果の両面で強烈なインパクトを放った錦鯉。2019年は準決勝進出、2020年は決勝進出して4位と、今になって振り返ると、順調にステップアップしての優勝だったのだが、「意外」と感じるのではないか。

昨年はバラエティ出演が増えるなど知名度を上げていたが、正統派漫才のオズワルドや見取り図などと比べられて、イロモノ扱いされることもあった。昨年末も、「本当に優勝するとは思っていなかった」という声が業界内からあがっていたのも確かだ。だからこそ今、注目されているのは、「『M-1』王者になったあとの1年間でどんな姿を見せられるか」。

さっそく1月から、『めざましテレビ』(フジテレビ系)の「マンスリーエンタメプレゼンター」に起用されているほか、7日には『情熱大陸』(MBS・TBS系)に出演し、15日深夜には初の冠番組となる『錦鯉のバカみたいに何も決まっていない新番組(仮)~とりあえず生放送やってみます~』(ABCテレビ)もスタート。すでに彼らの未来を占う1年間は動き出している。

果たして彼らは漫才以外の才能を開花させ、期待に応えられるのか。

渡辺は仕切り、長谷川は裏回しも

まず試されるのは、ネタ以外のいわゆる「平場」で力を発揮できるか。事前に考え、練習も可能なネタとは異なる、発想力や瞬発力が問われているのだが、そこは年齢とキャリアがものを言う。

「『M-1』決勝に進出するまで、あまりテレビに出ていなかった」と言っても、トークは劇場でのライブや芸人仲間との食事などで、常に鍛えられていた。また、貧乏、アルバイト、加齢、高齢未婚などのエピソードの豊富さでも若手芸人には負けないだろう。

ネット上には「ツッコミの渡辺隆はネタ以外のトークが厳しいのではないか」という声もあがっていたが、ネタではボケの長谷川雅紀を生かすために引いたツッコミをしているだけであり、トーク力の評価は決して低くない。

むしろ、「必要なときだけトーク力を発揮できる」という意味では、「多くの出演者がいるバラエティに向いている」とも言える。実際、複数の番組制作関係者から、「渡辺は仕切りができる」「実は長谷川も裏回しができる」という話も聞いていた。かつて錦鯉はプロフィールの“特技”に長谷川が「聞き上手」、渡辺が「連想ゲーム」を挙げていたが、これもトーク力に自信があることの表れではないか。

近年のバラエティは、ネタ、トーク、大喜利などで笑わせるクレバーなタイプと、キャラクターやリアクションで笑わせるタイプに大別されがちだが、錦鯉はどちらのタイプにもなれる。つまり、「バラエティでの使いどころが多い」ということであり、逆に制作サイドが「錦鯉をどう使うのか」センスを問われるだろう。

もう1つ、錦鯉のサポート役となりそうなのが、芸人仲間の存在。『M-1』で優勝が決まったとき、涙をこぼす審査員がいたほか、ネット上に次々に祝福の声をあげていたことが、その力強さを物語っている。

共演するMCやツッコミ芸人たちにとって長谷川は格好のターゲットであるほか、渡辺もイジり甲斐のある存在。これまで若手芸人たちに混じってライブなどに出演していたため、先輩や同年代だけでなく、年下からガンガン絡まれることも錦鯉の強みだ。

課題は若い女性層をどうつかむか

しかし、彼らもすべてが順風満帆とはいかない。一昨年春の視聴率調査のリニューアルで民放各局がターゲットをコア層(主に13~49歳)に設定したほか、コロナ禍での減収もあって、民放各局が出演者の若返りを図っている。事実、マヂカルラブリー、見取り図、ニューヨークら30代芸人の起用が増える一方で、大物タレントの降板を発表した番組は多い。

現在、長谷川が50歳、渡辺が43歳だけに、錦鯉の重用は若返りの流れに逆行してしまう。『M-1』王者になったとは言え、その年齢だけを見ると、制作サイドの起用にブレーキがかかり、その露出が瞬間風速的なもので終わってしまう懸念は拭えない。

ただ、「錦鯉には年齢を超越した存在になるのではないか」という期待感があるのも事実。彼らのネタは就学前の幼児から高齢者まで、年代を問わず理解し、笑いを誘えるわかりやすさがある。さらに男性層のウケがいいことも特筆すべきだろう。それらの意味で、「志村けんさんやドリフターズのような存在になれるかもしれない」という関係者の声を聞いたことがある。

何も考えずに笑える。「くだらない」と言われる。同タイプの笑いを繰り返す。これらの意味で錦鯉は志村さんと似たところがある。その志村さんは、バカ殿、変なおじさん、ひとみ婆さん、アイーン、だいじょぶだぁなどの持ちネタを自ら「マンネリ」と語っていたが、錦鯉もこれを極めていけばいいのかもしれない。

課題は「おじさんが苦手」「お父さんが嫌い」という若い女性層をどうつかんでいくか。裏を返せば、それ以外の層は総取りできる可能性が高いとも言える。今春にはコンビ結成から10周年を迎えるだけにご祝儀オファーも含めたレギュラー出演などのポジティブな動きが期待できるだろう。