文:赤井大祐(FINDERS編集部)
毎週だいたい1社ずつ、気になるスタートアップ企業や、そのサービスをザクッと紹介していく「スタートアップ・ディグ」。第10回は、業界内において異例の躍進を見せる「セクシャルウェルネス」ブランドの『maude(モード)』を紹介する。
10億円超の資金調達
コンドームや低用量ピルといった、大きく「性」にまつわるアイテムは、いわゆる「アダルトグッズ」と同じように日常生活とは切り離されたものとして存在してきた(生理用品でさえ、テレビ番組などで扱われることは稀だ)。
しかし、近年「フェムテック(=Female Technology)」と呼ばれる女性のウェルネスを目指す分野のテクノロジ―企業の台頭と共に、切り離されたものとしてではなく、一般的な生活に存在するものとして向き合い、扱っていく潮流が生まれた。
フェムテック企業は2017年時点でおよそ50社程度だった言われているが、2020年には484社にまで急増。2025年にはその市場規模はおよそ500億ドル(約5兆6千億円)にまで成長すると言われている。
そんな中でも世界的に注目を集めるのが2018年4月に米・ニュ―ヨークで創業されたセクシャルウェルネスブランド『maude(モード)』だ。
同ブランドを運営するMaude Group社は、フェムテック産業の爆発的な広がりとともに成長。今年5月には約6億円の資金調達を行い、合計調達額は同分野では異例となる10億円超となった。
ちなみに「セクシャルウェルネス」とは、セクシャリティに対して身体的、感情的、精神的、社会的にも健康な状態であることを指す言葉だ。もちろん女性に限らずあらゆるセクシャリティに当てはまるものであることは忘れてほしくない。
「分断」をなくすためのラインナップ
maudeで扱われるアイテムはコンドームや潤滑剤、バイブレータを中心に、バスソルト、オイル、キャンドルなど。直接的、間接的にセクシャルウェルネスを高めるためのものが、モダンなデザインとともに揃えられている。
maudeをスタートさせた当初はバイブレータ、潤滑剤、コンドームの3種のラインナップで始めたというが、実はこの組み合わせにこそ、maude、そしてCEOのエヴァ・ゴイコエチェア氏の思想、戦略が宿っている。
「私がある投資家から受けた意見は、"必要なのは1つのヒーロープロダクト(看板商品)だ”というものでした」「しかし、それは市場の分断を助長するだけだということを私は言いたかったのです。その分断とは、セックストイやデバイスは薄暗いアダルトグッズ店にあり、コンドームや潤滑剤はドラッグストアにある状況のことです」と『shopify plus』の取材にゴイコエチェア氏は答えている。
つまり、それぞれ異なる売り場にあったバイブレータ、コンドーム、潤滑剤を同列に扱い、購入できる場を設けることで、それぞれのアイテムがよりシームレスに存在できることを狙っている。必需品だけでなく、セックスやマスターベーションを「楽しむ」道具、つまり自身の「セクシャルウェルネス」をより向上させていくための道具も私たちの「生活」において必要なものとしてあるべき、という思想が見えてくる。
もちろん、「薄暗いアダルトショップ」の外へ向かうための要素は組み合わせだけではない。プロダクトデザインはもちろん、知的で上品な印象を受けるECサイトやSNSの投稿が、よりヘルシーなブランディングに寄与している部分は大きいだろう。
現在のmaudeの顧客年齢層は、18歳から25歳が25%、45歳以上が25%、その中間が50%ときれいに分かれるという。若い男性を頂点に、そこから年齢と属性が離れるほど「性」については存在しないもの、あるいは触れるべきではないものとされがちな旧来的な風潮に対して、年齢、セクシャリティを限定しないブランディングも大きく支持される理由となっているのかもしれない。
今後ますます盛り上がりを見せるであろう、フェムテック、そしてセクシャルウェルネス産業。日本での趨勢も注視していきたい。