文:赤井大祐(FINDERS編集部)
毎週だいたい1社ずつ、気になるスタートアップ企業や、そのサービスをザクッと紹介していく「スタートアップ・ディグ」。第9回は、トランシーバーに代わる、次世代のコミュニケーションツールとしてのグループトークアプリ、及び専用のヘッドセットを開発する『株式会社BONX』を紹介する。
「スノーボード中に会話したい」から生まれた次世代ツール
株式会社BONXは、代表取締役CEO宮坂貴大氏が「雪山で使いたいコミュニケーション」を作ろうという思いから、2014年に創設された。
BONXは片耳タイプで軽量かつ安定性の高いヘッドセットBONX Gearシリーズを装着し、スマートフォンアプリ「BONX」を通じてグループトークを行うものだ。
アプリ内で設定したルームに入ったら、あとはしゃべるだけ。声に反応して自動で通信を開始するハンズフリーモードと、ヘッドセットのボタンを押している間だけ通信できるプッシュトークモードとで切り替えながら使用できる。
お互い電波さえ届けば、世界中どこにいても常時繋いでおける。そのうえ接続が切断されても、電波さえ戻ればスムーズに復帰可能。いちいちスマートフォンを取り出す必要もない。
息切れや環境音といったノイズは独自のノイズフィルターが除去してくれる。話し声だけを拾って、トークルーム内の全員に届けてくれるということだ。一般向けでは月額利用料無料で、10人まで同時通話可能だ。
先述したとおり、BONXは代表の宮坂氏が「雪山で」スノーボードなどのエクストリームスポーツを楽しみながら、仲間とコミュニケーションを取りたいがために生み出したものだという。
確かに、最初にヘッドセットを装着し、アプリを起動しておけば、いちいちスマホを操作する必要ない。音声が一方通行にならず、複数人が同時に話すこともできるので、常に隣にいるかのような気軽さで会話することができる。外れやすいBluetoothイヤホンのように雪山に落とす心配もなさそうだし、防水性能、耐久性も高く設定してあるということだ。
ノンデスクワーカーだけでなく、リモートワークにも
スノーボードでの利用時もそうだが、キモとなるのは、発話時のみお互いの存在を認識し、そうでない時はそれぞれの時間を過ごす「オン・オフ」の切り替えにある。なおかつそれが非常にスムーズであるという点だろう。特に効果が現れる場面は業務利用時かもしれない。
業務利用には、「BONX WORK」というビジネス利用向けのアプリも用意されている。
活用シーンは、主に小売、介護、飲食、宿泊施設といった「ノンデスクワーカー」と呼ばれるカテゴリーに属する業種が多い。目の前の作業やお客さんに集中し、対応をしながらスタッフ同士臨機応変に連携を取る必要がある。そのため、従来であればトランシーバーを利用するのが一般的だったが、BONXであればスマホとヘッドセットのみで対応可能というわけだ。
基本的には音声による通話がメインとなるが、例えば写真を共有する必要があれば、ルーム内のチャット機能を使って送ることもできる(プロフェッショナルプランのみ)。また、通話時の会話は独自のアルゴリズムを用いた音声認識によって自動で文字起こしされる。お客さんとの大事な会話や業務連絡をあとから見返すことができる。
もちろんその他にも、工事現場や工場、運輸業などさまざまな「ノンデスク」領域で活躍する。今年7月に発表された総額約7億円のシリーズD資金調達のプレスリリースにおいて、主要投資会社のJR東日本スタートアップ株式会社代表の柴田裕氏は「スノーボーダーたちが愛用する音声デバイスを、油にまみれた鉄道現場に導入する」「鉄道のDXを加速」させるツールとして語っている。
ちなみにこのBONX、リモートワークでも効果を発揮するという。兼ねてからコミュニケーションのハードルの高さが指摘されるリモートワーク。新入社員らがちょっとした質問をしづらいがため、リモートワークを採用していても入社しばらくは出社をしてもらう、という対応を選ぶ企業も少なくない。基本的に個人で業務を進めながらも、必要なときだけ「気兼ねなく」質問できる環境は、新入社員でなくとも嬉しいだろう。
コロナ禍も明けようというこのタイミング。さまざまな業種において改めて働き方を見直すフェーズとなっている。そしてどんな仕事でも中核をなすのは、結局のところ「コミュニケーション」であり、この原則は今のところ変わらなそうだ。自社、あるいは自身にあったコミュニケーションツールとして、一度検討してみても良いかもしれない。