EVENT | 2021/11/02

創業3年で時価総額6000億円超のユニコーン企業へ。グローバル人材を雇うあらゆる手間を丸投げできるサービス『Deel』

文:赤井大祐(FINDERS編集部)
リモートワークが普及したとは言え、雇用のスタイルはそこまで大きく変わらなかった。...

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文:赤井大祐(FINDERS編集部)

リモートワークが普及したとは言え、雇用のスタイルはそこまで大きく変わらなかった。都心の企業が地方在住者を雇うケースはあれど、あくまで日本国内の話。海外居住者を雇うケースは滅多に聞かない上に、あったとしてもそのほとんどは日本人だろう。

人口が減少し続ける日本と比べ、成長著しいインドやタイをはじめとするアジア諸国には、若く優秀な人材が豊富だと言われる。しかし、彼ら、彼女らを日本の企業が現地で雇うためにはハードルがある。業務上のコミュニケーションなど実務的な部分は当然だが、それ以前にバックオフィスが担当する事務作業の煩わしさは大きいだろう(当然、国際市場における日本、および日本企業のプライオリティの低さというものはあるが)。

グローバル人材の雇用を専門に扱う『シロフネ』によれば、社会保険や労災についての取り決めや、支払い通貨の調整、情報漏えいのリスクなど懸念点は多いという。優秀かもしれない人材を雇うためにかかるコストのことを考えると企業が及び腰になるのもうなずける。

毎週1社ずつ、気になるスタートアップ企業や、そのサービスをザクッと紹介していく「スタートアップ・ディグ」。第6回は、そんな海外人材の雇用をサポートしてくれるツール『Deel』(米)を紹介する 。同社は今年に入ってからユニコーン企業(評価額が10億ドル以上の未上場のスタートアップ企業)の仲間入りも果たし、投資家からの注目も大きい。このサービスの普及が日本企業がこれまで以上にグローバル人材へ目を向ける契機になるかもしれない。

現地の法律や慣習まで詳細にカバー

「コストや時間、余計な管理を必要とせず、数分で海外の従業員を雇用できる」と謳う『Deel』。サービス内容は極めてシンプル。グローバル人材雇用時の手間を軽減してくれるというものだ。

deelより

まずコンプライアンス面。被雇用者の住む国や地域に沿った税金や社会保障、最低賃金、退職要件などに関する管理、手続きをすべてDeelが請け負ってくれるという。例えばアメリカとケニア、日本とではこれらの条件やそれにまつわる法律もまったく変わってくるだろう。一つの国であればまだしも、複数の国から人を雇うには雇用前のリサーチに割く時間も膨大になってくる上に、年々変化する法律もですべてキャッチアップする必要がある。そういった些細なミスからトラブルに発展するケースもあるはずだ。しかし、Deelを通じて雇用する場合、仮にトラブルが発生したとしても、雇用責任はすべてDeelが負うというから驚きだ。

画像は日本の雇用条件に関する説明のページをGoogle翻訳にて日本語表示にしたもの(元ページは英語)。法律によって規定されているものから慣習まで、かなり詳細に記載されていることがわかる。

Deelは世界に200以上の法律事務所とリーガルパートナーとなることで、これを可能にしているとのことだ。

給与の支払いも非常にシンプルだ。支払いを行うメンバーとその居住国、そして支払い額が現地通貨で一覧表示される。さらに合計でいくら支払いがあるか、自国の通貨で合計が表示されるので、それを確認してワンクリックで支払い完了だ。

また各種税金や年金、手数料などもすべてDeelが管理し、それを差し引いた額を支払ってくれる。支払いは現地の銀行口座宛に現地通貨で行うことができるうえに、Deelによる手数料は発生しない(SWIFT送金による手数料は発生)。現在Deelでは日本円を含む120の通貨に対応しているとのことだ。

さらにワーカーとしてDeelを利用する場合、手数料10ドルを支払うことで「Deel Card」というクレジットカードを発行可能。業務によって得た給与を銀行口座に送ることなく、米ドルとして自身のDeelアカウントに持っておき、このカードを通して使用することができる。これによって、フィリピン・ペソや、タイ・バーツを始め、国際的に不安定な通貨を利用する地域の人も、比較的安定した資産を運用することができる。

あるいは、「Coinbase」「PayPal」「Revolut」といった既存のフィンテック系サービスのアカウントへの振り込み(送金)も可能。手数料や為替レートによるロスを減らすことができる。

現在サービスを利用する企業は1800社を超える。DropboxやShopify、Notionといった、日本でもおなじみのサービスを提供するテック企業らもDeelを利用しているとのことだ。

利用料は、ワーカーは1事業者あたり、月額49ドル。事業者はワーカー一人あたり月額499ドルとのことだ(現在ホームページ上では、事業者側の利用料は無料となっている)。

同分野で最高評価額を獲得

2018年にアレックス・ブアジズ氏によって創業されたDeelは猛烈な勢いで投資家からの評価を集めている。今年4月には1億5600万ドル(約168億円)を調達し、12億5000万ドル(約1400億円)の評価額を勝ち取り、見事ユニコーン企業の仲間入りを果たした。

さらに、今年10月21日には、シリーズD資金調達で4億2500万ドル(約500億円)を調達し、調達総額が6億3000万ドル(約710億円)を超えたと発表。これにより同社の評価額は55億ドル(約6250億円)に。Deelは今回の投資によって、グローバルな雇用・決済・コンプライアンス分野で最高の評価額を得ることとなったという。

今後ますます激化していくであろうグローバル人材争奪戦。日本企業の積極的な参加が急がれる。