毎週1社ずつ、気になるスタートアップ企業や、そのサービスをザクッと紹介していくシリーズ「スタートアップ・ディグ」。第3回は、アプリ上で購入した建物を、自宅・ホテルとして運用することができるサービス『NOT A HOTEL』。
2015年に前澤友作氏率いるZOZOグループ(当時はスタートトゥデイ)によって買収されたEC支援企業のアラタナ創業者にして、ZOZOテクノロジーズの取締役も務めた濱渦伸次氏が2020年4月に創業。ホテル、旅行、観光というものが大きく揺さぶられたこのタイミングで、これまでにないホテル事業にどんな活路を見出しているのだろう?
文:赤井大祐(FINDERS編集部)
ホテル業界にテックが本格参入
『NOT A HOTEL』はこれまでにないホテル・不動産業態だ。まずは基本的な枠組みから見ていこう。同社が管理する建物を不動産として売り出しており、購入者は「1棟購入」と「シェア購入」の2通りの方法を選んで買うことができる。
1棟購入は文字通り、建物全体を購入し、年間360日分の所有権を有することができる。一方シェア購入の場合は年間30日分の所有権を購入することができ、別の購入者と建物をシェアすることとなる。そして購入した建物は住居として使用することもできるが、同時にホテルとして貸し出すことができるのだ。
驚くべきは、購入者側にかかる運用コストの低さだ。専用のアプリからスケジュールを入力しておくだけで、住居として使用する日とホテルとして貸し出す日を設定でき、ホテルとしての貸し出しからアメニティ等設備の管理、貸し出し分の収益の受け取りまで、ほぼすべての手続きを運営サイドで請け負ってくれる。
また、購入から建物の利用、貸し出しはもちろん、ホテル利用をする際も部屋の予約やチェックイン、部屋の解錠やテレビ、エアコン、照明のコントロールに至るまで、ほぼすべてをスマートフォン上で完結できるようになっている。ホテル業界に本気でテクノロジーを持ち込み、変革を起こそうという気概を感じずにはいられない。
世界の富裕層の心をつかめるのか?
ここまではサービスのシステムなどを見てきたが、実際のどの程度の規模感になるのか。少なくとも現段階においては、超富裕層をターゲットにした取り組みであることは間違いない。
例えば別荘地として名高い栃木県・那須に建設予定の「NOT A HOTEL NASU MASTERPIECE」は、世界的建築家の谷尻誠氏と吉田愛氏によるSUPPOSE DESIGN OFFICEが建築設計を手掛け、屋内面積286.09㎡の4LDKに加え、214.88㎡のテラスを有する大邸宅だ。
NOT A HOTEL NASU
そして1棟購入の販売価格は驚きの8億3760万円。シェア購入でも6980万円と、実際に購入できるのはごくごく一部の人、あるいは法人などに限られるだろう。
NOT A HOTEL NASU
一方で代表の濱渦氏は「将来的には1000万円を切るぐらいまでのラインアップをそろえたいと思っています」とも話しており、これからサービスの裾野を広げていくようだ。
ちなみにこちら、ECサイト上から数クリックで購入申し込みができる。ここまで不動産購入の手間が簡素化したことも革新的と言えるが、同時に8億超の買い物をEC上で完結できてしまうというのも驚きだ。
日本には世界の超富裕層がなかなか遊びに来ないということは兼ねてより言われている、その理由は至ってシンプル「お金を使う場所がない」「買うものが無い」というものだった。
NOT A HOTEL AOSHIMA
ドン・キホーテで抹茶フレーバーのお菓子を爆買いしてもらうのも必要なことかもしれないが、同時に観光立国としてのポジションを確立しようというのであれば、桁違いの超富裕層たちが気持ちよくお金を落としていける環境の構築も重要になってくることは想像に難くない。
一度は完全にストップした日本の観光業が再び動き出すためにも、これまで取りこぼしてきたニーズをすくい上げるいことができれば、日本の観光業はまた一歩前進することができるのではないだろうか。そして今後の展開次第では、NOT A HOTELの存在がそのままリゾート地としての格上げにつながったり、「NOT A HOTELがある場所」というブランディングが成立するシナリオも考えられる。いずれにせよさまざまな影響力を発揮することに期待したくなるサービスだ。