LIFE STYLE | 2021/09/06

「ガンのアキレス腱」をカナダの大学が解明。腫瘍の成長を促す酵素が判明。ガン克服にまた前進

Photo by Shutterstock
文:岩見旦

医療の進歩は目覚ましいもので、かつて「不治の病」とされて...

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文:岩見旦

医療の進歩は目覚ましいもので、かつて「不治の病」とされてきた病気が克服されたケースもある。エイズもさまざまな治療薬が開発され、適切な治療を行うことで、患者は普通の生活を送ることが出来るようになった。

そんな中、ブリティッシュ・コロンビア大学の研究チームは8月27日、医学雑誌『Science Advances』に掲載した論文にて、「ガンのアキレス腱」を解明したと発表した。

致死率の高いガンの新たな治療法の足がかりに

ガン細胞が集まってできる「固形ガン」は、成長するための栄養や酸素を血液から得ている。しかし、腫瘍が成長すると、作られる血管が間に合わないなどの理由で、すべての部分に栄養や酸素が行き届かなくなり、低酸素環境に陥る。この状態が続くと、ガンは悪性化すると知られている。

今回の研究で、低酸素環境で腫瘍を活性化しているタンパク質(酵素)が「CAIX」であることが分かった。この酵素は他の臓器へのガンの転移を促進しているという。

論文の筆頭著者である同大学医学部生化学・分子生物学科教授のショウカット・デダー氏は「ガン細胞はCAIXに依存して生き延びており、これは最終的に『ガンのアキレス腱』になります。CAIXの働きを阻害することで、ガン細胞の増殖を効果的に抑えることができます」と話す。今回の発見により、乳ガン、膵臓ガン、肺ガン、大腸ガン、前立腺ガンといった致死率の高いガンの新たな治療法の足がかりになることが期待されている。

臨床試験実施。新たな治療法の道を切り開く

研究チームは、すでにCAIXを強力に阻害する化合物として「SLC-0111」を特定しており、現在フェーズ1臨床試験を実施している。乳ガン、膵臓ガン、脳腫瘍のマウスを使った実験では、その効果が実証されたという。その一方で、この化合物は健康な細胞も攻撃するため、副作用の懸念があるようだ。

また今回、研究チームは「ゲノムワイド合成致死スクリーニング」と呼ばれる手法で、CAIXの別のウィークポイントを明らかにした。ショウカット氏は「CAIXが、フェロトーシス(鉄依存性細胞死)によるガン細胞の死滅を阻害していることが分かりました」と述べ、「SLC-0111などのCAIX阻害薬と、フェロトーシスを促す化合物を組み合わせることで、ガン細胞の壊滅的な死滅を引き起こし、腫瘍の成長が抑制できるでしょう」と結論付けた。また、「今回の研究は、フェロトーシスによる細胞死を促す薬剤や化合物の発見を目指す国際的な取り組みにとって、大きな一歩となるでしょう」とも。

ガンの克服へ向け、大きな前進となった今回の研究。ガンで苦しんでいる人にとって、新たな希望になったのではないだろうか。