12回目となる「高橋晋平のアイデア分解入門」。普段はおもちゃやゲーム、遊びを作り出す仕事をしてる私、高橋晋平が、身の回りにある物から、アイデアや工夫、発想の種を見つけ出そうという連載です。今回で最終回になります。
今回のテーマは「ペットボトルコーヒー」です。皆さん、ペットボトルコーヒーを初めて見たとき、どう思いましたか? 今でこそ浸透しきっているペットボトルコーヒーですが、僕は正直、受け入れられなかったんですよね。今回は、その話からしたいと思います。
高橋 晋平 (たかはし しんぺい)
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おもちゃクリエーター、アイデア発想ファシリテーター。秋田県生まれ。2004年に株式会社バンダイに入社。第1回 日本おもちゃ大賞を受賞し、発売初年度に国内外累計335万個を販売した「∞(むげん)プチプチ」など、イノベイティブトイの開発に約10年間携わる。14年に株式会社ウサギを設立。玩具・ゲームの考え方を活かした事業を企業と共同開発し、企画アイデアの発想セミナーやワークショップを全国で実施している。得意なのは笑い・遊びのある企画を作り、話題にし、販売につなげること。TEDxTokyoでのスピーチは累計200万回再生。近著『1日1アイデア』(KADOKAWA)など、著書多数。
構成:北村有
ペットボトルコーヒーは、近年稀に見るイノベーション
サントリー「CRAFT BOSS」が発売されたのは2017年頃。ペットボトルコーヒーが出回りはじめてからすでに5〜6年ほど経ちますが、僕の第一印象は「でかい」+「美味しくなさそう」でした。正直に言って、どう考えてもコンビニコーヒーのほうが美味しいでしょ! と思っていたんです。
それが今となっては、完全に受け入れている自分がいる。美味しいし、外に出かけるときは必ずといっていいほど買いたくなる。コンビニコーヒーよりも、わざわざペットボトルコーヒーを選ぶときもあるくらいです。
発売してすぐのころ、子どもを連れて公園に行ったとき、その場にいたママ友たちがみんなペットボトルコーヒーを持ってたんですよ。それを見た瞬間に完全に受け入れはじめる自分を感じて、一度買って飲んでみたら、見事にハマりました。まず飲みやすくて美味しいし、蓋を閉めて持ち歩けるのも便利ですよね。
こうなってくると、どうして最初から受け入れなかったんだろうと不思議に思います。
「コーヒーはペットボトルに入れるものじゃない」って先入観を持っている人が多かったことは大いにあると思うんです。ジュースやお茶と比べ「一杯ずつこだわって淹れる飲み物」みたいな印象があったのかもしれません。ですが、今の若い世代にとっては、ペットボトル飲料は生まれた頃からあるもの。ペットボトルに入れても飲みやすいような味や濃さに調整して売り出したら、ちゃんと商品としてヒットした。丁寧な仕事の例ですよね。
ペットボトルコーヒーが大成功した要因として、まず「ペットボトルの形」が挙げられると思います。ほかの清涼飲料水などのペットボトルと比べると、ちょっとずんぐりとしたシルエットですが、ペットボトルコーヒーが登場するまではほとんど見かけなかったと思います。
なおかつラベルやキャップの色も含め、コーヒーを「めんつゆに見せない」ように、然るべきデザインに落とし込んでいる。またご存知の通り、これまでの缶コーヒーは黒や金を基調としたサラリーマン的デザインの象徴とも言うべきものであり、それがコーヒーのあたりまえでもありました。サントリーはこれを見事に突破したと言えるでしょう。これこそデザインが成し遂げた「イノベーション」の事例だと言えると思います。
イノベーションは「突飛なことをやらない」
ペットボトルコーヒーは決して突飛なことをやったわけではありませんでした。
実直にコーヒーとペットボトルそのものを見つめ直し、2つの間にある違和感を丁寧に読み取り、そして取り除いただけ、とも言えます(もちろん関係各所の調整など、細かい苦労事などは山のようにあったと思います)。最新テクノロジーもそれほど駆使されていなかったことでしょう。
ですが、いざペットボトルコーヒーが登場してみると、どう考えてもこっちのほうが便利なんですよね。蓋をしめてカバンにしまったり、一口だけ飲んでそのままにしておけたり。
ほとんどの人が考えつかなかったけれど、普及した瞬間に多くの人が「そうそう、これがやりたかったんだよ」とさもずっと前から考えていたかのような錯覚に陥る。優れたアイデアや「イノベーション」にはそんなものが多いかもしれません。
たとえば、もっとビールが飲みやすくするために容器を変えよう、と思ったらどうすればいいんだろうと、考えてみるところから始めてみましょう。パッケージはどうするべきか。キャッチコピーは。売り出し方のキャンペーンはどんな感じがいいか。そもそも容器を変えるのがベストな選択なのか…… と日常的に考えてみましょう。優れたアイデアの種はきっとそういった地道な思考実験からこそ生まれるんだと思います。
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