ITEM | 2023/08/14

人気ブランドがいきなり倒産!? だけど「Eバイク業界」がこれからさらに注目を集める理由

マイクロモビリティの時代がやってくる。そう言われてから久しいですが、それはもっと未来の話だと捉えていた人が多かったのでは...

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マイクロモビリティの時代がやってくる。そう言われてから久しいですが、それはもっと未来の話だと捉えていた人が多かったのではないでしょうか。しかし、コロナ禍によって、自動車や飛行機など、大量かつ高速に移動する乗り物だけで良いのか疑問は大きく加速しました。

押し合うように乗っていた満員電車の不快さを再確認し、自動車の交通量が減れば、大気汚染が急速に改善されることも経験しました。同時に自転車の魅力は見直され、世界的に大きく売り上げを伸ばしました。その自転車の未来を先導するE-Bikeについて考えてみました。

菊地武洋

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自転車ジャーナリスト。80年代から国内外のレースやサイクルショーを取材し、分かりやすいハードウエアの評論は定評が高い。近年はロードバイクのみならず、クロスバイクのインプレッションも数多く手掛けている。レース指向ではないが、グランフォンドやセンチュリーライドなど海外ライドイベントにも数多く出場している。

意外とちゃんと知らないE-Bikeのメリット

ところで、E-Bikeの定義とはなにか知っていますか? 子乗せのついたママチャリタイプが電動アシスト自転車、VanMoofのようなオシャレなのがE-Bikeと思われがちですが、実は同じです。

ともに、道路交通法では「人の力を補うため原動機を用いる自転車」の規定に従い、搭乗者がペダルを漕がないと走行しない構造であることや、時速 24㎞までアシスト機能が働き、それ以上の速度になると補助がなくなることなどが定められています。

自転車が移動手段として優れているのは、なんと言っても機動性の高さ。バスや電車のように路線図に縛られることなく、時刻表も関係なし。思い立ったタイミングで、目的地に向かって最短ルートで移動できます。通勤時間の電車が遅延するのは日常茶飯事ですが、自転車で15㎞程度の移動であれば、信号の運が悪い日だとしても誤差は5分程度。ドアtoドアで考えれば、バスや電車よりも早く、タクシーよりも経済的です。ただ、途中に坂があったり、風向きによって走るのがツラいのも事実。そして、それを解消するのがE-Bikeなのです。

E-Bikeのメリット
・急な坂道もラクに上れる
・向かい風も気にならない
・安全に走り出せる
・ダイエットにも効果的
・移動距離が伸びる

というのが、E-Bikeが従来のペダルバイクに対するアドバンテージです。坂道と向かい風が気にならないのは当然としても、“安全に走り出せる”のがメリットなの? と思う人もいるはず。けれど、このメリットは平地でも効果を発揮します。なぜなら、発進時は自転車がもっとも不安定な状態。自転車に苦手意識がある人ほど、素早く加速して状態が安定するのは、大きなメリットなのです。

そして、ダイエット効果も懐疑的に思うでしょう。某国内メーカーが通勤・通学者でモニターテストした結果、E-Bikeのほうが体重が落ちていたのです。これはペダルバイクの人が坂道や向かい風を言い訳に利用頻度が落ちるのに対して、E-Bikeの人たちは乗車頻度が高いのが原因だといいます。1回あたりの運動量はペダルバイクのほうが多くても、ダイエットに効果的な有酸素運動は継続と頻度のほうが重要なので、考えてみれば、これも納得の結果です。

ヘルステックとの連動や高齢化社会での移動手段として注目

E-Bikeが初めて発売されたのは1993年。ヤマハとホンダが発売すると、それまで自転車の売れなかった函館や神戸といった、坂道が多く自転車の売り上げが小さかった町で好評を博しました。続いて、富裕層の住むエリアで普及し、現在は通勤や通学で使う人も増えており販売台数も増えました。

2021年の統計データによると、ママチャリタイプの台数が微減している一方で、購入平均額も2021年には10万円台まで伸びています。これはスタイリッシュな街乗りE-Bikeと、スポーツタイプのE-Bikeが影響を与えているからでしょう。

新世代E-Bikeの特徴はいくつかありますが、フレーム内にバッテリーを収めることでスタイリッシュになりました。同時にバッテリー容量が大きく、パワーユニットの省電力化によって長距離走行が可能に。中にはカタログ値ながら、200㎞以上のアシスト走行を謳うモデルもあります。コースや走り方でアシスト距離は変わってしまいますが、ちょっとした峠を越えるとスタミナ切れになっていたのは昔話。最新モデルなら富士山の5合目まで走っても、なんら問題ありません。

コネクティビティの充実も一気に進みつつあります。たとえばスペシャライズドのアプリは、走行時間、距離、速度、獲得標高、消費カロリーといった健康やフィットネスの目標達成、ライダーに必要な指標や、論理的なトレーニングに役立つパワーデータを画面に表示するだけでなく、Apple Health、Garmin、Wahoo、Stravaなどの提携アプリとシームレスに統合しています。

ジャイアントはスマホと連携して最適なルートをナビゲーションしたり、ハードウエアのアップデートもアプリを介して行えます。ボッシュのようにアプリから施錠することが可能なメーカーも増えており、先日試乗したジヤトコのプロトタイプは、専用アプリから発進時のアシスト力コントロールも可能になっていました。わざわざスポーツをするのではなく、通勤でのフィットネス効果も記録、ヘルステック系アプリと連動して分析するようになっています。

むずかしく考えなくても、ペダルを漕いで移動するのは気持ちがいい。その気持ちいい状態を持続すれば距離は伸び、運動量が増える。サイクリングは有酸素運動なので、ペースを守れば脂肪を燃やしながら、長い時間続けることができます。サイクリングとウェルネスは切っても切れない関係にあります。

高齢化社会を迎え、自動車運転免許の自主返納も増えつつあります。公共交通機関の利便性が悪い郊外で自転車は免許返納後の移動手段の主役です。E-Bikeはシニア層のウェルネスの面からもポジティブな面しかないのです。転倒のリスクもありますが、シニア向けE-Bikeの開発は大きな課題であると同時に、大きな市場にもなりえるのです。たとえばカワサキモータースが発売した“ノスリス”のような3輪車であれば、転倒の心配はありません。また、荷物の運搬も可能な仕様なのでカーボバイクとしての可能性も拡がります。

一方で課題も山積みだが…

「VanMoof X4」に乗る筆者の菊地さん

都市におけるE-Bikeの未来は明るいが、課題も多い。自転車は軽車両なので、例外を除けば車道を走る乗り物です。しかし、自動車だけを走らせることを前提とした設計がなされているため、E-Bikeにとって車道は必ずしも快適な空間だとは言えません。

日本でも車道の左側に青いペイントで自転車専用通行帯が増えつつありますが、まだまだ距離も短く、路上駐車なども多いので安全&安心して走れません。自転車はオランダをはじめとする欧州が先進国ですが、彼らでさえ街や車道をどのように走らせるかは発展途上の段階です。

駐輪場の問題もしかりです。ニューヨークやパリ、ロンドンで浸透しているシェアバイクが東京で普及しないのは、利便性のいい場所に駐輪施設を必要なだけ設置できないからでしょう。

最後に大ヒットしたE-Bike、VanMoofについても触れないわけにいかないでしょう。シンプルでスマートなデザインのVanMoofは世界的に大人気でしたが、あっけなく破綻して倒産しました。現在、再建の道を歩んでいる状態ですが、明るい未来とは言い難い状況にあります。

VanMoofのウェブサイトは残っているが現在は実質停止状態に

何度となく試乗し、かなりの距離を走りましたが、その時は不具合を感じませんでした。しかし、オーナーたちの声を聞くと、品質は耐久性に欠けており、修理などのサービス体制は脆弱で酷いモノだったようです。独自性の高いプロダクトだった故に、メーカー修理しかできないのも、現在ではリスクだったとしか言えません。

自転車を作るというのは、思うほど簡単ではないのです。デザインだけでモノ選びをすれば、走行中に壊れて大怪我をする可能性もあります。E-Bikeの中には道交法を守らぬ粗悪品が少なくありません。さらに、パワーユニットに問題が起きれば、町の自転車屋さんでは修理できないと考えていいでしょう。

ECで販売される相場よりも安い製品、速さや力強さを謳うE-Bikeは魅力的にみえますが、アフターメンテナンスを考えると受け取りは実店舗のほうが安全です。また、パワーユニットはヤマハ、パナソニック、ボッシュ、シマノ、バーファン製は国内にサービス拠点があるので安心できます。