ITEM | 2023/07/21

「ググるは易く、行うは難し」?人間は間違えるからこそ目指すべき「情報の道具化」

Photo by Firmbee.com on Unsplash
Googleで検索すればどんな情報もたちまち手に入る...

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Googleで検索すればどんな情報もたちまち手に入る。もしくはChatGPTに聞いてみれば、それは理解しやすいものへと噛み砕いてもらえるかもしれない。だが、結局のところ人間、あるいは機械がその情報を受け取り、適切な形で処理しなければ意味をなさない。であればこそ、デザインすべきは「情報を適切な形に処理できる」インターフェイスではないだろうか。

本記事は2015年1月25日に刊行された、渡邊恵太『融けるデザイン ハード×ソフト×ネット時代の新たな設計論』(株式会社ビー・エヌ・エヌ新社)の内容を一部抜粋・再編集したものだ。

渡邊恵太

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明治大学総合数理学部 先端メディアサイエンス学科 准教授。博士(政策・メディア)(慶應義塾大学)。シードルインタラクションデザイン株式会社代表取締役社長。知覚や身体性を活かしたインターフェイスデザインやネットを前提としたインタラクション手法の研究開発。近著に『融けるデザイン ハードxソフトxネットの時代の新たな設計論 』(BNN新社、2015)。

ググるは易く、行うは難し

ウェブ上には様々な形式のデータが集積され、共有されている。また、常時接続の無線ネットワークやモバイルデバイスにより、人々はいつでもどこでも、あることを「知る」ことは容易になった。そして人々は知り得た情報を利用し、効率良く自身にメリットのあるように行動できるようになった。

しかしながら、どんなに価値ある情報がウェブに集積し、検索効率が向上しようとも、その情報を目先の対象の問題解決に利用するためには、人が行動し問題に適用しなければならなかった。たとえば、おいしい和食のレシピデータがあっても、それを知っただけで料理ができるわけでは当然なく、それにもとづき人が調理を実行しなければその料理は実現しない。しかも人がそのデータの解釈を間違えたり見間違えなどをしてしまえば、その通りに実現することはできない。つまりデータの視点から見ると、人の行為が介在しなければ、実世界の問題に対してデータを適用することができないのだ。そして、そこには人の知覚や身体能力、感覚、解釈などが介在してくる。ポジティブに捉えれば、人が介在することは問題に対して工夫したり状況にうまく対応できる柔軟性として捉えることもできるが、一方でネガティブに捉えれば、それは人が情報を見ることへの注意力や的確な行動力を問われることであり、状況によっては人への負荷になるとも考えることができる。

メリット/デメリットについては議論はあるものの、ウェブなど膨大なデータが利用可能状態であるにもかかわらず、そのほとんどを人が注意深く介在しなければ問題に適用できないインタラクションモデルでは、情報資源の活用という点ではボトルネックになってしまう。このような、検索が容易になったことですぐ情報を得られるようになっても、それにもとづき行動しなければならないことを、「言うは易く、行うは難し」にたとえて「ググるは易く、行うは難し」と筆者は呼んでいる。要するに、データが実世界に対して間接的であることが問題であり、その解決方法が必要になるのだ。

そこで筆者は、人々が利用する道具自体にウェブ上のデータを結びつけ、物理的に制約を与えて、人の行動を直接的に支援する考え方である「情報の道具化」を提案し、試作研究している。

情報の道具化の事例

では、情報の道具化とは具体的にどういうことだろうか。ここからは、筆者の試作「smoon」「Integlass」「LengthPrinter」という3つのシステムを紹介しながら考えていく。

smoon

まず、「smoon」という計量スプーンを紹介する。これは、物理的に変形するロボット型計量スプーンである。物理的に変形することで、計量すべきサイズに変形し、対象の量を的確に計量できるものだ。デジタル化されたレシピ情報に基づき適量を得られるように変形することで、ユーザー自身は計量行為と計量意識が不要になる。つまりユーザーは、smoonを利用すれば、対象をすくうだけでレシピの表記や適切な量を考えずに調理することが実現できるようになるのだ。

調理は、具材や調味料の量を間違えると味が大きく変化したり、うまく膨らまない、焼けないなどの問題が発生する。特に初めて作る料理では、レシピを見ながら慎重に適切な量を入れなければ失敗してしまうこともある。そのうえレシピの量の表記はグラムであったりccであったり、~カップ、~さじなどといった具合に量と体積が混在していたりと表記もさまざまで、なかなかわかりにくいものだ。さらに、その表記に合わせて計量カップや計量スプーンを利用し、適切な量を計量する必要がある。こういったことは、初心者や新しいレシピへ挑戦する際への障壁のひとつとなっているだろう。smoonはこういった課題を解決するものである。

Integlass

smoonは物理的制約によって容量に制限をつくる。しかしモーターを内蔵するため高価になりがちだったり、メンテナンスなどを考えるとデメリットもあった。そこで開発したのが、「Integlass」という計量カップだ。

Integlassは、スマートフォンを計量カップに取り付けることで、計量カップの目盛りの代わりになるようにしたものだ。取り付けたスマートフォンがレシピデータの中で使う液体などの容量を可視化し、ユーザは目盛りを読まずとも、「そこまで入れればいい」ということだけで計量できる。これによってウェブ上の情報の利用をスムースにする。Integlassはスマートフォンを利用しているため、斜めにしても、内蔵されている加速度センサが計量すべき容量の水平を表示してくれるので、平らではない場所でも計ることができる。

LengthPrinter

smoonやInteglassは、ウェブやデジタルの体積を取り出すものであった。同じように、「長さ」についても実世界に簡単に取り出して利用できないかと考え試作したのが、1次元プリンタ「LengthPrinter」だ。ウェブで家具などの買い物をしていると、実寸の大きさは把握しにくいという問題がある。たとえば42インチのテレビのサイズと言われてもピンとこないだろう。そのため、仕様の寸法を読んで、部屋の置きたい場所でメジャーを使って大きさを確認することになるわけだが、メジャーは基本的には1つだけであるため、縦横奥行きの全体の大きさを把握は難しい。

LengthPrinterは、貼って剥がせるマスキングテープを素材として、ユーザーはテープディスペンサーのような装置からテープを引っ張り出すだけで、自動的に製品の寸法の長さにカットしてくる。これを床や壁に貼ることによって、買いたい本棚の大きさや、42インチのテレビがどれくらいの大きさなのかといったことを、部屋の中で実際に「大きすぎる、小さすぎる、ぴったりである」と実感することができるようになるのだ。

smoon、Integlass、LengthPrinterと、それぞれは単機能ではあるが、いずれもインターネット前提の設計であり、ウェブで共有された人々の知識を誰でも簡単に道具として実世界の作業に利用できる。こういった道具のあり方は、段階としてはスマートフォンの次であると言える。

パソコンと違い、スマートフォンやタブレットは小型軽量でバッテリーも持続するため、印刷せずに問題解決を行う場所に持ち込むことができるようになった。一見、当然のことに思えるかもしれないが、問題解決を行う現場ですぐに情報検索を行い、それを利用できることは、問題解決に即応的であるばかりでなく、ウェブ側から見ても情報が活用されやすいことを意味する。今後は、ググるも易く、行うも易い世界がインターネットの力をさらに引き出し、人々の生活の質を向上させていくはずだ。

ネット前提の設計

情報を問題解決の道具のように利用するという考え方になるのは、今後の多くの機器の設計がインターネットを前提とするためである。インターネットを前提とするというのは、知識情報を常に人類で共有し、いつでも利用可能な状態にするという考え方である。既に私たちはほとんどの仕事や学びやコミュニケーションをインターネットやその上でのウェブを通じて行っている。しかし現在はまだウェブと物理世界で問題解決をするための道具は分れているため、知ることと、実際に問題解決のために道具を使用することの間には、人間が欠かせない。ウェブ上には問題解決のための情報が膨大にあり、検索も高速に行えるが、実世界での問題解決は、人間がそれを理解し行動しなければならない。その点では、ウェブの性能にとっては「人間の行動」の介在こそボトルネックとなりかねないのだ。

人間が情報を理解し行動するということは、「ウェブ上の情報をデコードする作業」とも捉えることができる。つまり、デジタル化やクラウド化は、実世界で起きた問題解決のノウハウを形式的な知識情報に落とすエンコードであったと捉えることができる。

インターネットを前提とした道具というと、IoT、「モノのインターネット」という発想があり、どちらかというとデバイスのネットワーク接続とセンシングがイメージされるが、道具への知識の直接適用もまた、IoTのテーマなのである。

紹介した3つのシステムのように、情報を何らかのかたちで物理的に作用するようにするか、あるいは人間の行動をより直接的に支援するような情報の利用方法が、これからさらに多様な分野で現れるだろう。なぜなら、ウェブがここまで大きなポテンシャルを持つ以上、その活用は大きな課題であり、そのテクノロジーのあり方は物理的世界にまで直接的に干渉が及ぶと考えられるからだ。このような際、アクチュエータを中心としたロボット技術の利用が有効な問題解決手法となると考えている。

筆者が「情報の道具化」と呼んでいるのは、この「情報の物理的作用や行動の直接的支援」のためのインタラクションだ。情報を知識として人が理解し、その理解に基づき行動をするのではなく、情報が直接的に道具として利用可能な状態にすることを目指すのだ。これにより、人間が情報を利用する負荷を軽減し、ウェブの力を利用しながら行動を支援したり、情報に基づく直接的な問題解決が期待できる。


渡邊恵太『融けるデザイン ハード×ソフト×ネット時代の新たな設計論』(ビー・エヌ・エヌ新社)