LIFE STYLE | 2023/07/05

海外移住に大失敗した日本人に共通する「ある傾向」…円安時代でもチャレンジしたい人に知ってほしいこと

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【連載】オランダ発スロージャーナリズム(52)
ここのところユーロに対し...

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【連載】オランダ発スロージャーナリズム(52)

ここのところユーロに対しての円安が止まりません。今年1月には約140円だったのに対して7月5日現在では158円に近づこうとしています。ドルに対しての円安はその都度大きく話題になりますが、あまりニュースになりづらいユーロ。2007年に1ユーロ160円を超えた時に大きくニュースになりましたが、実は今、またそれに近いところまできています。

これは日本のインバウンド的に見ると良いのかもしれません。実際に、こちらで会うヨーロッパ人は、誰も彼もがみんな「日本に行きたい!」「この夏は念願の日本に行く!」という人ばかり。もちろん食やアニメなどの日本文化の人気が大きく影響していますが、最近は「実は安いんだね!」という言葉が付け足されます。

一方で、日本人の海外挑戦はちょっと厳しい局面に入っているかもしれません。ロシアのウクライナ侵攻に端を発した超インフレ。ペースこそ収まったかもしれませんが、全体的には続いており、生活必需品からエネルギー関連まで、全体的にかなり値上がりしています。そして、ここに来ての激しい円安。

ということで、今回はオランダ在住日本人の筆者から見た、今、日本人が海外移住に挑戦する時の心構えやTipsをお伝えします。

吉田和充(ヨシダ カズミツ)

ニューロマジック アムステルダム Co-funder&CEO/Creative Director

1997年博報堂入社。キャンペーン/CM制作本数400本。イベント、商品開発、企業の海外進出業務や店舗デザインなど入社以来一貫してクリエイティブ担当。ACCグランプリなど受賞歴多数。2016年退社後、家族の教育環境を考えてオランダへ拠点を移す。日本企業のみならず、オランダ企業のクリエイティブディレクションや、日欧横断プロジェクト、Web制作やサービスデザイン業務など多数担当。保育士資格も有する。海外子育てを綴ったブログ「おとよん」は、子育てパパママのみならず学生にも大人気。
http://otoyon.com/

「自分で調べる」ができない人は現地での困難を乗り切れない

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海外移住後、8年目の生活に入っている経験者としての率直な感想を述べると、「海外移住したいと思っているんです」という方の約75%、4人中3人ぐらいに対して心からのオススメができません。

ここしばらく新型コロナ、そしてウクライナ侵攻と続いていたために、筆者の元への移住相談もしばらく止まっていましたが、それでも今年に入ってからチラホラと相談が増えてきました。

といっても、今は移住の相談はあまり受けないようにしています。移住した当初は、この経験を出来るだけ後続の日本人に伝えることが、日本への恩返しにもなるだろう、しなくても良い苦労は後続の人たちも出来るだけ無くした方がいいだろうなどと考えて、聞かれれば、それこそ無料で全ての情報をお伝えしていました。

ところが、ある時点から「質問のレベルが低い」ということに気づきました。というのも、自分たちは移住をかなり真剣に考えて、時間をかけてありとあらゆる準備をしてきました。基本的には自分たちで調べて、現地に足を運び、解決策を探り、どうしても自分たちで出来ないことだけには、専門家にきちんとお金をお支払いしてお願いをする、というスタンスで移住に漕ぎ着けました。それは大変な苦労でしたし、お金もかかりました。だからこそ、後続の人には同じ苦労をしないで済むように出来ないか?と思っていたのですが。

実態は、どうも自分たちが考えるのとは逆の方向に進んでしまいました。ほぼ何も考えない、準備もしない、お金もないというような人たちが、移住をするようになってきてしまったのです。「お子さんの学校はどこですか?うちも一緒のところに通わせたいです」「書類を取りに行ってくれませんか?」「書類に記載する住所を一時的にお借りできませんか?」「振り込みを肩代わりしてくれませんか?」こんなメールが、どこの誰かもわからない、一度も会ったこともないような人から、毎日のように届きました。

中には実際に移住してきた人もいるのですが、こちらに来てから一切の挨拶もなし、なんていう人も結構います。心配して、親身に相談に乗ったのです。異国の地に来たら、やっぱり日本人同志として、ちょっと乾杯をしたり、いや乾杯しなくても良いのですが、一緒に頑張っていきましょう!なんなら今後も協力したい、と思ったりしていたのです。が、しかし、それも当然なし。

ホームである日本ではそれでもうまくいっていたかもしれませんが、当然ですがアウェイである海外ではうまく行きません。国内での地方移住もそうだと思います。いかに移住先の人たちに受け入れてもらって、愛されるようになるか。考えてみれば当たり前だと思いませんか?逆の立場で考えると分かりやすいでしょうか。自分の家の隣に、見ず知らずの外国人が突然入ってくるようなものです。

そして、挨拶すらできないような日本人は、その後続々と帰国しています。しかもその数、かなり多いです。そして実は帰国できるだけ、まだマシかもしれません。中には、現地で犯罪を起こして、刑務所に入れられてしまった人もいます。

それでも海外で何かをやりたい!と思って、勝負をかける若者は良いと思うのです。たとえ失敗しても、その経験から礼儀や物事の進め方、人との付き合い方、コミュニケーションの取り方などを学べると思うので。

ただやっぱり、家族持ちなのに何も自分たちで考えない、人に頼りっぱなし、せめてビジネスとして依頼するならまだしも、そうした考えもない大人はやっぱり厳しいと思うのです。また一般的な傾向では日本で成功できなかった人は、アウェイである海外での成功はさらに厳しいかもしれません。地方移住でも成功した人のみにスポットが当たりますが、地方移住も海外移住も、人知れず失敗している人が、ごまんといることを認識しておいてください。

筆者が良かれと思って出した情報に基づいて、あるいはアシストでご家族で移住したものの、やっぱりうまくいかないですぐに帰国。こういう人が出てきてしまったことに責任も感じましたし、場合によっては筆者のせいにされかねないな、と思ったりもしました。こういうことが重なったので、それ以降はピタッと移住に関してのアドバイスはやめたのでした。

成功するのはどういう人か?

では、逆にどういう人が成功するのか?あるいは成功する秘訣は何か?筆者の周りにいる海外移住者を見ていて思うことを書いてみます。

家族で移住する場合、一般的には小学生以下ぐらいまでのお子さんはスムーズに順応できることが多いです。もしかしたら、親や周りの大人が思う以上にびっくりするほどのスピードかもしれません。日本で言うところの中学生の年齢になってから移住する場合はインターナショナルスクールなどに入ることが多く、これは日本人以外の海外移住者も同じです。この年齢ぐらいになるとやっぱり馴染めない、現地の言葉が喋れないなどの問題があって学校からあぶれてしまうというパターンもあるようです。

そして、一番の問題は親である大人です。サラリーマンとして一社を定年まで勤め上げ、いざ退職してみると近所には友達がいない。自分の所属する場所がない。そうした場所に出かけて行っても、強烈な違和感がありなかなか馴染めない…というような、サラリマーンあるある状態をイメージしてもらえると良いかもしれません。なかなか文字通りのアウェイに裸一貫で入っていける人っていないですよね。逆に仕事があるとコミュニティを作りやすかったりするのも同じです。

日本人が言葉も通じないアウェイにいきなり出てきて、現地で仕事を作るのは並大抵のことではありません。なので、仕事も作れず、友達も作れず、コミュニティにも属せない。そうこうしているうちに、お金が尽きてしまうというのが良くない典型的なパターンです。

そういう意味では、一般的に、そして世界的にみても女性の方が、移住先にアダプトしやすいようなイメージがあります。悪く言えば「その場暮らし的な考え方」かもしれませんが、よく言えば「最初のプランから全く考えもしなかった展開になっても、臨機応変に対応できる柔軟性がある」ということでしょうか。こういうことができる人は強いですね。生き残っていけます。

もちろん、事前にしっかり考えて準備してきたとしても、ほぼ計画通りに行かないのが海外移住です。その計画通りに行かないことを前提にして、どんなことにも対応できる能力。これが一番大事なような気がします。ある国に移住したけど、計画通りに物事が進まずに、にっちもさっちも行かなくなってしまった。そんな時に出会った、また別の国の男性と急遽、結婚することになって、そっちの国に移り住みうまくやっている。こんなパターンも散見されます。

おすすめのパターンは「まず2拠点生活から」

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では最後に、ここで筆者の思うおすすめの海外移住の始め方をご紹介します。あ、もちろんその通りに実行して失敗したとしても責任は一切持ちませんのでご容赦を。

まず「清水の舞台から飛び降りる」ことはやめましょう。実は、筆者はそれに近いかたちで、それまで勤めていた日本企業を退職しての移住チャレンジだったのですが、このパターンはあまりおすすめしません。

理想的には、常に戻れる場所を用意しておくことが望ましいです。日本国内での地方移住でも、最初は2拠点生活からという考え方が広まってきましたが、これは海外でも同じようにオススメです。大きな舞台から飛び降りるのではなく、ソロリソロリと忍者のすり足で進むイメージです。しばらくして、気づいてみたら舞台が移っていました、なんていうパターンが理想的です。

そのためにも、やっぱり蓄えは出来るだけ多い方がいい。ある一定期間、収入がないことも普通です。家賃収入がある、暗号通貨を持っている、株がある、YouTubeの収入がある。なんでも良いです。あと資産は通貨を分けておくのも一つの手です。今のように急激な円安になった場合、円だけで資産を持っているより、ユーロもドルも持っていた方が安全ではないでしょうか?

また、大事なのはあまり日本人とつるみすぎないこと。誤解しないで欲しいのは、日本人との友達付き合いを一切断つべきだ、と言っているわけではないということです。出来るだけ、移住先のコミュニティや、人、文化や社会に入って楽しむことがおすすめです、という意味です。地元の人と関係が作れていれば、いざという時のセーフティネットになります。あなたの家の隣に外国人がやってきた時に、自国の人とばかりつるんでいて、隣の自分には挨拶もしない、話もしない、だとあんまり気分良くないですよね。それと同じです。ちなみに、今、日本は大体どこに行っても大人気です。食事やアニメなどの文化をブリッジにしてみてください。

いろいろと書きましたが、「言うは易し、行うは難し」であるのは言うまでもありません。お子さんのための教育移住と言ったものの、結局、お子さん自身は望んでなかったり、日本に再び戻ったりして環境がコロコロ変わってしまうことは、かえって教育的には良くないかもしれません。また、日本でやっていた仕事が途切れるにしても、継続するにしても、あらゆる面に少なくない負担がかかります。そして、コロナ、戦争、円安といった混乱が続く今のタイミングでなければならないのかも、よく考えてみてください。そのくらい厳しい環境であることをお忘れなく。


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