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EVENT | 2023/03/28

バイオマス素材で「木から造るクルマ」を開発しカーボンニュートラルを強力に推進 京都大学 バイオナノマテリアル共同研究拠点

文:児島宏明
軽量・高強度・高弾性でしかもエコな新素材「セルロースナノファイバー」

矢野浩之氏
京都大学 バイ...

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文:児島宏明

軽量・高強度・高弾性でしかもエコな新素材「セルロースナノファイバー」

矢野浩之氏

京都大学 バイオナノマテリアル共同研究拠点は、植物由来のバイオマス素材「セルロースナノファイバー(CNF)」およびCNF材料の製造・提供・分析を行う研究拠点。

CNFとは木材など植物素材をナノサイズ(1ミリの100万分の1)まで高度にナノ化(微細化)したもの。軽量・高強度・高弾性という特徴を有している。

利用方法としては例えばエアコンのフィルターや食品包装用のフィルム、また樹脂やゴムなどと複合化すれば自動車部品や断熱材など数多くの用途に利用でき、2050年のカーボンニュートラルの実現に欠かせない素材としてさまざまな業界から注目を集めている。

環境省ナノセルロースプロモーション」より

CNFの開発・普及活動を行う同拠点の取り組みや研究成果、今後の展望について代表の矢野浩之教授に聞いた。

同拠点は、京都大学生存圏研究所に設置された機関。CNFの産業利用を目標に、「普及活動」「共同利用施設」「共同研究」「技術相談」という4つの事業を柱にさまざまな活動を行う。

普及活動としてはCNFの特徴や活用方法を知ってもらうため、「ナノセルロース塾」「ナノセルロースシンポジウム」などのイベントを開催。また同拠点が有する約80種類の製造装置、計測分析機器を、バイオナノマテリアル製造・評価システムとして開放し、参画機関や地域コミュニティに共同利用施設として提供している。

CNFの産業利用を実現するため、研究・開発を複数の機関と行っているのが共同研究事業だ。活用のための技術相談も実施している。2020年からスタートした「ナノセルロースマッチング」などの取り組みを通して各メーカーのCNFの導入を支援する。

「CNFは非常に優れた環境素材ですが、本格的に企業に導入してもらうのは簡単ではありません。既存のサプライチェーンを新素材向けに作り直す必要があり、ひとつの部品の開発から供給までの流れを一から再構築しなければならないからです。そこで私たちは、複数の機関と共同で、研究開発から供給体制の構築支援までを行うオープンイノベーションのスタイルを敷き、ステークホルダー全体でCNFの社会実装に取り組んでいます」(矢野氏)

同拠点の代表的な研究成果として環境省からの委託事業「NCVプロジェクト」がある。このプロジェクトは「CNF部材による軽量化自動車の製造」を目標に発足し、22の企業・機関が参加。様々な自動車部材をCNF材料で製造し、13のCNF部材(ボンネット・ドアアウター・ドアトリム・スポイラー・サンルーフ・バックウィンドウ・ホイールフィンなど)を搭載した試作車「ナノセルロース・ヴィークル:NCV」を完成させた。2019年10月の東京モーターショーで初披露され、関係者に大きな衝撃を与えた。

「高強度・高弾性のCNFを活用することで各パーツの薄肉化が可能となり、車体の大幅な軽量化が実現しました。標準的な車と比べて車体が16%も軽くなり、燃費向上による11%のCO2削減効果を実証しました。このプロジェクトの成果によって、自動車産業界にCNFの可能性を強く訴求できたと思いますし、地球環境の保護と人間の経済活動を共存させるひとつの答えを示せたと感じています」(矢野氏)

トヨタがバイオ素材活用を推進、業界のサプライチェーン変革に追い風

だが、本格的な社会実装はまだまだこれからだ。利潤追求を目的とする民間企業に導入してもらうためには、決断を促すきっかけが必要になる。そのための追い風となるのが「2050年のカーボンニュートラル実現」である。最大手のトヨタ自動車は2021年に「2035年までに世界中の自社工場でCO2排出をゼロにする」と宣言した。もちろん材料や部品を製造する際のCO2も削減しなければならない以上、必然的にバイオ素材の活用も推進していくこととなる。これまでは材料=CNF自体のコスト削減ばかりに目が向いていたきらいもあるが、本格的に導入の方針が決まれば設計・加工など製造工程全体の見直しも入るようになる。

そしてその先には、CNFのグローバル展開も見据える。

「国内の一般車でCNF部材が普通に使われるようになれば、そのノウハウを国際競争力の強化にも活かせると考えています。出来るだけ早く日本型のサーキュラエコノミーを実現するためのバイオマテリアル利用ノウハウを確立し、それを武器にヨーロッパの自動車産業に乗り込んでいきたいと考えています」(矢野氏)


京都大学 バイオナノマテリアル共同研究拠点

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