PR

EVENT | 2023/03/24

AIとクラウドを用いた「農業DX」の導入進む 高知大学IoP共創センター

文:荒井啓仁
農業のDX化を掲げるIoP共創センター

高知大学IoP共創センターは、高知県をはじめ、県内の高等教...

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • line

文:荒井啓仁

農業のDX化を掲げるIoP共創センター

高知大学IoP共創センターは、高知県をはじめ、県内の高等教育機関と産業界が一丸となって進めている、内閣府地方大学・地域産業創生交付金事業の「IoP(Internet of Plants)が導く『Next次世代型施設園芸農業』への進化」を掲げるIoPプロジェクトにおける、高知大学の全学組織として2021年10月に設立された。

農学とデータサイエンスなどとの異分野融合による新たな学術「地域情報共創学」によってIoPクラウドの構築と機能の強化を推進。施設園芸のDX化や農業の自律的進化、産地力向上に貢献する。

「農家消滅の危機」を回避するためにもIoP化は必須

IoPプロジェクトとは、産官学が連携して農家の所得向上や個々の農家の課題に合わせた支援、指導者の支援を行う仕組みづくりを目指すプロジェクト。作物の生理生態情報をAIや数理技術を駆使して、分析予測を最適化し、定時・定量・定品質・定価格の四定生産の実現を目指す。

工業分野では製造工程がリアルタイムで完全に可視化されていることも少なくない。だが農業は、多くの現場で定量的な可視化(見える化)、機能化(使える化)の実現には至っていないのが現状だ。

IoPプロジェクトでは、環境と画像のビッグデータを、センサーやカメラネットワーク、メッシュ気象データシステムで収集。それらを高知県で作ったクラウドサービス「SAWACHI」に集約し、作物生理生態AIエンジンを用いることで、営農の支援を行っている。

同センター長の北野雅治特任教授は、プロジェクトの意義を以下のように語る。

「高知県ではキュウリやピーマン、ナスなど夜間でも温度を保たないといけない作物が多く、最近では原油価格高騰の影響で離農する人が増えています。IoPの活用で無駄な暖房や肥料を減らして、少しでも農家さんの負担を減らせればと思います。IoPプロジェクトは、トップレベルの農家さんには喜んでもらえていますが、もともと自分の代で終わらせるつもりだったという考えの方もいらっしゃるなど、農家さんによって営農の目的は異なります。高知県は65歳以上の農家さんの割合が65%以上です。10年後には営農される方自体がごそっと減ってしまう可能性が高く、培った叡智を残さないといけません。経験や勘だけに頼らない、誰でも利用できるようなかたちにしなければ本当の継承にはならないでしょう。また、南海トラフ巨大地震などの自然災害が訪れてしまった場合でも、データさえ残っていれば必ず復旧の役に立ちます」(北野氏)

少量の学習量で生育の「見える化」ができる作物生理生態AIエンジン

IoPプロジェクトでは、作物生理生態の、

・見える化(一株あたりの光合成、蒸散、着果負担、開花数、葉面積、草勢の時系列)
・使える化(収穫日、収量、収穫調整に向けた環境の最適化、分散ハウス群の統合管理)
・共有化(経験や勘に基づく優れた農業生産技術の抽出と共有、営農技術診断、技術改善)

をSAWACHIと作物生理生態AIエンジンによって各農家に提供している。

作物生理生態AIエンジンは、少量の学習量で季節や環境など異なる条件でも、作物の光合成速度や蒸散速度を再現できる。作物の画像から草丈や葉面積など成長量をリアルタイムで可視化。また画像のRGB値から、受光有効葉面積(入射光を有効的に利用できると考えられる葉の量)を推定することで、枝の整備や誘引、摘葉の最適化を可能にする。

高知県外への利用拡大も目指す

IoP共創センター長 北野雅治氏

IoP共創センターでは今後、DX・GX関連企業とも連携を進め、石油燃料の利用に頼らず、地域で活用できる環境資源を模索しつつ、高知県外の農家にも利用拡大を目指す。

「作物生理生態AIエンジンは実用には至っておりますが、今後もさらに進化していきます。現状はニラとナス農家の一部、数十件レベルの利用に留まっていますが、高知県側でも利用を推進していただいているので、今後は数千件まで増やせればと思っています。『SAWACHI』は高知県内の農家さんであれば無料で利用いただけますが、域外展開にあたって、どういう利用形態にするのか、情報の管理はどうするのか、といった部分についても今後調整していくつもりです」(北野氏)


高知大学IoP共創センター

Jイノベ選抜拠点の記事一覧はこちら