文:荒井啓仁
徳島大学 バイオイノベーション研究所(BIRC:Bio-Innovation Research Center [バーク])は、生物系新産業や6次産業化にかかるオープンイノベーションを推進するために設立された。大学発ベンチャー企業など、新産業の創出や地域産業のイノベーションを支える人材の育成を進めている。
BIRCを構成する3つのキャンパス
BIRCは、新野、鳴門、石井の3つのキャンパスに分かれ、産業生物系部門(9分野)、地域生物系部門(7分野)の2部門・16分野で構成される。蔵本キャンパスと常三島キャンパス、徳島大学産業院とも連携し、オープンイノベーションを推進している。
林業が中心の新野キャンパス
新野キャンパスでは林産科学分野と高大連携分野を中心に取り扱う。きのこ代謝科学を基礎に据え、森林資源の循環利用研究を行っている。スギの大径材由来の板材では新しい人工乾燥条件を提案。現行の約1/2の時間の乾燥時間で同等の耐久性を得られた。高大連携では、高校との教育連携を目的に、希少生物「イシマササユリ」の植物培養を高校生と共に育てて移植する事業を行っている。
鳴門キャンパスでは藻類の研究・技術開発を実施
鳴門キャンパスでは、藻類生産分野の研究を行っている。大型海藻のスクリーニングによる新たな食用種や有用な機能成分の模索、海藻類の陸上養殖に関する技術開発も進めている。スジアオノリの産地である吉野川では年々収穫量が減っており、安定した収穫を目指すべく、海水を汲み上げて陸上で循環。栽培に適した水温の違うミリンソウとスジアオノリを、夏と冬に分け二毛作を行う。また、牡蠣の養殖業者とともに、安全な牡蠣養殖も進めており、こちらは経産省のGo-Tec事業の審査も通過している。
畜産・昆虫生産の研究を行う石井キャンパス
石井キャンパスでは、農業・畜産・昆虫生産・生命医療を中心とした研究が行われている。昆虫生産分野では、新しいタンパク質源として注目の集まるコオロギの食用化研究が進められており、将来的にはゲノム編集による発生や機能性などを制御するための技術開発も進めている。生ゴミなどの食品残渣を利用した飼料の開発や昆虫養殖の自動化の研究を通して、循環型のタンパク質生産体制の確立と産業化を目指す。
同キャンパスでのシーズを利用した大学発ベンチャーも設立されている。2019年創業の「株式会社グリラス」では、コオロギとテクノロジーを組み合わせたプロテインバーやクッキーなど、コオロギを加工した食品を販売している。
また畜産の研究と利用も盛んに行われている。実験用に解剖したマイクロブタの余った部位を学内でハムやベーコンなどに加工。「徳大ハム」として石井町のふるさと納税の返礼品にも採用されており、大学発のベンチャーとして登記などを進めている。実験動物としてブタの需要が高まる中、徳島大学では移動式の閉鎖型豚舎を開発。施設を持たない大学や施設などに閉鎖型豚舎を貸し出している。減圧機能や緩衝装置を備えた移動式施設は、解剖施設以外にも、移動式の新型コロナウイルスのPCR検査室としての納品実績もある。
「石井キャンパスでは近所に屠殺場があるので飼育だけはなく、肉質の分析や腸内細菌叢の調査がすぐに実施できます。豚肉の生産だけではなく評価まで行えるのは強みだと思っています」(森松氏)
徳島大学バイオイノベーション研究所では、今後も各キャンパスでの連携を続けていく。今後の展望について、音井威重所長に訊いた。
写真左:音井威重氏 写真右:森松文毅氏
「生物系に特化した大学発スタートアップ企業を支援し、その成果が再び大学に還元されるようなサイクルづくりを目指しています。大学のシーズを利用して起業に至ったグリラスが、現状一番理想的な形で進んでいるので、こちらをモデルとして同じような企業が今後生みだしていきたいですね。11ヘクタールもの広大な敷地があるので、我々なら有効に活用できるという企業の皆さんからの問い合わせをお待ちしています」(音井氏)