はじめまして、こんにちは、株式会社ウサギの高橋晋平と申します。
この連載「高橋晋平のアイデア分解入門」は、普段はおもちゃやゲーム、遊びを作り出す仕事をしてる私が、身の回りにある物から、なにかアイデアや工夫、発想の種を見つけ出そうという試みです。
記念すべき初回ということで、テーマを「スーパーファミコン」にしてみました。世代だった人もそうじゃない人も知らないという人はほとんどいないと思います。
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高橋 晋平 (たかはし しんぺい)
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おもちゃクリエーター、アイデア発想ファシリテーター。秋田県生まれ。2004年に株式会社バンダイに入社。第1回 日本おもちゃ大賞を受賞し、発売初年度に国内外累計335万個を販売した「∞(むげん)プチプチ」など、イノベイティブトイの開発に約10年間携わる。14年に株式会社ウサギを設立。玩具・ゲームの考え方を活かした事業を企業と共同開発し、企画アイデアの発想セミナーやワークショップを全国で実施している。得意なのは笑い・遊びのある企画を作り、話題にし、販売につなげること。TEDxTokyoでのスピーチは累計200万回再生。近著『1日1アイデア』(KADOKAWA)など、著書多数。
スーファミのコントローラのここがすごい
僕がスーファミに出会ったのは、中学1年生の頃。ゲームは好きだったので、その前から初代「ゲームボーイ」などで遊んでいましたし、大学時代「PlayStation」、大人になってからも職業柄、Nintendoの「DS」や「Switch」など、ゲーム機は一通り遊んでいます。
だけど、こと「ゲーム機」の完成度で言えば、スーファミを超えるものは存在しない、というのが僕の感想です。端的に「神ゲーム機」であると思います。
まずコントローラー。
とにかく持ちやすい。だいぶ主観も入っているかもしれませんが、妙に収まりが良くて全然疲れないんですよ。他のハードのコントローラーと比べてみて欲しいんですが、手の中で変な力をかけないで済むし、十字キーもプレステの分割式のものと比べて触りやすいと僕は思います。格闘ゲームの複雑なコマンド入力はこれがやりやすい。
よく人間工学に基づいたという「エルゴノミクス」のマウスや電子機器がありますが、スーファミのコントローラーよりも人間(僕)が操作しやすいと思えるものにはまだ出会えていません。
ものづくりって「人の動作づくり」なんです。だから大勢の人にとって動きに無理があることさせちゃダメ。人間の動きをちゃんと考えて、でもその上で試行錯誤を重ねながら普遍的で気持ちいい動作をを発見していかなければいけない。スーファミは見事にこれを成し遂げています。
細かい部分にも驚きがたくさんありました。初代ファミコンと比べ、親指の位置に来るボタンが4つに増え、それぞれ赤青黄緑という老若男女誰でも超わかりやすい色になっていますね。今でもAボタンが赤でBボタンが黄色で…と感覚的に覚えている人は多いはずです。
そして「LRボタン」の登場。これがすごかったと思うんです。コントローラを握ったときの人差し指の定位位置として、今となっては「当たり前」のものですが、それはすでにLRボタンがある世界にいるからそう思うわけです。あれを思いついたのは相当なことだったと思います。
この発明によって、『マリオカート』や『F-ZERO』でドリフトや重心移動が可能になったり、『ストリートファイターII』といった6個のボタンを使うアーケードゲームのタイトルを無理なく操作ができるようになったり、ゲームの中での選択肢が一気に増えました。
ここまで後世に影響を与える、シンプルかつインパクトのあるアイデアはないかなと思います。いつもアイデアを考えるときは、「LRボタン級」のものはないかな、と一つの基準にしているくらいです。
「壊れにくい」はなぜ大切なのか
スーファミの「壊れにくさ」も特筆すべきものがあります。
そもそも初回にスーファミを持ってきた理由は、なにを隠そう最近『FF6』や『クロノ・トリガー』といった懐かしの名作を手に入れてスーファミで遊んでいるから。新しく買ったわけじゃありません。中1の頃に買った、30年以上前のものを実家から持ってきて遊んでるんです。
任天堂のハードは基本壊れにくいとは思いますが、ゲームボーイ、DS、Switchも一回は壊れた経験があります。一方スーファミは唯の一度も壊れていません。もちろんたまたま、という可能性もありますが、壊れたから買い替えた、という話はあんまり聞いたことがない。現代の感覚から言うとこの丈夫さはちょっと異常ですよね。
壊れにくいものを作るのは、ものづくりの基本中の基本だと思います。「使いやすい」も同じですが、基本的に「嫌な思い出を残さない」んですよね。お客さんを悲しませないわけです。
やっぱりスーファミは、使いやすさ、扱いやすさという点で一度完成しきったハードだと思います。それ以降は「なにか変えなきゃ」「進化しなきゃ」という考え方で形を変え、複雑化していっている印象があります。でも結局スーファミにストレスや悪い思い出がなかったから、みんなが「スーファミって楽しかったよね」というソフトの思い出につながっているんだと思います。
コントローラーで遊んだ楽しさが染み付いてスーパーファミコンそのものに良い印象をもたらしているのは間違いないですし、さらには任天堂という会社に対する良いイメージにまでつながっていると本気で思います。「良いもの」ってその会社の生命線で、運命を決めるものだと思います。
スーファミは僕がおもちゃづくりをするとき、いつも心に留めているプロダクトです。
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