EVENT | 2020/10/20

新しい働く場所のあり方は? 越境集団「NAD」に聞く、ニューノーマル時代に向けた最先端オフィス事情

働き方改革に加え、100年に一度のパンデミックにより、リモートワーカーが増えるなど、働くスタイルが大きく変化しつつある現...

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働く人とともに進化する最先端の「TRI-AD」オフィス

そんなNADがチームの中心となって手がけた直近の事例が、トヨタ・リサーチ・インスティテュート、アドバンスト、デベロップメント株式会社が新設した、自動運転技術の開発企業「TRI-AD」のオフィスデザインだ。トヨタが世界のトップエンジニアたちを集めたグローバル拠点を東京・日本橋に築いたニュースをご存知の人も多いだろう。

まるで米シリコンバレーのスタートアップのオフィスのような雰囲気の中、さまざまな国籍、バックグラウンドを持った社員がの人が自由なスタイルで働くトヨタグループのベンチャー「TRI-AD」。(東京・日本橋オフィス)

世界中からあらゆる人材が集められた新しい会社で、企業文化を作っていくためには何が必要か?という大きな課題が求められた。

そこでNADは、いかに人を惹きつけ、生産的に働けるオフィスにできるかということをクライアントとワークショップなどを通じて抽出。デスクのレイアウトなどもクライアントと一緒に実物で実験して、使い勝手を確かめながら計画を固めていった。

「これまでの建築のデザインの現場ではあまりできていなかったことですが、オフィスデザインをトライ&エラーを繰り返して改善していくかたちで、時代の変化に対応するスピード感とお客様を巻き込んだデザインプロセスを取り入れました。オフィス完成後もNADのメンバーが週に1度はオフィスにお邪魔させていただくことで、成長し続けていくオフィスの仕組みづくりをTRI-ADの皆さんと共に考えています。」(勝矢氏)

建築デザイナーがサポートし、働く人に合わせてオフィスを進化させることで、働きやすさ結束力を生み、業務効率化を目指す先進的な試みだ。

仕事の大半がオンラインで業務が運ぶ今、TRI-ADのオフィス機能として、ゆるやかに人をつなげるためのポイントについて説明する勝矢氏。

「今の時代は、ただ場所を創るだけではダメで、ハードとソフトの両面からコミュニケーションをデザインしていく必要があります。弊社にはデジタルデザインの部門があり、今回は、社員からの意見をデータグラフィック化して皆に共有するコミュニケーションツールをデザインするところまで踏み込んでいます。世界中から集まった人材をスムーズにつなぎ、組織や同僚への愛着を育む場を作ることで、会社の一体感の向上に寄与できればと思っています」

一方で、リモートワークが増えた今、今のオフィスに求められる姿をどう捉えているのだろうか。その見解について、勝矢氏は次のように述べる。

「会社に人をつなぎ止め、互いに協力できる関係性を構築する上では、まだオンラインツールだけでは不十分だと考えています。僕たちはデザイナーですが、立場や領域を越えて、クライアントの要件を汲み取り、時には事業計画を超えるかたちでハード&ソフトともに立案しています。さらにできたら終わりではなく、その後も進化するプロジェクトを支えていくことが、新しいオフィス作りにおけるミッションです」

「TRI-AD」オフィスの一角にあるPlazaスペース。

ワーカーと地元の良好なバランスを考えた大型複合型オフィスビル「神田スクエア」

もうひとつの事例として紹介したいのは、今年9月に全面開業したばかりの地上21階建の「神田スクエア(KANDA SQUARE)」。2階にはセミナーやカンファレンス、コンサートまでできる多目的ホールを備えた大型複合型オフィスビルとして開発された。

NADが手がけたのは、神田スクエアの屋外広場のデザイン。いわゆる公開空地の広場にパブリックファニチャーを置きたいという要望から始まったという。

NADのミッションを「どんなに大きな開発プロジェクトでも、人のアクティビティをよく観察してデザインすること」と語るのは、NAD室アソシエイト アーキテクトの後藤崇夫氏。

そこで後藤氏らが着目したのは、神田スクエアに隣接する「五十通り」の地域行事。毎月5日と10日に開催される市にちなんで名付けられたのが、「五十通り」で、これまでアートイベントなどが開催されてきた歴史があるという。

この広場をデザインする上でのポイントについて、地域住民を取り込み、新たに神田スクエアに集まる5000人のワーカーの日常にも寄与するスペースとして、両者のバランスを目指したと後藤氏は説明する。

「平日の昼間はワーカー向けにワークプレイスとして、夜や休日はこの場所でイベントができる仕組みを考えました。広場を囲むように覆った鉄のフレームは、実はイベント時にテントを張れる構造になっています。元々敷地の境界にあった手すりから着想を得て、手すりに腰掛けたり、人々が集ったりする通りの文化をビル敷地内の広場に引き込みました」

神田スクエアの広場には、ワーカーや地元イベントの来場者が休憩しやすいようにクッション性のあるシートを多めに設置されてある。平日はオフィスワーカーたちの仕事の拡張空間として利用され、コロナ禍にも活躍。

野外スペースながら電源とWi-Fiも確保。コロナ禍もあって、ワークスペースとしても便利。

また、パブリックファニチャーに現代的なアーティストを取り入れているのも特徴。通常、こうした大型ビル開発プロジェクトの場合、エントランスなどには権威ある芸術家の作品が鎮座することが多いが、それが利用者に親しまれているかはまた別の話だ。

「これまでは、パブリックアートを手がけたことのある人の作品しか起用されないのが業界の慣例」と説明する後藤氏。

その点、神田スクエアの広場に設置されたワイヤーオブジェの製作に起用したのは、ワイヤーオブジェブランド「HAyU」の若手デザイナー、小川学氏だ。

小川氏の作品は通常インテリア向けであり、パブリックアートを手がけるのは今回が初だという。

起用の背景について後藤氏曰く、「都市開発の現場では若手アーティストの活躍の場は極めて少ないが、あえてその機会作りの意味も含め、依頼した」とのこと。

ワイヤーアニマルヘッドのオブジェブランド「HAyU」のデザイナー・小川学氏を起用し、神田スクエアの広場にパブリックファニチャーを設置。

10年先の未来オフィスは、「ワークプレイス」から「ワーカブルウェブ」へ。

最後に、数々の最新オフィスを手がけるNADが構想する、10年後の未来のオフィスのかたちについて聞いた。

NADが捉える未来のオフィス構想は、ワークプレイスからワーカブルウェブへ変化するというもの。家やカフェ、地域のサテライトオフィスなど、働く場所のネットワークを自分なりに選べる時代になるという。

前出の勝矢氏によれば、働き方が多様化し、働く場所が選べるようになった先には、オフィス=働く場所という固定の考えはなくなり、家に仕事、逆にオフィスでも生活に関わる所用をするミックススタイルになると想定。

未来のオフィスのスタイル“ワーカブルネットワーク”から見えてくる課題やビジョンを勝矢氏は次のように語る。

「自宅はもとより、カフェやサテライトオフィス、パブリックスペースなどを選んで働く未来を“ワーカブルネットワーク”と捉えれば、それぞれの場所に求められる体験や課題がクリアに見えてきます。

たとえば、駅前の保育園のそばにサテライトオフィスを作れば地域の人とつながることができて、人の暮らしはもっと豊かになり、これまでとは違った新しい暮らしのスタイルが見えてきます。

アフターコロナの時代は、多少の揺り戻しがあるにせよ、基本的には不可逆。その中で、新しい働き方や暮らし方の可能性を見出して時代に合ったオフィスのかたちを提案していきたいです」

10年先、数十年先を見据えて造られる建築やパプリック空間には、とくにそのビジョンが反映される。

今回、越境デザイン集団「NAD」が考えるオフィスの未来構想を伺い、先に待ち受ける働く人の多様化した日常をイメージできた。

激変する社会にあって、先々に不安を抱く人こそ、アフターコロナの働き方、暮らし方のニューノーマルを参考にしていただきたい。


NAD

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