ITEM | 2021/04/21

「技能実習制度の闇」と「アナーキーな不良外国人」を同時突撃ルポする労作【安田峰俊『「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本』】


本多カツヒロ
ライター
1977年神奈川県生まれ、東京都育ち。都内の私大理工学部を経てニートになる。31歳の時に...

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本多カツヒロ

ライター

1977年神奈川県生まれ、東京都育ち。都内の私大理工学部を経てニートになる。31歳の時に、一念発起しライターに。サイゾー系のメディアでの執筆を経たのち、WEDGE infnity、東洋経済オンライン、週刊実話など多数の媒体で著者インタビューを担当。その後、Forbes JAPAN WEBやダイヤモンド・オンラインなどのビジネス系メディアでも執筆。現在、QJ Web (クイック・ジャパンウェブ)や週刊誌などで執筆中。また、自身の病気の経験から、闘病記を気が向いたら公開している。https://note.com/honda52

搾取される外国人の「かわいそう」以外の側面も描く

「現代の奴隷」とまで言われる外国人技能実習生制度。重労働、低賃金、長時間労働などを苦に失踪、中には犯罪にまで走る実習生もいる。

こうした報道があるたびに、マスメディアは技能実習制度が抱える欠陥を批判し「搾取される技能実習生たち」といった論調で報じる。一方「そんな不良外国人を受け入れるな。追い出せ」といった排外主義的な意見を目にすることもある。そうした両者の意見を目にするにつれ、外国人技能実習生や労働目的で来日しながらビザ更新のために留学生を装う「偽装留学生」らを十把一絡げにカテゴライズし、「かわいそうな存在」VS「出稼ぎのために悪事をも働くような存在」という白か黒かといった単純な議論に違和感があった。

彼・彼女らは生身の人間だ。どこの国の出身だろうと、どんな社会だろうと様々な人たちがいる、という当たり前の前提が欠けているように思う。安田峰俊『「低度」外国人材 移民焼き畑国家、日本』(角川書店)は、多くの技能実習生や留学生、それらを取り巻く人々を時にはベトナムまで赴き、丹念に取材した一冊で、まさに筆者のこうした違和感に答えてくれる。

安田氏は本書執筆に関する取材で得た成果の一端をたびたび「文春オンライン」に寄稿しており、そのタイトルは(編集者が付けたものかもしれないが)「賭博、闇市、豚解体…ナンパアプリと「群馬の末弟」から見えた“ベトナム人アングラ社会”の現実」といった物騒なものが多い。本書においてもゴシップ週刊誌的な「エグい事件を知りたい」という野次馬根性を刺激しつつ、読後には日本の見えづらい社会問題の知識がしっかりインストールされるという、見事なバランス感覚で構成された一冊となっている。それは、貧困ポルノのように、彼・彼女らを単に見世物として扱っていないからだ。

「低度外国人材」とはなにか

まず、本書のタイトルである「低度外国人材」という聞き慣れない言葉。筆者は「人材」という言葉が好きではないが、この言葉は政府が歓迎すべき外国人として打ち出している「高度外国人材」の反対の意味を持つ安田氏の造語だ。高度外国人材とは、端的に言えば、専門的な技能を持ち、最終学歴が大学・大学院以上の人たちのこと。つまり、エリートで日本経済に貢献してくれる可能性の高い外国籍の人たちのことを指す。

それでは、その逆の「低度外国人材」とはどんな人たちのことを指すのか。

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「(年齢は若いかもしれないが)学歴・年収が低く、日本語はろくに喋れず専門知識もない、非熟練労働に従事している人材。日本国家が温かく歓迎しているわけでもないのに。向こうから好き好んでやってくる人材──。そんな説明もできそうである」(P.16)

グローバルエリートとの対比で語るならば、自力でグローバル市場を渡り歩くというよりは、流され、流された先でも社会的に排除される存在なのかもしれない。それは社会学者、ジグムント・バウマンのメタファーで言うところの「旅行者」に対する、「放浪者」というメタファーで評される。

その「低度外国人材」の多くは、技能実習生や留学生といった形で日本へやってくる。

技能実習生制度とは、途上国の経済発展のため、技術を学んでもらうことを目的に、1993年から始まった制度。実習期間は最長で5年。20年6月時点で、約40万2000人が働いているとされている。

また日本は建前上は専門的な技能を持っていない外国人の就労を禁じているため、「高度人材」ではない多くの外国人は留学生として入国し、語学学校に通う。しかし、日本語を学ぶことよりも働くことを主な目的とした偽装留学生も多い。これがまかり通っているのは、日本の非熟練労働市場が、外国人労働力に依存しているためだ。都心部のコンビニエンスストアや居酒屋で外国人のアルバイトをよく見かけるが、こういったケースが多いのだろう。

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