LIFE STYLE | 2020/12/03

2000万円のクルマも即完売!アメリカでキャンピングカーが静かなブームを迎えているワケ【連載】幻想と創造の大国、アメリカ(21)

夫が「これからは、海外旅行より国内の自然を楽しみたい」と私を説得して購入したメルセデス・ベンツの4x4レベル

渡辺...

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夫が「これからは、海外旅行より国内の自然を楽しみたい」と私を説得して購入したメルセデス・ベンツの4x4レベル

渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott

エッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家、マーケティング・ストラテジー会社共同経営者

兵庫県生まれ。多くの職を体験し、東京で外資系医療用装具会社勤務後、香港を経て1995年よりアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』で小説新潮長篇新人賞受賞。翌年『神たちの誤算』(共に新潮社刊)を発表。『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)など著書多数。翻訳書には糸井重里氏監修の『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経ビジネス人文庫)、レベッカ・ソルニット著『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)など。最新刊は『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)。
連載:Cakes(ケイクス)ニューズウィーク日本版
洋書を紹介するブログ『洋書ファンクラブ』主催者。

「もうステイホームは飽きた!」というアメリカ人にうってつけのキャンピングカー

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより、他国同様アメリカから海外への旅行も困難になっている。海外からの旅行者を受け入れている国であっても、フライトの直前のPCR検査で陰性の結果を提示しないと入国できない場合や、指定のホテルでの14日間の隔離を強制される場合がある。アメリカ国内の旅行であっても、他の州からの人に一定期間の隔離を求める州がある。

それに伴い旅客機、鉄道、バス、宿泊施設、レストラン、配膳サービスなどを含む旅行産業は、特に大きな打撃を受けている。

11月17日に全米旅行産業協会(US Travel Association)が発表した2020年のアメリカ旅行産業の推定消費額は617億ドル(約62兆円)で、2019年の1.13兆ドル(約115兆円)の約半額にしかならないことがわかった。この中でも特に影響を受けているのが、昨年と比較して77%減少した海外からの観光客(インバウンド)で、国内のビジネス移動も55%減少している。この影響で、観光に直結した職が大量に失われており、年末までに450万人が職を失い、パンデミックの前の半数にまで減少することが予測されている。

パンデミックの初期には、未知の感染症への恐怖もあり、アメリカ国民には自宅待機(shelter-in-space)を素直に受け入れる雰囲気があった。ところが、パンデミックの深刻さを過小評価し、マスク使用やソーシャルディスタンスといった対策を積極的に否定してきたトランプ政権のために、「自由を愛する勇敢なアメリカ人はマスクなんかしない」という風潮が生まれてしまった。

そういったアメリカ人にとって、これまでのようにどこにでも自由に行けなくなったのは、我慢ならないことなのだ。また、そういった「反マスク派」でなくても、これまで旅行を楽しんできた人たちが、ずっと自宅に閉じこもるのは辛いものである。我慢強い人たちも、そろそろ我慢に疲れて友人や家族とパーティをしたり、レストランで食事会をしたりするようになっている。その結果、冬が来る前からすでにパンデミックの第三波という形で現れている。

このように大きな打撃を受けている旅行産業だが、「旅行を楽しみたくてもできない」という需要を上手く取り込み、例年よりも売上を伸ばしている分野がある。

それは、RV(キャンピングカーやキャンピングトレーラーなどの居住用スペースつきの自動車。レクリエーション・ヴィークル)の販売とそれに関連したビジネスだ。

「地元でバケーションしよう!」キャンペーンで売上50%アップを達成

シーズンが終わった「Loon’s Haven Family Campground」でキャンプ場の管理を続けるマイク・メイソン氏

家に閉じこもっているのに飽きたアメリカ人は、そろそろ外に出たい。その心理を素早く利用したのが、メイン州の「Loon’s Haven Family Campground」というキャンプ場のオーナー、マイク・メイソン氏だ。

メイソン氏が所有するキャンプ場では、大きなRV車に玄関兼居住部分となるようなスクリーンポーチをつけて「別荘」のように使っている人が多い。車の持ち主はメイソン氏にキャンプ場使用料を前払いすることで、次の年までそこに停めておくことができる。けれども、メイソン氏いわく「メイン州で最も水が澄んでいる」湖に面した特等地は、ホテルのようにオープンの予約制だ。

ポーチが増築されているので、移動用ではなく別荘化しているトレーラーが多い。オーナーは退役軍人と思われる

パンデミックでも家族旅行をしたい人にとって、同じ州の自然の中にあるキャンプ場は魅力的だった

RV車を別荘地にしている人は常連なのでコロナ禍でもベースの収入に影響はないのだが、この特等地の予約がどれほど埋まるかで最終的な収益が変わってくる。パンデミックでも外に出かけたい人々の心理を察知して特別なマーケティングを考えついたのは、メイソン氏が新規に採用した若い女性のマーケティングマネジャーだった。普通の年なら他の州から来る観光客に頼れるが、パンデミックでそれは難しい。だが同時に、メイン州の人は他の場所に行けなくて鬱憤がたまっている。そこで、他のキャンプ場にも呼びかけ、同州の住民を対象に「メイン州でバケーションをしよう!」というキャンペーンを行ったというのだ。それは、自宅にこもって鬱々としている人たちに「そうか。他の州に行かなくても旅を楽しめる方法があるよね」と発想転換させるものだった。その結果、通常の年よりも50%も収益が上がったという。

この地域ではマスク使用を敵視する保守派も多く、ビーチでは「ソーシャルディスタンス」のお願いはあったが、マスク使用は義務づけられていなかった

メイソン氏を紹介してくれたのは、ニューイングランド地方RVディーラー協会(New England RV Dealers Association)で長年会長を務めているボブ・ザガミ氏だ。

かつてのアメリカでは、裕福な人は著名なリゾート地に別荘を購入し、貯蓄に余裕がある中産階級の人は引退してから暖かいアリゾナ州やフロリダ州に引っ越す。そして、さほど裕福ではない中産階級の人は、メイソン氏のキャンプ場のようにキャンピングトレーラーを別荘として使うか、キャンピングトレーラーでアメリカ中を旅するというのが典型だった。

だが、このうち、大きなキャンピングトレーラーが次第に時代遅れになっていたことをザガミ氏は案じていた。大きなトレーラーが走れる道路や、宿泊のために停車できる場所は限られているので、若い世代にとってさほど魅力的な夢ではなくなっていたのだ。

ところが、「廃れつつある」と思われていたRV車が、パンデミックのおかげで急に見直されるようになった。「自分でホテルとレストランを持ち運びすればいいではないか!」という発想にたどり着く人が増えて、専門店での売上が急上昇したのである。

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