写真左が松島やすこ氏、右がちゃんもも◎a.k.a.大桃子サンライズ氏
2018年に誕生した女性向けファッションブランド「Lola wed. (ローラ ウェンズデー) 」は、アイドルグループ「バンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHI」のメンバーであり、人気テレビ番組「テラスハウス」にも出演していたちゃんもも◎a.k.a.大桃子サンライズ氏がプロデュースするブランドとして話題を呼んでいる。
一方でブランド運営の実務を担うディレクターに、若手アーティストが集う有名シェアハウス「渋家」から派生したクリエイティブカンパニー「渋都市」の社長、松島やすこ氏が就任していると聞き、「これはただのインフルエンサー系ブランドにはない何かがあるのでは」という予感がしたので取材をお願いしてみた。
その予感は見事的中し、非常に興味深いインタビューになったが、本記事にはタレント記事にありがちなヒューマンストーリーはほぼ出てこない、まるでアイデア商品を連発する企業の開発担当者のように「いかにこの服が機能的で優れているか」を熱弁する2人の姿がそこにはあった。
聞き手・構成・文:神保勇揮 写真:多田圭佑
ちゃんもも◎ a.k.a. 大桃子サンライズ
アイドル / タレント
1991年生まれ。タレント。ポスト・アイドル。バンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHIメンバー。2012年、『テラスハウス』(フジテレビ系) に初期メンバー・竹内桃子として出演し、赤裸々な整形告白が大きな話題となる。現在は、バンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHIのメンバーとしてアイドル活動をするほか、作家として、自叙伝『イマドキ、明日が満たされるなんてありえない〜』、小説『刺激を求める脳』を上梓するなど多岐にわたり活躍している。また、2017年に、中国・上海を拠点に活動するニューメディアアーティスト、ルー・ヤンの大規模個展にメインアイコンとして起用されるほか、活動の原点として、2010年に渋谷を拠点としたアートコレクティブ「渋家」に加入、後に同コレクティブの七代目代表に就任するバックグラウンドを持つなどアートシーンとの関わりが深い。
松島やすこ
渋都市株式会社代表取締役社長
1989年生まれ。渋都市株式会社代表取締役社長。ビジネスプロデューサー。大手キャリアコーポレートサイトでのWebディレクター職、大手メディアでの編集、広告運用、マーケティング職を経て、2015年に「渋都市株式会社」の設立に関わり、2018年7月に代表取締役に就任。学生時代から小劇場に役者として出演。社会人ラッパーとしても活動し、「UMB予選×Businessman Rap Tournament」ベスト4、「第2回社会人ラップ選手権」ベスト4の戦績を持つ。経営戦略、営業、Webマーケティング業務の受託ほか、ラッパー・舞台役者としての活動経験を生かしながら、MCなどの仕事もこなす。正社員として働く人が、辛くて夢も自主性もない「社畜」と揶揄される現代に危機を感じ、「社畜という言葉を撲滅する」をモットーに活動を展開。
世の中にある「かわいい服」には、着心地が無視されているものがすごく多い
―― ブランド立ち上げのきっかけは何だったんでしょうか。
ちゃんもも◎:大体3年ぐらい前から私がランジェリーとパジャマのブランドをやりたいということを構想していたんです。そうした中で、渋都市の前身となるシェアハウスの「渋家」に私も住んでいたというつながりから、一緒にやろうということになりました。
私はこれまでデザインの経験はなかったんですが、構想やビジョンはずっとあったので、デザイナーの杉本雄平さんに形にしていただいているという感じです。
松島:渋都市のメイン事業は音楽ライブの演出なので、そこから派生してTシャツなどのグッズ制作やアーティストマネジメントを手がけることはあっても、本格的なファッションブランドの運営は初めてでした。ただ彼女とはいつか何か一緒にやりたいねという話を以前からしていたので、そのアウトプットがブランドだったということです。
偶然に前職の先輩でアパレルをやっている方がいたので原価率はどうなっているんだとか、どういうかたちでメディアに露出しているのかというような話をヒアリングしながら何とか進めてという感じでした。
―― そもそも、なぜファッションブランドを立ち上げたいと思ったのでしょうか?
ちゃんもも◎:私自身、自分に自信が持てなくて整形を繰り返したこともあるんですが、人から愛されるためにはまず自分を愛する、つまり自信を持つことが必要だと思うんです。そのために自分が100%かわいいと思える、胸を張って着られる服がたくさん欲しいけど世の中には全然ないと思ってましたし、なおかつ“実践的”な部分にも気を配っている服はさらに少ないんです。
―― “実践的”というのは具体的にどういうことでしょうか?
ちゃんもも◎:世の中にある「かわいい服」には、着心地が無視されているものってすごく多いんです。そういう服を着ていると、憧れの異性といい感じのレストランでご飯を食べていても「形が崩れちゃったらどうしよう」というようなことで気が散っちゃったり、その後にホテルでセックスしますとなっても、例えば形の良いワンピースって脱ぐのがすごく大変なので、せっかくキメてきた髪型も崩れちゃうし、うまく脱げないと焦るのもムードが壊れちゃったりしますよね。Lola wed.のアイテムは、デザインも着心地も絶対両立させるんだということにすごくこだわっていて。どんな瞬間でも「この服を着ている私はかわいい!」と自分に自信が持てれば、その次のステップの努力に集中できると思うんです。
例えば私がいま着ているワンピースは柔らかいベロアの素材で、どの体勢でどう過ごしていてもとにかく気持ち良いんですよ。身体のラインに布の方が合わせてくれて、スタイルが良く見えるし圧迫感がないんです。しかもフルジップで前から開けられるので脱ぎやすい。
松島:ジッパーを伸びやすい素材のベロアに対して真っ直ぐ縫い付けるのって結構難しいんですよ。でもももちゃんとしてはそのディテールをどうしても両立させたいという明確なビジョンがあるので、どんな素材があるのか、どんな技術があるのか、どうにか一定のコスト内で実現できないかとみんなで考えて行動するという部分にはいつもこだわっていますし、そこが大量生産品とは一線を画したアイテムになれているかなと思っています。
まだまだあるLola wed.の工夫「絶対萌え袖になるパジャマ」
―― なるほど。そこまで明確に説明していただけると、たとえ男性でも強みが理解しやすいですね。
ちゃんもも◎:フォーマルなシーンでも着られる形・色味なんですけど、このままジッパーを全部下ろしたら脱げちゃうんです。フォーマル感とエロさを両立していて、「このジッパーを下ろしたら…」っていう感じでサブリミナル的に相手を誘惑できるというか。
あとは7月に新しく発表した上下セットのパジャマは全部袖を長くしていて、どんな状況でも絶対に萌え袖になるんです。「あの時、萌え袖にしておけば良かったあ!」って突然後悔することもあるじゃないですか。
写真中央から右にかけての3着が「絶対に萌え袖になるパジャマ」。ショートパンツはムエタイパンツをイメージしており、スリットが入っていることで足が細く長く見え、ウエストのゴム部分が広いことでウエストマークとなり、腰から足にかけてのラインもキレイに見えるような工夫が施されている。価格は税込1万7600円。
―― やっぱりそういうキメというか狙いはあるんですね(笑)。
ちゃんもも◎:はい(笑)。そこは抜かりなく、私がイメージする最強感のあるかわいさを目指しています。
松島:それに加えて、首から胸元までの部分のスペースも広めにとっているのと、座った時にうなじが見えやすいフォルムになっているので、露骨に露出面積が広いわけじゃないのにセクシーに見えるという状態を狙いました。
まだまだあるLola wed.の工夫「ブラを取ってもかわいいショーツ」
ちゃんもも◎:他にもわかりやすい例を挙げると、このランジェリーにもそうした工夫が詰まっているんです。いざセックスするぞとなった時に、多くの男性はブラジャーから先に外していると思うんですけど、ショーツ1枚だけになった時にかわいくあることってすごく難しいんですよ。
松島:うちのショーツは全部、上の部分にリボンがついていて、履いたときにお腹のあたりにバッテンマークがつくような感じになっていて。
ちゃんもも◎氏が言及しているのがこの「レースアップノンワイヤーランジェリー(ピンク)」(税込1万450円)。後述するが裏地は抗菌素材となっている。
ちゃんもも◎:ガーターベルトみたいでめっちゃかわいくないですか?
―― めっちゃかわいいです!(笑)。
「男に媚びを売る」と「自分に自信を持つ」は違う
―― 先に各アイテムのセールスポイントについて聞いてしまったんですが、改めてブランドのコンセプトについても教えていただけますでしょうか。
ちゃんもも◎:Lola wed.を立ち上げるにあたって、2つのコンセプトを掲げました。1つ目は「愛に溢れる夜にふさわしいアイテム」です。プライベートで大切な時間は夜に集中していると思っているのでナイトウエアを出したかった。
松島:「今後スマホはもっと進化するよね」「SNS上のコミュニケーションで完結しがちだよね」というような話はよくあると思うんですが、そんな中でも直に会って信用できる、愛する人と大切な時間を過ごすような時間に、私たちのブランドが胸を張って過ごしていられるために役立つ、自分のプラスアルファになれるような存在になりたい、というところから生まれたコンセプトです。
―― 雑で嫌な言い方になってしまうんですが、女性ファッション誌に「モテ服」みたいな文言が載ったりしますよね。その延長線で「男に媚を売る=自分の考えが無いビッチ」みたいな下に見るような発言をSNSでちょくちょく見かけます。ただお二人の話をうかがっていても、それって何か違うというか、「そんな単純なものでもないんじゃないか?」という気がするものの上手く言語化できなくてモヤモヤしていて。この辺りの機微について考えていることを教えていただけないでしょうか。
ちゃんもも◎:私自身も「男性よりも知識がなくて無害で清楚で、でも自分にだけは好意を向けてくれる」みたいな“男性目線の都合のいい女”という姿はよくないセックスアピールだと思っています。ただ、性的魅力があること自体はすごく素敵なことだと思いますし、エロい=悪いみたいな風潮は嫌いなんですが。
私は整形をしているという事実があるので、「ちゃんもも◎は男の人に好かれたいからそういうことをしているんでしょ?」って勘違いされることも多いです。「モテる」ということに振り切る人生もまた面白いだろうなとは思うものの、私の場合は異性のためではなく、自分のありたい人生を生きるために必要なことをやっているだけ、という認識なんです。
女性からでも、自身が優位に進めている性的な時間もたまにあるじゃないですか。自分に自信がある状態だからこそ、もう一歩踏み込んで相手に「好き」と言えることもあると思うんです。そういう状態を実現するためにこんな要素やパラメーターが必要だというものがあって、服でもメイクでも何か1つでそれが達成できるならすごく効率的だと思いますし、Lola wed.のアイテムもそういう風に使ってほしいなと思っています。
前澤さんと剛力彩芽さんが月に行く時はLola wed.のランジェリーをぜひ
―― すごくよくわかりました。ありがとうございます。2つ目のコンセプトもお願いできますでしょうか。
ちゃんもも◎:もう1つが「宇宙へ行っても可愛くありたい」です。私は昔から未来がどうなるかとか、宇宙のことなんかについてすごく興味があって、未来のファッションやコミュニケーションのあり方についてもすごく考えるんですよ。それで宇宙について色々調べていると、宇宙船内での衣服には、抗菌・消臭効果の高い素材が使われているということを知って。
なので、Lola wed.で出しているインナーウェア、ランジェリーやスポーツブラも、全部裏地に抗菌・消臭効果のある素材を使っているんです。
「スポーツノンワイヤー ブラ・ショーツ(セットアップ)」(税込8800円)。白・黒の2色展開で、ブラのみ(税込6270円)も販売している。
松島:これまでそうした機能があるインナーウェアって、生理用のものだったり、アウトドアブランドなんかも含めた「機能性の高い衣服です」っていうところをセールスポイントにしているものばかりで、ファッション性や可愛さと両立しているものは少ないなと思っていました。
ちゃんもも◎:最初はJAXA公認の消臭素材があるというのを知ってアポを取ってみたんですけど、「ウチが出してるラインナップと違って、ちょっとかわいすぎるかも」と交渉がうまくいかなかったり、売っていただけるとしても最低量のロットが大きすぎたりして折り合いがつかなくて。
松島:最低8000メートルからと言われて、「もうほとんど道じゃん!」みたいな量だったね(笑)。最終的には、ヨガウェアとかにも使われている良い素材があったのでそれを使っています。
ちゃんもも◎:元ZOZOの前澤さんと剛力彩芽さんが月に行く時にはLola wed.のランジェリーを持っていってほしいです。
―― それが実現したらものすごい宣伝になりますね(笑)。ところで昨今はインスタグラマーによるブランドが乱立し、元アイドル・現役アイドルによるブランド設立も珍しくなくなってきましたが、Lola wed.はどんなところで差別化を図っていこうと考えていますか?
松島:インフルエンサーのブランドを例に取ると、象徴となる美のイデアのような人がいて、「あの人みたいになりたい」っていう憧れが動機となって服を買っているという面が強いと思っています。Lola wed.もそういう要素がゼロとは言いませんが、ももちゃん自身がかわいくなるために努力をしてコンプレックスを乗り越えてきたという姿を見せて共感を勝ち取ってきた面があるので、見た目というよりは姿勢、「一緒に戦っていこう!」という、女の子たちをエンパワーメントしていくんだというスタンスを全面的に出しているのが違うかなと自分では思っています。
インタビュー本文では触れられなかったが、Lola wed.ではTシャツもラインナップしている。写真は「Kiss-Tshirts (New ver.)」(税込4620円)。映画のラブシーンを大きくプリントすることで、愛し合うことや性的なことをファッションの中に取り入れてオープンにアピールすることを意図しているという。
ちゃんもも◎:私はいずれ「ちゃんもも◎がやっているブランド」としてではなく、ここまでお話ししてきた考えに共感してもらったうえでブランドが自立してほしいと思っているので、サイトや広告に載せる写真のモデルに自分を起用しないようにしているんです。その世界を私はデザインや文章で表現できればいいなと。
松島:あとアイドル特有かなというところで思うのは、単にパフォーマンスをしてお金をいただくということだけでなくて、自分たちがどんな価値を提供し、お金をもらった分、あるいはそれ以上に還元できているかをすごく考えているなと感じます。
ちゃんもも◎:それで言うと、私が悩みを克服していく姿を見てもらうというのもそうですし、握手会やチェキ会でファンと触れ合ったり、あとはTwitterとかInstagramのDMでも女の子から「私も整形しようか悩んでいるんです」「好きな彼とどうやったら進展できるでしょうか」といった悩み相談が来たりもして、そういう現場の声みたいなものが結構届いているんです。それにSNSで返信するというのも皆やっていると思いますし、Lola wed.もそうした悩みを克服、解決するために役立ててほしいと思っています。
―― 今後、ブランドとしてどんな展開を考えていますか?
ちゃんもも◎:ブランドを始めてからは「かわいいって言ってもらえた」「次は彼とお揃いで着られるものを出して欲しい」という声をもらえるようになったので、今後はみなさんの要望にも応えられるように頑張っていきたいですし、男女お揃いで着られるアイテムの企画は具体的に動いています。
私は、Lola wed.のアイテムは全般的にアジア的なかわいさがあると思っていて、チラリズム的な部分だったり、欧米系のTバックどーん!で自信満々みたいなものとは対極にあるというか。ファッションとかコスメとかの潮流としても、アジア的なカルチャーが注目されていると思いますし、そこに食い込んでいけるようになっていきたいです。
松島:今回のコレクションで、いわゆる「寝巻き」としてのナイトウェアではなく、夜のお出かけ着としてのワンピースをリリースして、前述のももちゃんのこだわりもあり好評をいただくことができました。「ワンマイルウェア」(近所を出歩く際に適した服)という言葉は定着してきましたが、夜のお出かけからベッドに入るシーンまで可愛くいられるようなお出かけ着を増やして、ナイトウェアの定義を拡充していきたいです。
またランジェリーは普通のお洋服よりパーツが小さいですし、立体感もあるものなので、造形がほぼ建築というか…同業者の方から、アパレルの中でもかなり難易度が高いということをよく耳にします。そんな中でも例えば「盛れる」といったような機能性と、可愛さが両立した商品をリリースしていけるように、日々研究中です。
8月から9月にかけてラフォーレ原宿でポップアップショップを出店していたんですが、そこでは海外からのお客様も結構いるんです。ただ海外の方にはグラマーな方も多く、そうした方にもフィットするサイズ、ラインナップがばっちり揃えられているかというとまだ課題がありますし、ECでもまだ海外発送に対応できていないので、やるべきことはまだまだたくさんあるんですが、ももちゃんが考える「かわいい」の思想が海外でどういうかたちで受け止められるのかということは私も見てみたいですし、その辺りは何か画策していきたいと考えてます。