インターネット上での発信が盛んになった現代、芸能人・文化人以外にもインフルエンサーと呼ばれる世間に大きな影響を与えられる人物が随分と増えた。写真投稿のSNS・Instagramで企業から依頼を請けて商品を紹介するインスタグラマー。YouTubeに自作の動画を発表することで広告収益を得るYouTuber。ニコニコ生放送、ツイキャス、ふわっちなどで生放送を行うことで視聴者から支援を募る配信者。他にもTikTokerなど、続々と新しい発信チャネルに紐付いたインフルエンサーが誕生しつつある。
だが、地上波テレビ進出を果たしたり、お笑い芸人の地方営業のようなかたちでリアルイベントなどにも多数出演するような一部のプレーヤーを除けば、収入やその機会、つまり生殺与奪をプラットフォーム側に握られてしまっているともいえ、不安定な要素が大きいビジネスであることも確かだ。
現在の知名度や収入をテコにして新たなビジネスを切り開く配信者やYouTuberはいないのだろうかと考えていたところ、みずにゃん氏が近々起業をするという情報が舞い込んできた。一体彼はどんな事業を構想しているのか、動画配信という“ビジネス”についてどう考えているのか。話をうかがった。
聞き手:小林英隆・神保勇揮 文・構成:小林英隆 写真:神保勇揮
みずにゃん
起業家/配信者/YouTuber
生放送、動画を中心にインフルエンサーとして活動中。2010年頃にニコニコ生放送で配信者としてスタート。その後ツイキャス、ふわっちに舞台を移して生放送を続ける。2016年ごろにはYouTuberとしての活動も開始して17万人のチャンネル登録者を集めて自身の影響力を強めた。独自の見解を加えながら、旬な時事ネタを取り扱う。
スマホ1つで社会に影響を及ぼせる時代
―― 現代は「有名インスタグラマーに影響を受けてコスメを買う」といった事が普通に起きる時代ですよね。
みずにゃん:インターネットの発達に伴い発信チャネルが増加しましたよね。過去は広告代理店に任せる分野でしたが、現代は個人レベルでも社会へ影響力を持てるようになりました。スマホ1つで社会に自身を発信することができます。
―― 直接企業の広告塔となれるインフルエンサーだけでなく、YouTuberやニコ生、ツイキャスなどの配信者として生計を立てている方も結構増えてきましたよね。
みずにゃん:そうですね。誤解を恐れずに言えば、人気をお金に変えることができる時代になりました。インフルエンサーとしての活動がビジネスとしても成立しつつあります。
スモールビジネスを組み合わせる収益構造
―― インフルエンサーたちの収益構造についての見解を聞かせてください。
みずにゃん:僕自身の見解ですが、スモールビジネスを組み合わせで成り立たせると効果的ですね。例えば「配信者として10万円。YouTuberとして15万円。インスタグラマーとして5万円。合算して月収30万円」といったかたちです。
―― 1つの発信チャネルに依存しなくなるのでドル、ユーロ、円、ポンドなどの複数通貨を保有するようなかたちでリスクヘッジするのと似たことがができそうですね。
みずにゃん:インフルエンサーは自分の培った影響力を最大化させる努力した方が良いと思います。例えばTikTokerとしてある程度のファンベースができているなら、インスタグラマーとしてもフォロワーを集めるのは簡単だと思います。僕の場合は生放送と、YouTubeと2つのチャネルを使い分けることで相乗効果を狙っています。
―― みずにゃんさんが発信チャネルを複数に増やされたきっかけを教えてください。
みずにゃん:生放送で面白い場面があって、試しに切り抜いて動画としてYouTubeにアップしてみたら高い評価を貰えたのがきっかけでしたね。YouTubeは、生放送とは異なる魅力があります。
―― 失礼を承知でいえば、HIKAKINさんをトップYouTuberだとすると、みずにゃんさんのYouTube動画の再生数を見る限り、中堅といえそうな位置にいらっしゃるかと思います。正直なところ、みずにゃんさんは現在の配信活動のみで生計が立てられている状態なのでしょうか?
みずにゃん:生計は立てられています。僕が把握する限りですが、ネット生放送だけで月数百万を稼ぎ出すプレイヤーもいます。僕の場合はそんなに多くないですが、例えば今年4月のYouTube経由の収入は、一部上場企業の夏のボーナスより少し多いぐらいでした。これに加えてツイキャスなどの生配信の投げ銭の収入もありますし、僕の場合は株式投資をしているというのもあります。
視聴者の習慣をデザインする
―― みずにゃんさんは配信者としては結構古参で、2010年にニコニコ生放送の配信をスタートしていますたよね。今の視聴者層はどんな感じなのでしょうか?
みずにゃん:僕のコンテンツを楽しんでくれている視聴者は20代〜30代が非常に多いです。10代は4%程度です。
―― 活動を続けていく過程で自然と今の視聴者層になったのですか?
みずにゃん:いいえ、意図的にターゲットを絞っています。人間は習慣で生きる動物です。10代は小学校、中学校、高校、大学と進学に伴い生活習慣がコロコロと変わります。一方で20代〜30代は結婚、出産、育児などはあるかと思いますが、学生ほど大きくは生活習慣が変わらないので長く楽しんでもらえると考えてターゲットに設定しました。
僕は生放送、動画ともに旬な時事ネタに絡ませる事が多いです。ターゲットとも非常に相性がいいです。ターゲットが習慣として僕のコンテンツを楽しんでもらえるように心がけています。
―― 習慣が人に及ぼす影響に気づかれたきっかけは?
みずにゃん:TV番組の影響力からですね。例えばNHKの「21時のニュース」って習慣として観ている方が多いですよね。有名YouTuberたちが決められた時間に動画を投稿する戦略はとても有効だと思います。一度、習慣化してしまえば規則正しく視聴者を集めることができます。同時に、「みずにゃんなら、この系統の話題を取り上げるよね」っていう「らしさ」みたいな印象付けをすることも大切ですね。
文化を守るための自浄作用として
―― みずにゃんさんがよく取り上げるのは、モラルに反している配信者であったたり、時には法に触れてしまう「炎上YouTuber」についての話題です。ウェブメディアでも、対象がなんであれ批判的な論調の方が抜群にPVが取れるのは事実ですが、一方で自分が過ちを犯してしまった際には「あれだけ偉そうに批判していたのに」などと必要以上に叩かれてしまうリスクもあります。みずにゃんさんはなぜこのスタンスで活動しているのでしょうか?
みずにゃん:悪質なステルスマーケティングや、他にも迷惑行為で世間を騒がせたり色々とありますよね。
―― ご自身のチャネルでも何か事件が起きる度に意見を発表されていますよね。
みずにゃん:僕は間違っているものは間違っている言うべきだと思います。誰かが「NO」と言わないと視聴者が騙されてしまったり、勘違いしてしまうと思います。インフルエンサー間で自浄作用を働かせないと、せっかく醸成しつつある文化の衰退につながってしまいます。
好循環を作っていけるようにサポートしたい
―― みずにゃんさんは近々インフルエンサーが関係した起業をされるそうですが、どんな事業を手がけるのでしょうか?
みずにゃん:インフルエンサーたちが自身の影響力だけで食べていけるよう、好循環を作っていけるようにサポートしたいと考えています。インフルエンサーと企業の企業案件を仲介します。勿論、それだけではないですが、インフルエンサーに携わるものなら何でもやっていこうと思っています。
―― YouTuberなどの事務所は業界用語では「マルチチャンネルネットワーク(MCN)」と言ったりもしますが、先述のUUUMを筆頭に日本でも多数存在しています。その中でどんな独自の強みを打ち出していきたいと考えていますか?
みずにゃん:僕らはフォロワーが1万人~10万人レベルのマイクロインフルエンサーを中心にマネジメントを行ったり、キャスティングをします。勿論、YouTubeに限れば「UUUM」さん、「VAZ」さんがいて、インスタグラムでは、「タグピク」さん等がいらっしゃいますが、我々の強みは、AIやデータ化されたインフルエンサーPR戦略じゃなく、きちんと人の目でアナログに「企業様とインフルエンサーを結び付ける」形だと思っています。
―― 共に動くインフルエンサー達はもう確保されていらっしゃるんですよね?
みずにゃん:まだ具体的な名前を出すことはできませんが、僕の趣旨に賛同頂いた方々が様々な分野から集まりつつあります。
―― 起業に伴い、様々なインフルエンサーを研究されましたか?
みずにゃん:市場の動向把握も兼ねてしましたね…!例えばYouTuberを研究する場合、思いついたキーワードで検索してみて上位表示されたものをいわゆるSWOT分析として、Strong(強み)、Weak(弱み)Opportunity(機会)、Threat(驚異)の4つにわけて研究しています。
―― 研究の結果、見えた規則性はありますか?
みずにゃん:やはり有名インフルエンサーをマネするだけでは、影響力を拡大できないということですね。例えばHIKAKINさんに憧れている方が、似た構成の動画を発表していたり。それならば本家を視聴すれば済む話じゃないですか。もっと自分だけの特技、自分が誰にも負けないことを突き詰めるべきです。もちろん、欠点以外にも長所も見えてくるので「もったいない…」と感じます。だからこそ僕たちが手助けをすることができればと思います。
―― みずにゃんさんはまだまだプレーヤーとして活動できるのに、なぜビジネスの分野にも進出したいと考えたのですか?経営リスクも考えられるわけじゃないですか。
みずにゃん:僕自身がインフルエンサー文化の火付け役になりたいからです。日本のアニメや漫画などのポップカルチャが海外でクールジャパンとして認識されていますが、必ず火付け役が必ず存在したわけじゃないですか。そのために自分のインフルエンサーとしての影響力が残っている内に次のステージに進み、新しい文化を作り上げていきたいんです。
みずにゃん
Twitter:https://twitter.com/mizunyannyan
Instagram:https://www.instagram.com/mizunyancas/
ツイキャス:https://twitcasting.tv/mizunyannyan
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCtOQj6_XsfQ_AAm6GGRYlYQ