LIFE STYLE | 2019/05/21

結局、幼児教育って何をするのが良いの?世界一子どもが幸せな国で考える【連載】オランダ発スロージャーナリズム(13)

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吉田和充(ヨシダ カズミツ)
ニューロマジック アムステルダム Co-funder&...

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吉田和充(ヨシダ カズミツ)

ニューロマジック アムステルダム Co-funder&CEO/Creative Director

1997年博報堂入社。キャンペーン/CM制作本数400本。イベント、商品開発、企業の海外進出業務や店舗デザインなど入社以来一貫してクリエイティブ担当。ACCグランプリなど受賞歴多数。2016年退社後、家族の教育環境を考えてオランダへ拠点を移す。日本企業のみならず、オランダ企業のクリエイティブディレクションや、日欧横断プロジェクト、Web制作やサービスデザイン業務など多数担当。保育士資格も有する。海外子育てを綴ったブログ「おとよん」は、子育てパパママのみならず学生にも大人気。
http://otoyon.com/

日本とオランダの大きな違い

さて、今回は「オランダの幼児教育について書くのはどうでしょう?」という話をもらったところから始まったのですが…。「吉田さん、保育士だし説得力があると思うんで」ということだったんですが、実は今回、この話を書くのは非常に困りました。

ご存知の方も多いと思いますが、かつて行われたユニセフの調査でオランダは「子どもが世界一幸せな国」となりました。それ以来、その秘密を探りに日本からも多くの教育関係者、政府関係者などが訪れています。

実際、子育てを理由にオランダに移住した筆者の感覚としては、もう日本には戻れないな、というのが正直な感想です。つまりそのくらい、子育てをする環境としては恵まれていると思います。堅苦しさが微塵もなく、とても自由で、かつ子どもに対しては社会全体が思いやりと余裕を持って接していることが、はっきりと実感できます。子育て生活が非常に楽で、子ども自身もおそらく全くストレスがないと思います。こういう環境に慣れてしまっているので、「日本には帰れない」「日本ではやっていけないだろうな」と思ってしまうのです。もちろん、それでもオランダには、ストレスを抱えている子どもは思いのほか、多くいるという調査もあります。

しかし、ここでハタと思い悩んだのは「子育て環境が良い」ということは、必ずしも「幼児教育が良い」「幼児教育が進んでいる」というわけではないからです。むしろオランダの場合、いわゆる「幼児教育」はありません。そういう意味では、日本の方がかなり進んでいると思います。ただオランダ(というかヨーロッパ全体?)は、ハナから、先進的な幼児教育を普及させたり、誰もが競って幼児教育を行うという方向性は明らかに目指していません。ここに根本的な違いがあります。

ということで、オランダの幼児教育について書くことに困ったのです。

遠足の付き添いもストレスフリー

筆者が遠足の付き添いボランティアで行った森林公園

ちょうど良い具体的な例があります。それは先日、5歳の次男の遠足に付き添いで行った時のことでした。もともと平日にクラス単位で行われる、遠足の保護者による付き添いボランティアは大人気。時には抽選になることもあります。まあ、気軽な授業参観みたいなものでしょうか。これは、うちの子どもが通う学校だけでなく、オランダの学校でわりと広く行われているようです。

今回は、2週間前くらいに「次回の遠足にクルマを出せる人いない?」とのお尋ねがありました。たまたまタイミングが合わなかったのか、珍しくどの保護者からもヘルプがなかった様子。直前にもう1回お尋ねがあったので、「オランダ語、あんまり喋れなくても良いなら、クルマ出せますよ」と返信したところ、「ぜひお願い!」とのことで、遠足付き添いボランティアが決定しました。

「生徒が保護者のクルマに乗って遠足に行く」なんてこと自体、このご時世、日本ではあり得ないですよね?それこそ、事故が起こった時に誰が責任を取るんだ?とか、生徒を乗せるための運転の資格はあるのか?チャイルドシートはどうするんだ?とかの安全上の問題。他にも、数人の生徒だけが自家用車に乗るのは平等じゃないのでは?などなどの議論が起こりそうで…。

オランダでは、もちろんこんな議論は全く起こりません。まあ、クルマで15分という近場でもありますが…。逆にこんなことを日本で言ったもんなら、「距離の問題ではありません」と一刀両断されますね。はい。すいません。

ということで、このようなゆるいやりとりが先生との間で行われた後、いざ、遠足に行ってみました。自分のクルマに先生と次男と、クラスメートを乗せて。

実は筆者は、遠足の付き添いは長男のクラスで経験済み。その時の経験から、準備も特に必要なく、付き添いで行ったとしても特別することないのも知っているので、今回は勝手にカメラ係になりました。

これまた仮に日本で遠足について行ったりして、勝手に子ども達の写真を撮ったりすると、今時分は大問題になるかと思いますが、そういうことも一切なし。撮った写真をファイル共有ソフトを使って先生に送り、そして先生が「ビューティフルな写真をたくさん撮ってくれたよ!ありがとう!」と言って、同じくファイル共有ソフトを使ってクラスに配布。後日、学校に送り迎えで行くと、他の保護者達がみんな「写真、ありがとう!」と言ってきて、以上終了です。

一事が万事、このノリなので非常に楽なのです。普段、ママさん達は痛感していると思いますが、こうしたなんでもないことを、何の問題もなくストレスなくできることは、子育て環境的には非常に大切ですよね。オランダの子育て環境が良い、というのは実はこうしたことを言っています。何も特別なことがあるわけではないのです。

何も教えないのが一番の幼児教育?

さて、それでは実際に遠足のほうはどうだったのでしょうか?しかし、これまたレポートするのに、ちょっと困りました。というのは基本的に何も特別なことはやらなかったからです。

遠足で向かった先は、ただの森。基本的に遊具も必要最小限しかなく、特別なものは何もありません。ただ木と運河がある広場でした。

ここで日本と違うなあと思ったのは、森に着いた途端、子どもたちは勝手に思い思いの遊びを始めます。穴を掘り始める子、拾ってきた木を集めて秘密基地を作り出す子、鬼ごっこを始める子などなど、各自が勝手に遊び始めます。先生からの諸注意や、お話は一切ありません。ふと見ると、先生はコーヒー片手に子どもとおしゃべりしています。幸いこの日は天気も良かったのですが、日光浴している先生もいます。

一方、付き添いで来ているパパさん、ママさんは子どもたちと積極的に遊んでいます。鬼ごっこしたり、秘密基地作りを一緒にやったり。子どもたちに日焼け止めを塗ってあげたり。

しかし誰も「あれしちゃダメ」とか、「これしちゃダメ」という話をしません。子ども達は、完全に野放しになっています。小さな運河もあったり、高い木に登ったりしている子もいますが、「注意」する人は誰もいません。木の枝でチャンバラしたり、泥を投げて遊んでいる子もいますが、完全にみんながそれぞれに遊び込んでいます。ちなみに、子どもたちが夢中になって遊んでいる状態を「遊び込む」と言いますが、日本では、最近、これができない子が増えていると言われています。そのために、いろんな遊び道具があったり、環境を作ったりしているのが日本の保育界です。しかし、皮肉なことに遊び道具がない環境で、遊べる子、遊び込める子は、ますます減っているのが日本の子どもたちの現状と言われています。

このような日本の状況と比べると、森に来て、お話も注意も一切なく、いきなり子どもたちが森に放置されて、その放置された子どもが各々、遊び込んでいるという状況は、実は結構驚きの事態なのです。保育士的な視点からは。

もちろん、前日までに話はしてあったとは思いますが、少なくとも当日は先生の話は何もないのです。なんせ当の先生は、筆者のクルマに乗って来ていますから。

さらに日本と違うなあと思ったのは、いつもの学校でのおやつというか、ちょっとした軽食の時間になると、先生が何も言っていないのに、自然とみんなが集まってきて勝手に各自が持ってきたフルーツなどを食べ始めます。中には軽食を忘れた子もいたのですが、周りの子が自分のを分けてあげていました。もちろん、このやり取りには先生は一切介在していません。みんな、自然にやっています。ちなみに、この子達のクラスは、日本でいうと小学校入学前の4~6歳くらいの子のクラスです。

もちろん遊んでいる時はめちゃくちゃ元気よく遊んでいるんですが、こうした休憩時には、みんなで集まって、各自、いろんなところに座って食べていました。さらに帰りの時間になるとみんなが、思い思いに荷物をまとめて帰り仕度を始めて、バスに戻ります。筆者も帰りのクルマに乗ろうとすると、行きに同乗してきた子が勝手に交代して別の子が乗り込んできました。これらも先生が指示する事なく子どもたちが話し合って行なっていました。

今回の遠足の場で先生が何かを教えたり、指示することは一切ありませんでした。もちろん日本でも遠足で、事細かに何かを教えるという場面はないかもしれません。それにしても一切の指示も注意もなく、勝手に遊んで、勝手にランチを食べて、勝手に帰り仕度をする、という日本的には就学前の児童達の驚きの行動でした。

教えない、指示しないという意味では、子どもの習い事であるサッカーなどでも、オランダではあまり教えないように思います。基本的には本人が疑問を持って聞いてきて、初めてそれに応えるというスタンスです。もちろん、しっかり教えてくれるようなこともありますが、それでも日本のように懇切丁寧に教える、ということは傾向としてはあまりないように思います。子どもからの自発的、能動的なアクションに対してのリアクションをする、というのが基本的な姿勢です。

これは子どもの成長の観点から見ると時間がかかることではありますが、結果的には本人の身になるようなことが多いように思えます。

宿題も塾もない教育環境

PHOTO BY DARIA SHEVTSOVA FROM PEXELS

こうしたオランダの傾向を端的に表しているのは、学校の宿題がないことです。いわゆるドリル的な宿題は全くないのではないか?と思います。その代わり、例えばグループなどでの発表の機会は非常に多くあり、それについて(自主的に)調べたり、資料を作ったりすることはあります。

先日、9歳の長男がクラスの子と二人で行ったのは、音楽についての発表。テーマは「クイーン」にしたようです。そこでパートナーと一緒にクイーンについての発表を行いました。

その発表資料については、前日にパートナーの父親がチェックしたところ、あまり出来が良くなかったようで、結局、そのパパが作り直したようです。しかし、そこに至るまでは彼らは自分たちでパソコンを使って、インターネットで調べ物をして、資料をまとめていました。しかも、いつの間にか英語の資料を探していたりします。どうも今回の長男のパートナーは親の転勤経験あり、英語が喋れるようです。

話は脱線しましたが、このように宿題もなければ当然、塾もない教育環境です。偏差値的な指標もありません。厳密にいうとあることはあるのですが、それによって将来が決まって人生が左右され、人格否定されるようなことは決してありません。仮に多少、進路に影響があるとしても、少なくともそれが全てではありません。

さらにいうと、いわゆる幼児教室的なものもほぼありません。いや、もしかしたらあるかもしれませんが、周りで通っている子はいません。日本では、幼児からの英会話教室、体操教室、お絵かき教室、プログラミング教室などでは、他のお子さんに比べて、自分のところの子どもは、「あれができていない」「これが不得意だ」などと焦ったり、ヤキモキしたりすることもあるのではないでしょうか? オランダはこの手の教室は皆無です。スポーツクラブ、ダンス教室、音楽教室はありますが、いずれも趣味の世界を広げるもの。早期教育、幼児教育といった観点からの習い事は聞いたことがありません。プログラミングなどは、好きな子は家庭教師的な人に習ったり、今だとファブラボ的なところに出入りしていたりもいます。

もちろん習い事にもよりますが、一般的にはそこにかかる費用も日本と比べると格段に安いように思います。そもそも、なんと言っても基本的には教育費はタダですし。

こうしたことが様々相まって、オランダの子育て環境は非常に楽なのです。子ども自身が、非常にマイペース。他人と比べられないし、比べない。自分が楽しければそれで良し、という価値観は徹底しています。

もちろん、ここに書いたことはあくまでも筆者が見聞きする一般的なケースであって、オランダの全傾向を指し示しているとは限りません。ですが、一言でいうと、オランダ人はそもそもここに書いてあるようなことを誰も気にしていない、という感じもします。

まあ、身もふたもない結論ですが、他人を気にせず、好きなことにマイペースで取り組む環境こそが、気楽な子育て環境を作っているかもしれません。そして、ここが日本との最大の違いのような気もします。日本では幼児教育にお疲れのママさんもいるかと思います。ぜひ、子どもが世界一幸せな国、オランダにお子さんと来て、自由な空気を味わってみてください。


次回の公開は6月15日頃です。
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