CULTURE | 2020/04/28

事業費を倍増した矢先の大きな誤算。どん底からの再スタートで見えてきた地域活性・観光振興におけるアートの役割【連載】「ビジネス」としての地域×アート。BEPPU PROJECT解体新書(7)

『混浴温泉世界 2015』クロージングの様子
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構成:田島怜子(BEPPU PROJECT)
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『混浴温泉世界』10年間の開催データから浮き彫りになった課題と成果

『混浴温泉世界』開催データ(一部)

3回の開催を経て、成果や課題が浮き彫りになりました。

初回のメインターゲットは20代・女性・個人客でした。3回とも女性・個人客が主要であるという点は変わりませんが、年齢層は2012年は20代から30代、2015年は30代と推移しました。これは事務局職員の平均年齢と比例しています。つまり、彼らが歳を取るにつれ、広報や営業の対象となる層の年齢も上がっていったということです。これは我々の大きな課題でもあります。今後は若く経験の浅いスタッフも積極的に販売や営業活動に関わることが重要であると考えています。

また、来場者の多くが県外客であることから、この芸術祭の地域活性における成果を観光消費額の計算式に基づいて測ると、彼らの滞在時間こそが重要であることがわかります。

『混浴温泉世界 2015』はツアー形式で、少人数限定の予約制だったため、チケットは前売りのみで売り切れてしまいました。しかし、チケットが完売しても集客数は2012年の半数以下が限界です。ツアーを増便する対応策も取りましたが、プログラムの構造上、これ以上観客を増やすことはできませんでした。しかし、観光消費額においては2015年は12年を上回る結果となったのです。これは、ツアーを夕方開催したことによって、県外客の参加には宿泊を伴う必要があったことが大きな誘因でした。

加えて、アンケート調査によると2015年は『混浴温泉世界』だけでなく、県内他地域にも足を運んだ人たちがさらに滞在日数を伸ばしていたこともわかりました。2015年は広域連携を強く意識し、BEPPU PROJECTが関わった『国東半島芸術祭』や『おおいたトイレンナーレ』をはじめ、県内における文化的な取組を紹介するガイドブックを発行したことがこれに影響したと考えられます。また、platformを拠点とすることによって、中心市街地にも一定の経済効果を上げることができました。これらの成果は、文化振興とともに地域活性や観光振興を目指す混浴温泉世界実行委員会にとって重要なデータとなりました。これを発表すると、『混浴温泉世界』をはじめとする文化事業が大分県の観光計画に取り入れられるなど、アートの取り組みが観光の観点で語られることも増えていきました。

たとえば、有名なミュージシャンがコンサートを開催して多くの観客が集まったとしても、そのお客さんの目的はあくまでもコンテンツであり、町ではありません。このような企画はどこでも成立するため、地域の観光や経済に影響を及ぼすことはほとんどないのだそうです。

別府は温泉の町です。しかし僕らの企画は温泉を入口にしたものではありませんでした。あくまでもアートを入口に町を訪れ、結果として温泉や地域の魅力に出会い、町そのもののファンになっていくよう組み立てたのです。そのためには、僕の原点である路地裏散策を実践していた先輩方のように、たとえ一人のお客様に対しても丁寧に向き合うということを何よりも大切にしました。結果として『混浴温泉世界 2015』は多くの反響をいただき、今でもお会いするたびに、当時の体験や思い出について語ってくださる方もいらっしゃいます。

『混浴温泉世界 2015』クロージングイベントで挨拶する山出

『混浴温泉世界 2015』の最終日、僕は地域の方々をはじめ、多くの観客やボランティアスタッフやアーティストの皆さんに囲まれてお礼のご挨拶をさせていただきました。そこには、その年の春に就任したばかりの若い市長も来ていました。彼は僕に「この熱を絶やしてはいけない。別府の町にはアートが必要だ」と声をかけてくれました。

僕はその言葉に背中を押され、次の企画を考え始めていました。


【BEPPU PROJECTからのおしらせ】

KASHIMA 2019 BEPPU ARTIST IN RESIDENCE 滞在成果展 配信中

BEPPU PROJECTが2008年より継続開催しているアーティスト・イン・レジデンスプログラム『KASHIMA』。別府の温泉文化のなかに息づく湯治のための宿泊形態「貸間」から名付けられたこのプログラムでは、国内外のアーティストが町や地域の人々との交流のなかでさまざまなインスピレーションを受けながら滞在制作します。

今年度は、東京を拠点に活動する中山晃子と、『ラグビーワールドカップ2019日本大会』を契機に交流を始めたウェールズよりフレイヤ・ドゥーリーを招聘しました。 新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するため一般公開を中止した滞在成果展および中山晃子によるパフォーマンスの様子を、インターネットで配信しています。

フレイヤ・ドゥーリー
『Scenes From Between the Mountains and the Sea (海と山、繋がれるシーン)』

*この映像は展覧会記録用に作品映像を編集しております。

中山晃子
『Drawing』

中山晃子パフォーマンス
『Alive painting in Beppu』

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