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渡邉祐介
ワールド法律会計事務所 弁護士
システムエンジニアとしてI T企業での勤務を経て、弁護士に転身。企業法務を中心に、遺産相続・離婚などの家事事件や刑事事件まで幅広く対応する。お客様第一をモットーに、わかりやすい説明を心がける。第二種情報処理技術者(現 基本情報技術者)。趣味はスポーツ、ドライブ。
職場での「セクハラ」とは?
ひと昔前よりも女性の社会進出が進み、そして企業や労働環境におけるコンプライアンス意識の高まりもあってか、以前までは問題ないものと思われていた言動などが、今では「セクハラ」にあたるとして非難されたり、場合によっては懲戒処分となったりするようなケースも身近になってきています。
そもそも「セクハラ」とはどういうものを指すのでしょうか。
男女雇用機会均等法(以下「均等法」といいます)上の職場におけるセクシュアルハラスメントは、「職場」において行われる、「労働者」の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応により労働条件について不利益を受けたり、「性的な言動」により就業環境が害されることとされています。
「セクハラ」というと真っ先にイメージされるのは、男性が女性に対して性的に嫌な言動をすることだと思われがちですが、そうではありません。職場におけるセクシュアルハラスメントには、異性に対するものに限らず、同性に対するものも含まれます。女性から男性に対する、いわゆる「逆セクハラ」が対象になるのはいうまでもなく、同性同士のものであっても含まれるのです。
セクハラの範疇となる「職場」はどこまでを指す?
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職場というと、場所が会社などの事業所である場合に限られるのかといえば、そうではありません。労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、労働者が業務を遂行する場所であれば「職場」に含まれます。
たとえば、取引先の事務所、取引先と打ち合わせする際の飲食店(接待の席なども含む)、顧客の自宅、取材先、出張先、業務で使用する車中などはその典型です。
よく問題になるのは、たとえば、職場の忘年会など、勤務時間外のケースです。こうしたケースでも、実質上職務の延長と考えられるものは「職場」に該当するとされています。そして、その判断にあたっては、職務との関連性、参加者、参加が強制か任意かといったことを考慮して個別に判断されます。
職場の忘年会の場合だと、業務それ自体ではないとしても、職場環境や組織内の人間関係の円滑化などの趣旨もあるでしょうから、職務との関連性はあるといえるでしょう。
また、参加者とひと口にいっても、職場の管理職や従業員のほか、取引先の人が参加する場合もあるかもしれません。この場合、取引先と親睦を深める目的や接待としての意味合いもあるでしょう。
参加の意思については、必ずしも強制とまではいえなくても、職場の忘年会は参加を推奨されるケースも多いのではないでしょうか。こうした状況を考慮すると、忘年会などの飲み会でのセクハラも、「職場」の範疇となります。
というわけで、仕事関連の忘年会や飲み会で、酔った勢いにまかせて異性を口説くようなことがあれば、場合によっては、セクハラとみなされることがあるので注意が必要です。
「性的な言動」の線引きは?
あらためて「性的な言動」の法的な定義について紹介すると、①性的な内容の発言、および、②性的な行動を指します。
そして、類型としては、性的な言動に対する労働者の対応により労働条件について不利益を受けるケース(対価型セクシャルハラスメント)と、性的な言動により就業環境が害されるケース(環境型セクシャルハラスメント)という2つに分かれます。
それぞれの内容や類型について具体的に見ていきましょう。
性的な内容の発言とは?
性的な内容の発言には、性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報(噂)を流すこと、性的な冗談やからかい、食事やデートへの執拗な誘い、個人的な性的経験談を話すことなどが含まれてきます。
「男らしさ」や「女らしさ」など性別役割分担意識を強調するような発言も性的な内容の発言にあたります。たとえば、「若い子に入れてもらったお茶はおいしいなぁ!」「もうちょっと色気のある服を着たら?」「足がきれいだね」「男のくせにそんなこともできないの?」などといった発言はセクハラ発言になるでしょう。
いわゆる下ネタトークなども性的な発言にあたります。お酒の席などで盛り上がってエスカレートしてくると、下ネタで盛り上がる場面も少なくないと思いますが、場合によってはセクハラとされることもあるため、注意が必要です。
そこまでいかなくても、恋人や配偶者に関する質問、性的関係、夫婦生活などに関して詮索することも、会話の流れで本人が嫌がっているとすれば、セクハラにあたります。
また、相手に色々と質問しないまでも、自分自身の性的経験を武勇伝のように語るのもセクハラとなる場合があるので、こちらもご注意を。
こうした話題は男女で集まってのいわゆる合コンなどではありがちなトーク内容かもしれませんが、職場の飲み会であるのに合コンのようなノリで突き進んでしまうと、大いにセクハラのリスクがあります。
同じことをするのでも、少し場面や状況が変わるだけで、セーフなものがアウトになってしまうかもしれないのが、セクハラリスクの怖いところなのです。
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性的な行動とは?
性的な行動といえるものとしては、性的な関係を強要すること、必要なく身体へ接触すること、わいせつ図画を配布・掲示すること、強制わいせつ行為・強制性交などがあります。
最後の強制わいせつ行為や強制性交などはセクハラを通り越して、もはや刑事犯罪です。アウトなのは言うまでもありません。
ボディタッチの多い文化の国などでは、多少事情は異なるかもしれませんが、少なくとも日本に限っていえば、業務上で相手の身体に触れる必要性があるケースはかなり限られています。
よく争いになるケースとしては、なんの悪気も性的な意図もなく、軽く肩をポンと叩くような場合です。これらを行う側が、元気づけや勇気づけのつもりで、まったく性的な意図などなくても、触れられた相手が不快に思い、意に反すると捉えられれば、セクハラになってしまう可能性があるのです。よかれと思って疲れた従業員の肩を揉むなどといったことも、セクハラになり得る行為です。
わいせつ雑誌をいつもデスクの上に置いておいたり、職場の壁にヌードの写真を貼り付けたりすることも、セクハラのリスクがあります。
対価型セクシャルハラスメントとは?
「対価型セクシャルハラスメント」とは、労働者の意に反する性的な言動に対して、労働者の反応(抵抗や拒否)により、その労働者が解雇、減給、労働契約の更新拒否、昇進・昇格の対象からの除外、客観的に見て不利益な配置転換などの不利益を受けることです。
典型例としては、上司が部下に交際や性的関係を要求したところ、拒否されたために、部下を左遷や解雇すること、または上司の職場でのセクハラ発言について部下が抗議したところ、その部下を降格するといったことがあります。
事業主による性的な言動それ自体も問題ですが、これに対する労働者のリアクションにより、その労働者が労働条件上で不利益を受けるようなことはあってはならないのは言うまでもありません。
環境型セクシャルハラスメントとは?
「環境型セクシャルハラスメント」とは、労働者の意に反する性的な言動によって労働環境が不快なものとなり、パフォーマンスに重大な悪影響が出たり、就業する上で看過できない程度の支障が生じたりすることです。
典型例としては、上司が労働者の腰や胸などに度々触るなどしたため、その労働者が苦痛に感じて就業意欲が低下するようなケース。または、事業所内にヌードポスターを掲示しているために、労働者が苦痛に感じて業務に専念できないといったことがあります。
これもセクハラ? 時代とともに変化する許容性
ひと昔前であれば、当たり前のようにまかり通っていたことでも、現在だと「セクハラ」とされるケースも多々あります。
男性から女性に対するものでは、NGなアクションは多々あります。たとえば、ほかの女性社員の前で特定の女性の容姿を「素敵だね」「きれいだね」などと褒めること。それから、酒の席で女性にお酌を命じたり、男性の隣に座ることを命じたりすること。さらに、部下や後輩で特定の女性だけを「ちゃん付け」で親しげに呼ぶこと、女性の胸や脚を凝視したり、舐めまわすように見たりすること、彼氏の有無を聞くこと、結婚の予定を聞くことなどなど。
こうしたものは、ひと昔前であればまかり通っていたものかもしれませんが、相手の意に反するのであれば、立派なセクハラです。
これらの言動は、同じ職場でそれを見ているほかの従業員にとっても不快に映るものですから、相手に嫌がるような様子がないとしても、控えておくべきでしょう。
女性から男性に対するものでは、女性上司が部下に「男のくせにだらしないわね。もっとがんばりなさい」などと言うこと、「男ならこれくらい運べるわよね」などというような発言も、今ではセクハラと言われるでしょう。
近年では、LGBTをカミングアウトする人なども増えてきていますが、LGBTであることについて冗談を言ったりからかったりすることも、当然ながらセクハラになり得ます。
昭和の時代に、某局系バラエティ番組で「保毛尾田保毛男(ほもおだほもお)」というキャラクターが登場してお茶の間を笑いの渦にしていました。ところが、2017年に同番組の30周年記念スペシャルで同キャラクターを登場させた際、LGBT団体から同局に抗議文が提出され、同局長がこれに陳謝する事態に至ったことは、記憶に新しいところです。
時代が変化しているなかで、セクハラに関するセミナーを開く企業も多くありますが、世代間の意識の違いが表れやすいといいます。若い人々からすると当然セクハラにあたると思えるケースでも、年輩世代の意識が昔のままで、「こんなことがセクハラになるの?」と思う場面も多いようです。
セクハラに限らず、職場においてひと昔前では当たり前だったようなことが、現在ではあり得なくなったものは少なくありません。
今の若い人々からすると、ひと昔前では職場のデスク上で喫煙しながら仕事ができる会社も多かったということも驚きかもしれません。
時代が変わるにつれて、意識やルールが整備されて、より働きやすい職場環境に変えていこうという流れがあり、セクハラを取り巻くルールが変わってきていることもそのひとつなのです。
よくあるセクハラの言い訳
セクハラをした人が揃って口にする言い訳として、「嫌がってなかった」「拒否されなかった」「受け入れられていると思った」などというものや、「本当にきれいだと思ったから褒めただけ」というもの、「親しみを込めてちゃん付けで呼んでいるだけ」などというものがあります。
大抵のケースは、相手は口に出さず表情に出さないだけで、本心では本当に嫌がっているのです。加害者側の勘違い・思い違いです。
ただ、残念ながら、セクハラをされた側にも、その時点では意に反していなかったのに、トラブルをきっかけに、後から「嫌でも言えなかった。意に反する性的な言動を受けた」などと訴えてくる人も少なからず存在するのも事実です。
そのようなセクハラ冤罪も含めたセクハラ絡みのトラブルを未然に回避するには、相手が嫌がっているかどうかに関わらず、はじめから性的な言動にあたることはしないに越したことはありません。
福山雅治さんならセクハラで訴えられることはない?
よく耳にするもので、「触る人が誰かによってセクハラの成立・不成立が決まるのはおかしい!」というボヤキに近い意見もあります。
人間誰でも好き嫌いや相性もあります。「Aさんに触れられるのは嫌だ」「Bさんなら触られてもいい」など、意に反するかどうかは、相手次第ということは現実としてあるでしょう。
ラジオなどで下ネタトーク全開の福山雅治さんのトークが聴衆に受けているのは、福山さんがBさんのような人だからです。
傾向として、職場でのセクハラで訴えられるケースとして加害者になりやすい人は、自分に自信があるほか、異性受けがよい人生を送ってきたと思われる人が多い印象です。
逆に自分に自信がなく、異性受けがよくないタイプは、そもそも異性に対して積極的でなく、気軽に相手の身体に触れるようなことはしないものです。
これに対して、それまでの人生である程度モテてきたような人になると、「自分は嫌がられないから触れても大丈夫」「相手もOKなはずだ」と勘違いしてしまいやすいのかもしれません。
他人に迷惑をかけないというのは社会の基本です。セクハラのリスクをいかに回避するかという観点からすれば、他人に無闇に触れば嫌がられることを認識し、自分は福山雅治とは違うということを自覚しておくことが重要だと思います。
親しい人間関係を築くにあたって
「最近は、ちょっとしたことでもセクハラ・パワハラって言われちゃう。世知辛い世の中になったものだ」「そんなに縛られたら仲良くなろうにもなれない」などという愚痴はよく耳にします。
たしかに、人同士が親しい関係を築き、仲の良い関係を築くにあたって、お互いの共通項の話、多少プライベートに突っ込んだ内容の話、そしてお互いに笑え話などが効果的なのは周知の通りです。
時には、性的な内容やプライベートな異性関係の話で盛り上がったり、ちょっとした下ネタ話で一緒に笑い合あったりすることで、一気に距離が縮まることも多々あるでしょう。
そうだとしても、親しい人間関係を築くための話題は決して性的な内容でなくてもよいはずです。手っ取り早いということでセクハラとなるリスクのある話題に飛びつくよりは、別の部分でのお互いの関心事や共通項を模索することで、お互いをより深く理解することにもつながるのではないでしょうか。