ITEM | 2020/03/02

メイドインチャイナ=粗悪品という考えは要アップデート。BL、ネットアイドル、ヒップホップ、何でもござれのニューウェーブ【小山ひとみ『中国新世代 チャイナ・ニュージェネレーション』】


神保慶政
映画監督
1986年生まれ。東京都出身。上智大学卒業後、秘境専門旅行会社に就職し、 主にチベット文化圏...

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神保慶政

映画監督

1986年生まれ。東京都出身。上智大学卒業後、秘境専門旅行会社に就職し、 主にチベット文化圏や南アジアを担当。 海外と日本を往復する生活を送った後、映画製作を学び、2013年からフリーランスの映画監督として活動を開始。大阪市からの助成をもとに監督した初長編「僕はもうすぐ十一歳になる。」は2014年に劇場公開され、国内主要都市や海外の映画祭でも好評を得る。また、この映画がきっかけで2014年度第55回日本映画監督協会新人賞にノミネートされる。2016年、第一子の誕生を機に福岡に転居。アジアに活動の幅を広げ、2017年に韓国・釜山でオール韓国語、韓国人スタッフ・キャストで短編『憧れ』を監督。 現在、福岡と出身地の東京二カ所を拠点に、台湾・香港、イラン・シンガポールとの合作長編を準備中。

きっかけは2001年。中国カルチャー、激動の20年

Made in China=粗悪品、Made in Japan=良品というイメージは、もう過去のものとなった。小山ひとみ『中国新世代 チャイナ・ニュージェネレーション』(スモール出版)は、音楽、アイドル、映画、ファッションなど中国カルチャー・エンターテインメントの最新動向を紹介している。

著者は1996年に中国・北京へ留学し、現在は中国ユースカルチャーを得意とするライター・通訳者・翻訳者・キュレーターとして活躍している。留学先のひとつは、多数の映画監督を輩出している北京電影学院。北京で現在に至る転機となったのは2001年頃(2008年にオリンピック開催が決定した時期)だというが、著者は国営ラジオ局で2003年から2005年にかけて働き、めまぐるしい町の変化を間近で目撃していた。1990年代の中国と現在の中国の最も大きな違いは、インディビジュアライゼーション(個人化)が浸透したことだという。

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あれから20年以上の時が経ち、今、私が親しくしているミレニアム世代やZ世代(90年代後半〜ゼロ年代生まれ)の若者たちが、「俺(私)たち中国人」「君たち日本人」という言い方をしているのをこれまで一度として聞いたことはない。彼らは自分のことも私のことも、一人の「個人」として見て接してくれている。(P19)

ご存知の方も多い通り、中国ではインターネットの閲覧規制があり、YouTubeやFacebookを使用できず、Youku(中国版YouTube)やWeibo(中国最大のSNS)など類似した独自メディアが発達してきた。本書によると2018年時点でのWeibo登録者数は7億人、Twitterは3億人だという。

音楽ではヒップホップがアツく、中国版「フリースタイルダンジョン」と言えそうなネット番組「The Rap of China」も大人気(あまりの人気に2017年には政府からラッパーのTV・ラジオ出演などを禁ずる「ヒップホップ禁止令」すら出された)。新疆ウイグル自治区など出身の少数民族の有名ラッパーも誕生し、音楽アプリ上には1日100曲以上がアップされて切磋琢磨が行われているそうだ。

また、ヒップホップに付随してダンスもブームとなっており、アイドルは韓国アイドルからの影響が強く、メイクも含めて若者が夢中になっているそうだ。日本でも世界の各地でもこのような現象は起きているものの、人口が日本の約11倍で世界一の中国においては、大きなムーブメントや経済効果を生むパワーとなっている。

Made in Chinaを誇りに思う新生代

本書では著者のネットワークを活かしたインタビューが随所で挿入されているが、アイドルコンテンツに特化したアプリ「Owhat」をつくったディン氏は、アイドルファンの動向からアプリ開発を思い立ったきっかけをこのように語っている。

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2014年は、ちょうどオンライン番組『Super Boy(快乐男声、スーパー・ボーイ)』のシーズン3が終わった頃で、その番組の出演者の男性がファンミーティングを行っている会場に行く機会があったんです。そこにいる大勢のファンの子たちを見て、「そうか、好きなアイドルがいれば、そこに行って他のファンたちとすぐに繋がって、コミュニティが生まれるんだ」っていうことに気づいたんですね。低コストでコミュニティが誕生するのが面白いなと。(P68)

中国においても、新しい技術がコミュニティのあり方を変容させている。その一つが「代購」だ。「代わりに購入する」ということを意味するこのサービスは、中国の広大さや、外の世界に積極的に飛び出す中国新世代のスタンスによって生み出されたといえる。

地方の若者はなかなか都心のショップにアクセスできない。セレクトショップに行き、試着をしてWeChat(中国版メッセージアプリ)に写真などの情報をアップをし、それを欲しいと思った消費者の代わりに商品を購入、そして発送までするのが代購だ。プロの代講は為替レートを勘案した上で世界各地を飛び回ったり、海外にいる留学生が代講の業務を引き受けたりすることもあるという。

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実は、元々ファッション業界にいた人が代購をしているケースも少なくなく、地方都市のミレニアルズにとって、代購の彼・彼女たちがファッションリーダー的な存在になっているのだ。自分でコーディネートできない人が、代購にアドバイスをもらって数着セットで購入というケースもあるらしいので、代購はもはや「一人セレクトショップ」の様相を呈している。(P90)

新世代の服の好みは無印良品やユニクロなどのように洗練されてミニマムなデザインよりも、インパクト重視で一点物感のあるデザインで、Made in Chinaに誇りを持っている人が多いことが特徴だそうだ。「自分だけのものが欲しい」という消費欲求は、写真集やZINEを売り出すアートブックフェアの流行などにもつながっていることが、本書では紹介されている。

日本との親和性も数多い、中国新世代芸術・エンタメ・メディア事情

かつて文化大革命(という名の文化破壊)を経験した中国は、改革開放の号令のもと1980年代初頭から徐々にメディア・コンテンツや文化・芸術を再構築していった。映画に関して言えば、1993年にハリソン・フォード主演のアメリカ映画『逃亡者』が改革開放後に上映された外国映画の第一号で、そこから市場経済型の映画配給スタイルにシフトしていった。

現在の中国映画界・期待の星は1984年生まれのビー・ガン。約800万円という低予算で撮られた『凱里ブルース』は筆者がプログラム編成に関わっているアジアフォーカス福岡国際映画祭でも2016年に上映されたが、圧倒的な世界観で映画祭や日本各地の特集上映でインディペンデント映画ファン・アジア映画ファンをうならせた。最新作の3D長編『ロングデイズ ・ジャーニー この夜の涯てへ』は2019年のカンヌ映画祭でプレミア上映され、60分の3D長回しショットの賛否が話題となったが、日本でも2月28日から全国で順次上映されている。

映画やテレビのトピックでは、「毒親」という日本独自と思われるような題材も一人っ子政策の影響で共通性があり、日本のコンテンツの注目度は高いという。なかでもBL(ボーイズ・ラブ)は厳しい規制を受けつつも人気があり、男子高校生の同性愛を題材にした中国発のネットドラマ『ハイロイン』は、一時国内での放映が中止されつつも大反響となったそうだ。

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日本のドラマも根強い人気のようで、特に、数年前に放送された『昼顔』は、私のミレニアルズの友人が「キャーキャー」言いながらWeChatでシェアしていたのを覚えている。「確かに、あの濡れ場は中国では見られないよなぁ」と思ったりした。(P153)

「ネットセレブ」と呼ばれる、ライブ配信でアイドル活動を行う女性たちがものすごい金額を稼いでいることも紹介されている。Huajiao Liveというライブ配信サービスで2016年から活動しているXという女性は、天津で音楽と映像を専攻していたが、「若くて稼げるうちに稼ぐ」という考えのもと、ライブ配信でファンを増やしはじめた。

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実際、ファンからの課金などで彼女はいくら稼いでいるのだろうか? 色々と引かれる部分はあるものの、一ヶ月で平均手取り15万元(約240万円)と聞いて「さすが、生配信大国、中国!」と驚いた。でも、ここまで稼いでいる人はそうそう多くはないようだ。(P210)

上海の広告会社に勤めている若者の月給が4000元(6万4000円)という事例が本書で紹介されており、それと比較するとネットセレブの集金力のほどが伺える。WeChatでファンとコミュニケーションをして、視聴者の精神的な支えとなる。そんな稼ぎ方が新しい世代にとっては立派な生き方のひとつだというのは、日本人の新世代にとっても親近感が湧くかもしれないが、おそらく冒頭の引用にもあったように、「日本の」「中国の」と国単位で括ることはあまり意味がないのだろう。新世代のグローバルなトレンドをキャッチするひとつの手がかりとして、様々なジャンルについて横断的に理解を深めたい方にオススメの一冊だ。