取材・文:6PAC
世界的にひっ迫するマスク需要
© 2020 Airinum AB
新型コロナウイルスの勢いが止まらない。日本でも感染者がじわじわと増え始めている。感染者の増加と共にマスクの需要も右肩上がりとなっている。世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長も、2月7日の記者会見で、「(マスクや防護服などの)需要は最大で通常の100倍、価格は最大で通常の20倍となっている」とコメントした。
マスクを販売する日本の小売店でも買い占めがニュースになったりしているが、中でも「N95マスク(Particulate Respirator Type N95)」と呼ばれる高機能マスクに対する需要が強いようだ。各国のECサイトやフリマアプリなどでは、高機能マスクが高値で販売されている現実もある。
そんな中、東京・京都・大阪にあるニューヨーク近代美術館(MoMA)の公式ストア「MoMA Design Store」で、2月3日にスウェーデン発の高機能マスク「ARINUM アーバンエアーマスク 2.0」が発売された。前述のWHO事務局長の言葉を裏付けるかのように、税込7920円と高価格にも関わらず、早急に売り切れてしまった(なおMoMA Design Storeには、3月下旬に再入荷の予定があるそうだ)。
ならばと販売元のエリナム(ARINUM)社のサイトを開いてみたのだが、トップページの一番上に「残念ながら、現在すべての製品が完売となっています。(All products are unfortunately sold out at the moment.)」という注意書きが表示されていた。
森林火災後のオーストラリアからの需要も重なる
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新型コロナウイルス発生後、どれほど需要が強いのかエリナム社広報のマリア・アーンルンド氏に訊ねてみた。
新型コロナウイルスの発生確認後にすべての在庫がなくなったわけだが、「新型コロナウイルス発生前にも、オーストラリアの森林火災の影響でオーストラリアからの購入が増えていました。通常よりも多くの売上があったため、現在は完全に売り切れ状態となっています」と話してくれた。
そもそもアーバンエアーマスクは、「世界中の自分自身の健康に対して高い関心を持っていて、健康を維持したい人たちに人気があります」という。購入者の多くは、「喘息、アレルギー、慢性疾患、または大気汚染のひどい地域に住んでいる人々」だ。
新型コロナウイルス発生後は、世界中のジャーナリスト、インフルエンサー、小売業者、そして一般消費者から無数の問い合わせが入っているという。マスクの着用が一般的で新型コロナウイルスの脅威が身近なアジア地域だけでなく、南北アメリカやヨーロッパといったマスクを着用することがあまり一般的ではない地域からの問い合わせが急増した。
中国にある製造ラインはストップ。再開は4月を目途
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スウェーデン発を謳っているアーバンエアーマスクの製造拠点は中国にある。中国の工場は、「新型コロナウイルスが発生した武漢市からはかなり離れた場所にあります。工場では無菌状態で作業しています」とのこと。皮肉にも、世界の工場である中国で新型コロナウイルスが発生してしまったため、現在は「製造ラインがストップした状態」だ。
今後の予定については、「正確なことはまだ見えませんが、製造ラインの再開は4月を目途にしています。その後、ヨーロッパにも製造拠点を設ける計画です」と話す。感染症の脅威はすでにチャイナリスクとしてカウントされていたが、新型コロナウイルス発生を受け、今後中国だけに依存するのではなく、複数箇所に製造拠点を構えるというリスクヘッジをかけてくる企業は同社に限らず増えてくるのだろう。
最初から高額であるアーバンエアーマスクの転売状況について訊ねてみた。すると、「個別のケースについてコメントすることは差し控えますが、一般客を装ってを購入し、定価以上の価格で転売しているケースがあることは把握しています。誰もが平等に綺麗な空気を吸えることができるようにしたいのが当社の願いなので、当社製品が転売されているのは非常に遺憾です」と語ってくれた。
最後にアーバンエアーマスクのような高機能マスクを本当に必要としている人にメッセージがあるか訊いてみた。
同氏は、「人間は毎日約2万回呼吸します。空気は人間の生存に不可欠です。あまり綺麗でない空気を吸うと、私たちの健康に深刻なダメージを与え、喘息、呼吸器疾患、癌、脳卒中、さらには死に至る可能性があります。実際問題として、大気汚染が原因で年間700万人が命を落としています。あまりにも多すぎる数字です。
大気汚染、花粉、バクテリアやウイルスなどから自己防衛するため、アーバンエアーマスクはより清潔な空気を呼吸できるようにします。当社は高機能マスクという製品を通じて、空気の質に対する認識を高めるという使命とともに、地球上のすべての人に綺麗な空気を提供できるようにしたいと考えています」と答えてくれた。
高機能マスクに限らず、マスクが1日も早く安定供給され、必要としている人に十分な数のマスクが行き渡ることが望まれる。