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文:神保勇揮(FINDERS編集部)
一見激安だけど、合計すると毎月10万円…?
東京都は2018年12月から「東京都ベビーシッター利用支援事業」を開始している。
東京都の待機児童の数は2019年4月時点で3690人。これでも前年より1724人減ってはいるが、ダントツで全国ワースト1の数字だ(ちなみに2位は沖縄県の1702人)。この制度を活用することで、待機児童の保護者の負担が少しでも減ることが期待されている。
同制度は中野区・大田区・三鷹市など全14の区・市(2月10日現在。2020年4月から開始予定の自治体も含まれるが今後増える可能性もあり、各自治体の案内を確認してほしい)において、0〜2歳児クラスで待機児童となった子どもが認可保育所や認定こども園などに入園するまでの間において、都が認定したベビーシッター事業者のサービスを利用できるというものだが、2020年4月1日から自己負担額が1時間250円から150円へと減額されることとなった。
東京都のベビーシッター利用の相場は1時間あたり1000~4000円ほどと言われている。入会金や交通費などは別途かかるうえ、「利用可能時間は月~土の7時~22時まで」「利用時間上限は1日11時間まで・月220時間まで」「利用料の上限は1時間あたり2400円まで」などの制限があるものの、これが1時間150円で利用できるとなれば“激安”と言える。しかし、この制度を利用する際、気をつけなければいけないことがある。
それは「減額された分が雑所得として課税され、確定申告と追加納税が必要になる」ということだ。
東京都は本事業の説明ページ「ベビーシッター利用支援事業(令和2年4月以降に利用される方へ)」において、追加される税額を試算したモデルケースを発表している。
都が発表したモデルケース税額表
この表によると、年収300万円の人が月に160時間利用した場合(例えば平日5日=月20日間・毎回8時間利用した場合)、追加納税額の試算は月額5万9200円となる。これはあくまで「追加納税額(の試算)」でしかなく、ベビーシッター代の2万4000円(150円×160時間)に加えてシッター交通費などもかかるため、この場合は合計すると毎月10万円近くの負担となってしまう。仮に1時間2000円で毎月160時間利用した場合、利用料だけで32万円にも上るので安くなることは確かだが、「1時間150円だけで利用できる」というわけではないので注意が必要だ。
(※2月13日16時追記:東京都の担当部門である少子社会対策部 保育支援課に対して問い合わせたところ、この試算は所得税・住民税の両方の負担増を計算したものであり、かつ雑所得に換算されるのは利用料の上限、つまり2400円から150円を引いた2250円として計算しているという)
この件についてはベビーシッターサービス大手で都の認定事業者であるキッズラインが2月10日に「【速報】東京都が待機児童のベビーシッター代を1時間150円に値下げ」と大々的に取り上げたところ、追加課税の点について説明不足だったのではないかという意見が多数寄せられた。
ただし、同社のプレスリリースには小さい文字ながら最初からその旨が記載されており、12日には謝罪文も掲載されている。
制度開始前から問題視、国でも改善の動き?
ちなみに、この制度については東京都が悪意をもって設計したわけではなく、こうした助成・補助金は所得税法上、別途法律で定められた一部(例えば出産育児一時金や育児休業給付金には課税されない)を除き、基本的に所得として扱われてしまう。
この制度の問題点については去年9月、せんたうろ氏のブログ「にこいち育児」の記事「東京都のベビーシッター利用支援事業はちょっとアリエナイ」がネットで話題となり、国会では音喜多駿氏が参議院で麻生財務大臣に質疑を行ったほか、東京都議会議員の藤井あきら氏も都に確認を行っており、内閣府・厚労省も2020年度の税制改正要望において税額控除の対象にするよう求めてもいる。
さらに現時点では東京都全体の4分の1ほどの市区町村でしか利用できない、待機児童数ワースト3に並ぶ世田谷区(470人、以下いずれも2019年4月時点)、中央区(197人)、調布市(182人)ではいずれも制度が利用できない、そもそもベビーシッターの人手が不足しているなどの課題もまだまだ多い。東京新聞の2019年1月24日付けの報道によると、制度開始から1か月の間で、同制度を利用した人がわずか8人しかいなかったともいう。
少子化や保護者の負担増を少しでも食い止めるべく、制度の改善を願う次第だ。