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渡邉祐介
ワールド法律会計事務所 弁護士
システムエンジニアとしてI T企業での勤務を経て、弁護士に転身。企業法務を中心に、遺産相続・離婚などの家事事件や刑事事件まで幅広く対応する。お客様第一をモットーに、わかりやすい説明を心がける。第二種情報処理技術者(現 基本情報技術者)。趣味はスポーツ、ドライブ。
不倫は法律上どのように扱われるか?
不倫は、既婚者が配偶者以外と肉体関係を持つことを言いますが、法律上は「不貞行為」と言います。法律上、不貞をされてしまった配偶者は、不貞を行った当事者2人に対して慰謝料を請求することができます。
慰謝料として認められる金額がどのように決まるかには、一定の傾向はあります。不貞が原因で離婚にまで発展したケースでは慰謝料は上がる傾向にあり、離婚にはならないようなケースでは離婚になるケースに比べて慰謝料はそこまで上がらない傾向にあります。
個別のさまざまな事情によって変動はあるものの、ある程度の期間、不貞関係が続いた場合の慰謝料のおよその相場としては、離婚に至らないケースで50〜100万円、離婚に至るケースだと200〜300万円程度が相場となることが多いです。
もっとも、上記は裁判所が判断する場合の話で、裁判所に持ち込まれる前に当事者間での話し合いで終われば、その金額は当事者間の合意で決められるため、必ずしも相場どおりとなるわけではありません。ただし、話し合いの中では、訴訟になったケースでの相場が前提とされることは少なくありません。
以上のような慰謝料の請求は、法律上、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償として請求される配偶者に対する不貞行為の代償です。
「損害賠償●億円!」となるのはなぜ?
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他方で、既婚の芸能人の不倫が取り沙汰されると、メディアでは、「CM打ち切り」「損害賠償●億円!」などと報道されています。これは、配偶者に対する不貞行為の代償の場合の理屈とは異なり、スポンサーとの契約であらかじめ決められている損害賠償です。つまり、契約違反による損害賠償(違約金)なのです。
スポンサーは出演者とCM出演契約をする際、禁止行為や違反の場合の損害賠償金の規定を盛り込むのが一般的です。商品のイメージを一般大衆に広めるためのCMですから、商品イメージに合うタレントを起用するわけです。起用するからには、タレントに商品のイメージダウンにつながるようなことをされてしまっては、商品の売り上げにも関わり、大きな損害が出てしまいます。そこで、そのような損害が出ないように、契約の段階で多額の損害賠償を規定するような規定を盛り込むのです。
契約自由の原則と恋愛禁止規定の有効性
当事者間では、原則としてどのような内容の契約を交わすのも自由です。違約金として不貞などイメージを損なう行為があった場合に、億単位の損害を想定して規約に盛り込むのも基本的には自由です。ただし、公序良俗に反するなど、強行法規に反するような内容になると裁判所が無効と判断することがあります。
公序良俗に反するかどうかが問題となったケースとして、アイドルタレントが恋愛禁止規定に違反した場合の違約金の有効性が問われたケースがありました。ここでいう恋愛禁止というのは、不倫ではないものも含めた恋愛のことを指します。
「異性と一切交際するな」という縛りは、一般人だとすると公序良俗に反するということになりそうです。ですが、異性との交際が発覚した場合に一気にファンが離れて人気が低下することが十分にあり得るような人気商売のアイドルタレントの場合はそうではありません。所属事務所がそのアイドルを育成するために投資した多額の資本が台無しになってしまう恐れもあります。そのため、一切恋愛禁止というような規定にも一定の合理性があるのです。
恋愛禁止規定については、有効とされた裁判例と無効とされた裁判例があります。裁判所の捉え方としては、具体的な状況を考慮してケース・バイ・ケースで考えているといえるでしょう。
人気商売のアイドルという特性、それから事務所の投下資本を保護する一定の合理性があれば、恋愛禁止も有効となり得ます。一方で、一般の企業で社員に恋愛禁止を強いるような契約があったとすれば、当然ながら合理性がないため無効となる可能性が高いです。
日本の社会は芸能人の不倫に厳しい?
今回の東出さんのような不倫騒動が過熱してくると、「他人の不倫で大騒ぎするのはどうなのか?」というような意見や問題提起も、毎回のように出てきます。
実際、このような不倫騒動での過熱ぶりは、日本独特なところもあるようです。ハリウッドでは、差別発言をして降板させられることはあっても、不倫で仕事を失うことはあまりありません。ゴシップ紙が騒ぎ立てても、それはそれ。仕事に関しては通常通り、「プライベートなことは絶対に聞かないように」というお達しが強くなるくらいで、映画の宣伝活動も予定どおり決行されることが多いようです。
こうした違いには、業界の構造の違いなどもあるかもしれませんが、何より、こうしたニュースを見る国民や大衆の意識や捉え方の違いが大きいのだと思います。つまり、日本という社会自体が、他人の不倫に非常に厳しい視線を向け、不倫の当事者でなくてもまるで当事者かのように非難する社会なのかもしれません。
実はこの点は、出演者に不倫などがあった場合のCM違約金規定の有効性にも少なからず影響してくるでしょう。つまり、不倫に厳しい日本社会だからこそ、合理性を有するともいえるのです。契約において億単位の違約金規定が合理的なものとして認められるのは、そのタレントが不倫をすることで、日本の国民や大衆から批判に晒され、商品イメージまで低下して売り上げに響くという因果関係が成り立つからです。
国民や大衆の受け止め方が、もしそうではなく、「不倫はプライベート」「その俳優の仕事ぶりとはまったく別の話」と切り離して受け止められるような社会だったとしたらどうでしょう?
商品イメージや売上の低下に影響しないとなれば、そもそも損害との因果関係もなくなってきます。すると、たとえ起用されたタレントが不倫スキャンダルを起こしても、それはあくまでプライベートのことと切り分けて、億単位の違約金を取るという契約の合理性が疑わしくなるでしょう。
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ドラマや大河出演降板のケースでの損害賠償
連続ドラマや大河ドラマなどを降板する場合にも、損害賠償がいくらに上るかが話題になることはよくあります。出演者に原因がある場合には、撮影の進み具合によっては、撮影の撮り直しや工数の発生具合によって、製作サイドにかなりの損害が発生することは確かです。制作側と出演者との契約では、想定される損害額として合理性が認められる金額が有効になるといえます。
たとえば、大勢のエキストラの中の1人が不倫をしたからといって、億単位の違約金を定めた契約規定がもしあったとしても、それは有効とはいえません。
近い将来、撮影や編集のデジタル技術などが飛躍的に発達して、後から主役の箇所だけでも撮り直せる編集が簡単にできるようになれば、降板による損害も今よりは格段に軽減されるかもしれません。同時に、契約で定める違約金も、合理的な範囲で認められる損害額は今よりも下がる可能性もあるでしょう。
不倫の代償
以上のように、不貞行為の代償としては、配偶者との関係では慰謝料の負担という責任が生じます。さらに、CMやドラマ出演のタレントの場合には、今回の東出さんのように、スポンサーや製作サイドとの関係で高額の違約金を支払う責任が生じることもあります。
それだけでなく、有名人の場合は「有名税」ではないですが、こうしたスキャンダルがあった場合に、メディアやネット上など、世間から袋叩きにあってしまうことも少なくありません。特に誰もが自由に意見を発信できる情報化社会では、それが加速しています。
少し話はそれますが、飛び交う意見の中には、他人の失敗を鬼の首でも取ったかのごとく、ここぞとばかりに、徹底的に誹謗中傷するような類いのものも少なくありません。
非があった人が対象であれば、どんな誹謗中傷を浴びせてもいいわけではありません。インターネット上での行き過ぎた意見発信が、新たな違法行為となったり、発信者情報開示により本人が特定されて逆に訴えられてしまったりするケースも実はとても多いので、注意が必要です。