文:岩井聡史
消防士の父親を見ることが出来なかった赤ちゃん
昨年4月4日、米国イリノイ州スワンシーで消防士のブレット・コーブスさんが30歳という若さで亡くなった。ブレットさんはスワンシー消防署で10年以上勤務していたベテラン消防士で、職場に向かう途中に自動車事故に巻き込まれて命を落とした。
ブレットさんの妻であるアレックスさんは『Good Morning America』の取材に、「彼が亡くなった朝はいつもと変わりませんでした。私たちには息子と家があって、何もかもいつも通りでした。彼がいなくなって、とても辛いです」と語った。
ブレットさんは家族や友人にとても優しく、さらに熱心にボランティア活動に取り組んでいたことでも知られていた。コーブスさん夫妻には2歳になる息子がいるが、妻のアレックスさんが2番目の子どもを妊娠していることがわかったのは夫が亡くなってから2週間後だという。
アレックスさんはブレットさんが亡くなってから8カ月後の12月12日に女の子を出産した。赤ちゃんの名前は父親にちなんで、ブレット・グレース・コーブスと名付けた。
消防士の仲間との絆
ブレットさんが亡くなったことを知ったカメラマンであるサマンサ・カラルさんは、アレックスさんにグレースちゃんの写真を無料で撮影する提案をした。「コーブスさん一家を助けるために、出来ることは何でもしたかったです。私は赤ちゃんを撮影することを専門としているので、何か力になれると感じました」とカラルさん。
カラルさんの撮影スタジオはブレットさんが働いていたスワンシー消防署のすぐそばだったため、消防署での撮影をすることに。そこで、ブレットさんの同僚を撮影に招待した。
アレックスさんは当初2人か3人くらい来てもらえればと思っていた。しかし、その日の朝、撮影のために26人もの職員が姿を現したという。アレックスさんは「彼らが現れたとき、娘には心強い人たちがついてくれていると感じた」と語った。
コーブス夫妻の二人の子どもが父親の仲間と並んでいる姿、グレースちゃんが父親の防火服のうえで静かに眠っている姿など、心揺さぶる写真が撮影された。また、消防車の前で息子が赤ちゃんを抱いている写真や、スワンシー消防署の副官を務めたブレットさんの父親が赤ちゃんを抱いて笑顔で写っている写真もある。
グレースちゃんが生まれた同じ月、ブレットさんの兄弟は、救急隊員の家族をサポートする「ブレット・ファースト・レスポンダー」を設立した。地域と協力して、消防士になりたい人に向けた奨学金のプログラムを組むなどの活動を行っている。「私たちは、地域の人々を支援することを通して、ブレットさんの遺志を引き継ぎたいと考えている」と同団体。
今回撮影されたグレースちゃんやその家族にとって、父親を失うことは非常に痛ましいことだろう。しかし写真を撮影したカラルさんや、撮影に快く応じてくれた消防士のように、思いやりに溢れた人々がいることがわかる素晴らしい写真であった。