カウンターの向こうで中華鍋にジュワッーっと油が広がり、火が大きく舞いながら鍋が振られる音をBGMに食事を楽しむ。接待といえども、肩ひじ張らずカジュアルな雰囲気の店が好きだという人もいるだろう。
チェリー先生
食べ歩き部・部長
東京生まれ東京育ち。10代では外食好きな家族と、20代では目上の方々にあまたの東京レストランガイドをしていただき、30代以降は自分で開拓するのが楽しくなり、あらゆるスタイルの「外食」を楽しんできたグルメ女。プロならではのこだわりが見える瞬間、女王様気分を味わえる接客、味というよりも人に惹かれる瞬間などに魅力を見出し、レストランの楽しみ方を広げている。
今回紹介するのは、そんな接待先としても心から楽しんでもらえるであろう、グルマンの間でも不動の人気を誇る中華料理店「東京チャイニーズ 一凛」だ。
新富町駅からすぐのオフィス街の張りつめた空気からふっと抜けたエリアにある同店。リラックスできる雰囲気の店内だが、出てくるお皿はどれも唸りたくなる逸品ばかり。
この「一凛」に始まり、鎌倉「イチリン ハナレ」、昨年オープンした有楽町「テクストゥーラ」と人気の3店舗を手がける齋藤宏文シェフは、「赤坂四川飯店」出身。
四川料理がベースなのだが、尖りすぎない辛さが心地良く、吟味した素材を感じられる中華にファンが多い。
お勧めは、「おまかせコース」(8800円)。季節限定の上海蟹から始まり、看板メニューのよだれ鶏や海鮮、肉料理、野菜料理など全8品のボリュームのある構成だ。
最初の一品からテンションが上がる。冬だけのお楽しみ、上海蟹の紹興酒漬けが登場。
10日間も漬け込んだ上海蟹の身はねっとりと旨味を増し、こっくりと染みた紹興酒の薫りがたまらない。信頼できる生産者からの仕入れにこだわっているというだけあり、シンプルな一皿ながらも鮮やかだ。
中でも注目は、店を代表する名物料理の地鶏のよだれ鶏。しっとりとやわらかい丹波の地鶏胸肉に、甘味を感じるアーモンドと胡麻の食感も楽しい。四川の神髄とも言える辛いソースは深みのある刺激が心地よく、山椒の辛味とさわやかさにどんどん箸が進む。
豚のスペアリブは、あらかじめコンフィしたことで骨付きの肉が薄い部位はカリカリに、ごろりとした塊部はジューシーに仕上げられている。酢豚風ソースはお酢の酸味が際立ち、ふくよかな余韻さえ感じる。ひとつの料理の中にさまざまな表情が垣間見えるのは流石のひと言だ。
この日のシメは白子の麻婆豆腐。ランチでも大人気の麻婆豆腐だが、ディナーでは白子入りのスペシャルメニューに。花椒がふくよかに香り、キリリと鼻に抜ける辛さがまろやかな白子と豆腐によく絡み、一緒に出てくる白米とエンドレスにかき込みたくなる。
どのお皿も完成度が高く、一度行けば人気店なのが頷けるだろう。最後に接待の下準備として、まずはランチに訪問しようとするならご注意を。1200円前後で名店の味を楽しめるとあってランチタイムは行列必至で、13時過ぎでも並んでいることもある。
気取らない雰囲気に、独自の進化を遂げている本格的な料理。根強い人気におごることなく、素材に真摯に向き合った四川料理がここにある。
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東京チャイニーズ 一凛(いちりん)