文:平田提
ライター・飯田一史氏によるYahoo!ニュース個人の記事「今、小学生の一番好きな本はゾロリでもコナンでもなくSTEM系学習マンガ」が興味深かった。
小中高生への「これまでに読んだ本の中でいちばん好きな本」というアンケート結果で、男子は『科学漫画サバイバルシリーズ』(朝日新聞出版)、女子は『まんがでよくわかるシリーズ・ひみつ文庫』(学研)が1位だったのだ(全国学校図書館協議会と毎日新聞社共同実施の第65回学校読書調査 2019年11月号~6月)。
アンケート結果には『名探偵コナン』『ドラえもん』『進撃の巨人』『約束のネバーランド』などの漫画も入っている。それら人気漫画を押さえて、「STEM系学習漫画」が1位になったのだ。
「STEM」とはSTEM(サイエンス、テクノロジー、エンジニアリング、数学)のこと。プログラミング教育についての文脈などで、今後の子どもに必要な素養として挙げられる。「アート」も加えて「STEAM」となることもある。
自分が小さい頃も学習漫画を読むのは好きだったが、飯田氏の記事にあったとおり、20、30年前は「日本の歴史」やファーブル、キュリー夫人などの偉人伝の漫画が多かった。
一体STEM系学習漫画の何がそこまで今の子どもたちを惹きつけるのか?
近所の図書館で「学研ひみつ文庫」を実際に何冊か借りて読んでみたら、ためになるし、漫画としても確かに面白い。あと思わず「すごい! 働く大人にも読んで欲しい!」と思った点があるので紹介していきたい。
オススメな理由①コアなテーマと確かな専門性
まんがひみつ文庫のラインナップを見てみると(自分からすれば)コアなタイトルが多い。
『ベアリングのひみつ』
『フォークリフトのひみつ』
『こうや豆腐のひみつ』
……など、「普段気にしてなかったけど、これってどう作られてるんだろう」と惹かれるテーマでもある。
シナリオ的には、小学校高学年の子どもたちが困りごとや疑問を抱き、業界最大手や専門性の強い企業を訪問してその分野の知識を深める……というもの。
訪問先の企業は『ファスナーのひみつ』ならYKK、『3Dプリンタのひみつ』ならDMM.com、『インターネット広告のひみつ』であればデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(博報堂グループのネット広告代理店)……とその道の第一人者に話を聞いているので、内容は確かである。
例えば『ファスナーのひみつ』を読めば、ファスナーが通るあのギザギザした部分の名前が「エレメント」で、日本語では「務歯(むし)」だ、と知ることができる。今すぐは役立たないかもしれないが……いつかその話題になったら披露できる知識だ。
『3Dプリンタのひみつ』では石川県にあるDMM.comのプリンティングセンターの疑似工場見学ができるし、『インターネット広告のひみつ』には、DMPやターゲティング広告の話も出てくる。「インターネット広告は、ぼくたちが生まれる前からあったのかあ!」ってセリフにはショックを禁じえませんが……。
オススメな理由②実はPRコンテンツの非売品。Webで無料で読める
「まんがひみつ文庫」を読みたくなっても、購入はできない(一部を除く)。非売品なのである。しかし、ウェブで全編無料で読めるので安心だ。
なぜ無料なのか?
実はこのシリーズは企業のPRコンテンツなのだ。協賛金3000万円を企業が提供し、学研が共同制作している。
「未来のお客さんに」という目的で、2万以上の図書館に無料で寄贈。「総合的な学習の時間」などで教材として活用されることもあるという。今まで160社以上のものがPR目的で作られている。協賛しているのは日本マクドナルド、Yahoo! JAPAN、NTTドコモ、キヤノン……と大企業も多い。
社会貢献にもつながるブランデッドコンテンツだし、ビジネスモデルとしても面白い。
オススメな理由③あらゆるジャンルの妖精が出てくる
ちょっと毛色が違うが……衝撃だったので。
特定の世界について学習していく上で、ガイド役は欠かせない。そこで主人公のお兄さん・お姉さんが解説してくれる場合もある。しかし半数ぐらいの作品は、妖精が専門分野について教えてくれるのだ。
挙げてみるとこんなジャンルにも妖精がいた。
インターネット広告の妖精「アノン」(『インターネット広告のひみつ』)
「アノン」はスウェーデン語で「広告」の意。頼めばCVR上げてくれるだろうか……。
フラッシュメモリの妖精「めもりん」(『フラッシュメモリのひみつ』)
空を飛べるし人間に変身できる、かわいい。
掃除機の妖精クリナ(『家電量販店のひみつ』)
故障していたがEDIONで修理されて回復する。他の家電にも妖精がいることが判明。
他にも、凍らせる魔法の修行をするフリーズ星の妖精「モ・ドール」(『フリーズドライのひみつ』)、エアフィルターに人並みならぬ興味を抱く煽り口調のお嬢様・エアロ星の「エアロ」(『きれいな空気のひみつ』)……など妖精というか、異星人もいる。
最初は「まじか……インターネット広告にも妖精がいるのか……」と衝撃を受けるが、そのうち慣れる。愛着が湧いてきて、大人でも学習効果も高いはずだ。
オススメな理由④ストーリーがよく練られている
学習漫画なのでファクトに基づく解説はもちろん、ストーリーもしっかりしている漫画が多い。
例えば前述した『フラッシュメモリのひみつ』は、フラッシュメモリにどうデータが記録され、保存・消去がされるのか、が図解でかなり分かりやすく描かれている。
一方で、最後にちょっと感動する展開があってストーリーにも引き込まれた。漫画は『ホームセンターてんこ』などの作品がある、とだ勝之さん。
小学生のアカリちゃんは、兄のタブレットに残る幼馴染のサトルくんと写真を大事にしていたのだが、ハプニングでタブレットが壊れてしまう。
データをなんとか復旧できないか……と困っていると、タブレットからフラッシュメモリの妖精めもりんが登場し、さらにお兄さんが実は東芝メモリ(2018年に東芝グループから独立し、2019年10月1日に「キオクシア」へと社名変更)でインターンしていたことが発覚。
本筋はめもりんとお兄さんと一緒に東芝メモリ(現キオクシア)のフラッシュメモリ工場を見学に行って……という話。社会科見学で終わっても十分なんじゃ…と思いきや、冒頭のアカリちゃんの「フラッシュメモリを直したい」という願いが、「こう叶えられちゃうんだ」と感動できるラストになっていた。
なんかこういう、「少しはみ出た作者の情熱」が良いよなあと思う。自分が子どもだった頃も、フォーマットを崩しに来るような、定番を超えていくような漫画に惹かれていたことを思い出す。
今でも時々思い出すのは、小学生の時読んでいた『月刊コロコロコミック』の漫画『バーコードファイター』(1992年)だ。温泉回でヒロインが男の娘だと判明する当時の少年誌としてはぶっ飛んだ設定もショックだったが、登場するロボのデザインが半端なくかっこよかった。そして作品で扱う「バーコードバトラーⅡ」のバトルに熱中する主人公が試行錯誤して強いバーコードを徹夜で探す姿に憧れた。作者の小野敏洋さんはその後も『甲殻機神ヤドカリくん』などで、さらに描き込まれた機械モノを披露してくれたし、その後別名義で違う才能を開花させていた……。
ともあれ、大人になった今でも思い出すのは、そういう作者の情熱がはみ出た作品だ。
子どもが惹かれるのって、対象そのものへの興味もあるだろうけど、その背景にある大人の情熱なんだよな、と改めて思った。
大人の仕事にも参考になるかもしれない「まんがひみつ文庫」
「まんがひみつ文庫」は知的好奇心をくすぐられる内容だし、社会科見学の感覚を味わえるのが良い。それに新しいクライアントについて知りたい人、就職・転職を考えている人には、関係する分野の漫画を読めば会社・業界研究にも役に立ちそうだ。
大人になると異業種の業界の知識を知る機会が減っていくことが多い。その点「まんがひみつ文庫」は漫画なので、短時間でその分野の「触り」を押さえられるのでオススメだ。前述の通り、WEBで全編無料で読めるので、ぜひ読んでみてほしい。