疲れた日常の中で、ふと、どこかへ逃避行したくなることはないだろうか?
接待という仕事の延長の晩餐だからこそ、まるで旅に出たかのような非日常の感覚を味わえたら、どんなに印象に残る夜になることだろう。
そんな気分の時こそ、本格的な囲炉裏で焼き上げるジビエや天然鮎を扱う店「たでの葉」で日常からトリップしてみてほしい。
チェリー先生
食べ歩き部・部長
東京生まれ東京育ち。10代では外食好きな家族と、20代では目上の方々にあまたの東京レストランガイドをしていただき、30代以降は自分で開拓するのが楽しくなり、あらゆるスタイルの「外食」を楽しんできたグルメ女。プロならではのこだわりが見える瞬間、女王様気分を味わえる接客、味というよりも人に惹かれる瞬間などに魅力を見出し、レストランの楽しみ方を広げている。
外苑前駅からほど近い雑居ビルの階段を昇り、小さな扉を開けると、まず、炭が大きくくべられた囲炉裏に目を奪われる。
席は、その囲炉裏を囲むように配されたコの字型のカウンターのみ。どの席からも燃え盛る炭の様子がよく見え、ジビエの脂がポタリポタリとしたたり落ちながら焼けていく様を見ているだけで食欲がそそられる。
冬はジビエ、夏は天然鮎と、行く度にがらりと趣を変えて自然の恵みを堪能できるこちらの料理は、おまかせコース 1万2000円のみ。その日のお勧めをベストな状態で食べて欲しいという店主の計らいが感じられる。
店主が焼きの準備をしている間に提供されたのは、季節感溢れる前菜の数々。
うるいの胡麻和え、豆腐の味噌漬け、しじみスープなど、滋味深い田舎料理のようなラインナップを味わいながら赤々と燃える炭を眺めていると、ここが東京・青山だということをすっかり忘れてしまう。
この日は、蝦夷鹿、尾長鴨、真鴨、いのししと、寒くなってきて脂が乗ったジビエを堪能した。並べられた肉の輝きの美しさに息を飲み、思わずシャッターを切りたくなること請け合いだ。
店主・小鶴さんは若手の料理人でありながらとても勉強熱心だ。生産者との距離を大切にしていることから、シーズン毎に厳選された素材が入ってくるという。
この日はいい鴨が入ったそうで、贅沢にも尾長鴨と真鴨の食べ比べ。噛み締めるたびに旨味が押し寄せる。一串食べ進めるほどに、炭火での焼きの技術の高さに唸らされる。
見るからにジューシーな蝦夷鹿のタレ焼きはマスタードを添えて。まずは何もつけずにそのまま食べて欲しい。炭火で時間をかけてふっくらと焼き上げられ、何とも言えぬなめらかな舌触りに仕上がっている。こんなことを思うのも何だが、噛むのさえ惜しくなるほどだ。
締めは牡丹鍋。都内ではあまりお目にかかることのないイノシシ鍋だ。イノシシの強めの脂がセリやごぼうとよく絡み合い、すべての旨味が溶け込んだまろやかなスープは、飲んだ後の胃袋に優しい安心感を与えてくれる。
これから本番を迎える野趣溢れるジビエを紹介したが、実は、夏も必訪な理由がある。店主は、出身地・熊本で父親が釣る天然鮎を焼きたくて囲炉裏のスタイルに行き着いたそう。新鮮な鮎をここまでの高度な焼きの技術で食べられる店はそうそうないだろう。
素朴で力強い田舎料理に癒される休暇を欲するように、青山へのショートトリップは止められない。
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たでの葉(たでのは)