長男のギターの発表会。緊張のかけらも見られず
吉田和充(ヨシダ カズミツ)
ニューロマジック アムステルダム Co-funder&CEO/Creative Director
1997年博報堂入社。キャンペーン/CM制作本数400本。イベント、商品開発、企業の海外進出業務や店舗デザインなど入社以来一貫してクリエイティブ担当。ACCグランプリなど受賞歴多数。2016年退社後、家族の教育環境を考えてオランダへ拠点を移す。日本企業のみならず、オランダ企業のクリエイティブディレクションや、日欧横断プロジェクト、Web制作やサービスデザイン業務など多数担当。保育士資格も有する。海外子育てを綴ったブログ「おとよん」は、子育てパパママのみならず学生にも大人気。
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なぜオランダではプレゼンの上手い人がこんなに多いのだろう
筆者が今回の帰国時に行ったセミナーでの様子。非常に硬い
先日、日本に一時帰国した筆者は、セミナーを主催したり、プレゼンをさせてもらったり、逆にプレゼンを受けたりと、おかげさまで大変充実の日本滞在をさせてもらいました。毎度のことながら日本滞在中はたくさんの人に非常に良くしてもらい、まさに外国人が体験するような「おもてなしの国ジャパン」を満喫させてもらっています。
ただ、今回の帰国時に実は少し気になったことがあります。それは、日本人のプレゼンの下手さ。もちろんこれは自戒を込めて、の話なのですが…。プレゼンに限らず人に何かを伝える時に、もうちょっと上手にできれば簡単に伝わるのになあ、と思うような場面に何度も出くわしました。
というのは、逆にオランダで生活していると、オランダ人のプレゼン能力の高さ、コミュニケーション能力の高さ、人前での話のうまさなどに感心することが数多くあるからです。
オランダは歴史的に小国であるがゆえに、コミュニケーション能力に非常に長けています。他の国とつながることでコラボレーションしたり、あるいは他国から利用してもらったりすることで生き延びてきた、という小国ならではの歴史を国民みんなが知っています。例えば、鎖国中の日本と唯一貿易ができた西洋の国というのが、そうしたことを表しています。ゆえにコミュニケーション能力が絶対に必要なのです。ごく最近発表されたある指標では、オランダが英語のスキルで世界一になっていました。
コミュニケーション能力が高いという点で見ると、オランダの子どもたちにも同じ傾向を感じることができます。果たして、こうした日本との違いはどこから来るのでしょうか?
そこで、今回はかなり独断と偏見に基づき、オランダ人のプレゼンがどうしてうまいのか? はたまた日本人には、どうしてプレゼンが上手い人が少ないのか? 自分なりに思うことをまとめてみたいと思います。
オランダ流教育のコツ:グダグダでOK、そしてものすごく褒める
長男が通う小学校で行われた演劇発表会の様子
今回の、日本滞在から戻ってきた次の日に長男の演劇発表会が学校でありました。
これは年に1回、各クラスが他のクラスの生徒や保護者に向けて行うもので、季節的なテーマを取り入れたりしながら、歌やダンスを組み込んだ創作劇を発表します。日本的には学芸発表会のようなものでしょうか。
ただ日本のものとちょっとだけ、というかかなり違うのは、その発表の完成度です。こちらでの発表は、ずっこけてしまうほど完成度が低いのです。もし日本の感覚でオランダでの発表会の鑑賞に訪れたとしたら、間違いなく唖然とするでしょう。おそらく本番の発表だとは絶対に思わないはずです。そのくらい発表のレベルが低いのです。日本人からみると「やっと全員で通し練習をやってみた」というレベルだと思います。
自分も今でこそ、ずっこけることはなくなりましたが、最初はこうした発表を見せられて唖然としたものです。一応、小学校の中では最上学年にあたる長男のクラスの演劇でしたが、それでもグダグダ度はいままでと大して変わらず。というか、むしろ当人たちがグダグダに慣れている、といった感さえ漂っていました。
というのも、自分の子どもたちが通う学校では、こうした発表会がほぼ毎週行われているのです。また授業内でもプロジェクト学習の発表など、ことあるごとに何かを調べて発表する、といった機会に溢れています。なので日本と比べると発表の機会が圧倒的に多いという違いがあります。
こういう経験にあふれているので、「人前で発表すること」には、そもそも緊張感がまったくないようです。もちろん、こちらとしては「あんなグダグダな発表で良いなら緊張なんかするわけない」と思ったりもするのですが、このスーパーグダグダな発表を絶賛しまくる、というのが、またオランダの特徴でもあります。
とにかく、みんな褒めまくります。下手でもグダグダでも一切構いません。とにかく日本人的には、その褒め方に引いてしまうほど褒めるのです。
日本人はプレゼンの受け方も下手?
筆者が主催したデザインスプリントでの参加者の様子。テレビの取材も入って緊張気味?
実はもう一つ、日本でのプレゼン周りで気になることがありました。
それは、日本人はプレゼンの受け方も上手くないのでは?という点です。おそらく、読者のみなさんも、いろいろな立場でプレゼンに参加されたことがあると思いますが、プレゼンする立場だけではなく、受ける側の立場であってもオランダとの違いは顕著です。
例えば、日本だとプレゼンを受ける側で出席した場合、「出来るだけ反応しない」なんてことはないでしょうか?それは、上司と意見が違うとまずいという、単純に社内ヒエラルキー的な視点からであったり、会社としてのリアクションとしてバラツキがあってはまずいので、ひとまず反応しないようにしておく、あるいは相手にリアクションを読まれるといろいろと支障が出るので、まずは平静を装っておく、などなどの理由があるからだと思います。
ところが、オランダではこうした日本的な配慮はゼロです。というか、一般的にはどんなプレゼンであってもとにかくその場で絶賛します。日本人からすると非常に大袈裟なリアクションをします。とにかく、ポジティブな反応で相手のことをめちゃくちゃ褒めます。
正直言うと日本人的には「たいしたことないよ」と思うようなプレゼンであっても、オランダでは、とにかく「良かったよ!」「すばらしい話を聞かせてくれてありがとう!」「私は、ここがとっても気に入ったわ!」「示唆に富んだ話で、新たな視点を持つことができたわ!」などなど、賞賛、そして質問のオンパレードとなります。
だから、オランダでのプレゼンは非常にやりやすいのです。必ずポジティブなリアクションをしてくれます。
今まで、自分も嫌というほどプレゼンをし続けてきてますが、プレゼンを受ける側のリアクションもオランダ人と日本人はまったく違うのです。日本だと、つい無意識に高いレベルのプレゼンを求めすぎて、その期待に沿ったものではない場合リアクションも冷めたものになってしまうことが多いと思います。ついつい「本人はがんばった」という事実には、あまり目をむける余裕がなく、結果の完成度だけに目を向けてしまうからです。
こうして比較して考えると、オランダ人の大袈裟なまでのリアクション自体が、結果的にはプレゼンターの能力を高めるのだなあと実感します。ポジティブなリアクションを常に繰り替えし行うことで、プレゼンターは自然と自信をつけていくことになるからです。
子どもの頃から、どんなにグダグダな発表であっても常に賞賛され続けているので、発表すること自体には、なんのコンプレックスも緊張感も持たなくなります。そして、それを数多くこなすことで発表自体のクオリティも上がり、結果的には「プレゼン上手」な大人になるのだと感じます。
ローコンテクストな国はコミュ力が高まる?
6月にロンドンで行われたカンファレスでの様子。登壇者がリラックスしている様子が分かる
もちろん、日本人でもプレゼンの上手な人はいます。しかし、訓練してプレゼンが上手くなるのとは、根本的にちょっと違うなあと感じます。コミュニケーション能力の高さがベースにあるような感じがするのです。
そこには、さらにもう一つの理由があるような気がしています。それは、オランダは非常に多様性のある環境だということです。例えばアムステルダムは180カ国からの出身者が住んでおり、世界で最も多様性のある都市だと言われています。こうした多様性がある環境だと、これ以上ない、というくらいハッキリと物事を伝えないと「伝わらない」という状況が生まれます。つまり、スーパーローコンテクストであるという環境がコミュニケーション能力に影響を与えているのではないかと思うのです。一方で日本は世界で一番ハイコンテクストの国だと言われています。
例えば飲食店で「おまかせ」のようなメニューが存在することは、世界的に見るとあり得ないのです。そのくらい、「何も言わなくてもだいたい伝わる」という文化が成り立っているからです。
一方で皆さんも海外のレストランに行った時に、選択肢が多すぎて困る、めんどくさくなる、といった経験をしたことがあるのではないでしょうか? 肉の焼き方、サイズ、付け合せの種類、量、調味料の種類などなど、一つのメニューであっても、選ばないといけないことが多い、というアレです。ローコンテクストの国だと、これが普通になります。なぜならハッキリと微細にいたるまで伝えないと自分の希望の料理が出てこないからなのです。
日本語ではハイコンテクストだからゆえに、主語を省略したりできたりもします。会話や話の中で、あるいはプレゼン中であっても、主語は言うまでもなく伝わります。
ここで言いたいことはローコンテクストが良い、ハイコンテクストがダメだ、ということではなく、ローコンテクストの場合、結果的にコミュニケーション能力が高くないと、やっていけないのではないか?ということです。もしかしたらこうしたことも日本ではプレゼンが上手な人が少ない理由なのかもしれない、と思ったのです。
オランダは世界で一番ダイレクトに物事を言う国民と言われていますが、こうしたオランダスタイルに慣れすぎてしまうと、日本ではあまりにも物事をハッキリ言いすぎてしまったり、プレゼンもダイレクト過ぎる、果ては怖い、なんて言われることもあり得ます。
こうした違いがあるものの、やっぱりオランダ人は全体的にプレゼン上手な人が多い印象です。それゆえ、逆に日本人のプレゼン下手が目に付いたのかもしれません。
グダグダ発表をしている子どもたちが、今後どうやってプレゼン上手に変わっていくのか? あるいは変わらないのか? しばらく見守っていきたいと思います。