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文:岩見旦
先月30日、ある芸能人が自身のInstagramを更新し、「天皇皇后両陛下お疲れさまでした」とねぎらいの言葉を綴った。
すると、この「お疲れさまでした」という表現に対し批判が殺到。「この表現に違和感を覚えました」「皇室をなんだと思っているのでしょうか」などのコメントが寄せられ炎上した。
果たして、目上の人に対する「お疲れさまでした」という表現は誤っているのだろうか。専門家から誤用ではないという指摘が相次いでいる。
目上への「お疲れさま」NGは新しい謎ルール
『三省堂国語辞典』の編集委員の飯間浩明さんは、この炎上に対し「目上への『お疲れさまでした』が不可とされるなら、それは新しい謎ルールの誕生だとしか言えません」とツイートし、「お疲れさまでした」が敬語として定着した経緯を解説した。
昔は「ご苦労さま」は目上の人に対しても使われてきたが、20世紀末に「目上に『ご苦労さまは失礼』」というそれまで無かったルールが誕生。1990年代には「上司には『ご苦労さま』より『お疲れさま』がふさわしい」と言われるようになったという。「お疲れさまでした」は目上の人への挨拶の新スタンダードだったのだ。
各種国語辞典の「お疲れさま」を比較
飯間さんは各種国語辞典の「お疲れさま」の解説についてもピックアップ。三省堂国語辞典や明鏡国語辞典、現代国語例解辞典など複数の辞書が「お疲れさま」は目上の人に対して使うと説明している中、新明解国語辞典の第5版のみが「目上の人には用いない」と記載している。
このことに関して飯間さんは、「お疲れさま」が多くの国語辞典に載るようになったのは、意外と最近であり、新明解国語辞典の第5版の説明はそれ以前の、まだ「お疲れさま」が敬語として出世する以前の昔の語感に基づいているのかもしれないと推察した。
飯間さんは「現在、『お疲れさま』を目上に用いてOKという辞書は多く、この用法を不可するのはやはり酷でしょう」とフォローした。
平成のマナー本から誕生した新たなルールか
『異名・ニックネーム辞典』の編纂を手がけた杉村喜光さんも、「お疲れさま」は「本来は上下関係なし」と自身のTwitterに投稿。平成になってからマナー本などに登場した新たなルールであると一刀両断した。
そして、「お疲れさま」が本来上下の関係はない言葉と分かっているマナー本ですら、「近年はそう思われているので、会社内ならば大丈夫でも社外での挨拶には使わない方が良いでしょう」などと書いていることもあり、正しいマナーがじわじわ広がりつつあると説明した。
また、「了解しました」も同様の新たなマナーが浸透しつつあると杉村さん。新たなマナーを信じている上司も多くいるため、「使わない方がよい」と忖度する言葉になっているようだ。
確かに言葉は生き物だと例えられる。それが進化であるなら歓迎だが、批判の道具になることこそ違和感を覚える。