LIFE STYLE | 2019/03/25

特殊な抗体をもつ血液で、60年間に240万人の子どもを救った「黄金の腕を持つ男」の偉業

文:岩見旦

輸血を必要としている人のために血液を提供する献血。身近なボランティアとして根付いているが、オーストラリ...

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文:岩見旦

輸血を必要としている人のために血液を提供する献血。身近なボランティアとして根付いているが、オーストラリアには60年間献血を行い、240万人もの赤ちゃんの命を救った男性がいる。

実はこの男性、他の人にはない特殊な抗体を持っているのだ。

ワクチンを作れる特殊な血液の持ち主

その男性の名前はジェームズ・ハリソンさん。「黄金の腕を持つ男」と呼ばれており、これまで1,173回の献血を行ってきた。この回数はギネスの世界記録に認定されている。

特殊な抗体を持つハリソンさんの血液からは、「抗D人免疫グロブリン製剤」を生成することが出来る。このワクチンは「Rh式血液型不適合妊娠」の妊婦に使われる。

Rh式血液型不適合妊娠」とは、Rhマイナスのお母さんがRhプラスの赤ちゃんを妊娠したときに起こる病気。赤ちゃんの赤血球が抗D抗体によって破壊され、貧血や黄疸が出てきたり、重症の場合は脳の損傷や死に至ることもあるという。

助けた赤ちゃんと母親に見守られ最後の献血

この病気を治療するため「抗D人免疫グロブリン製剤」が1960年代に開発。ハリソンさんはこのワクチン生成ため、初期の頃から献血を行い、その後毎週協力してきた。

そして昨年、健康を考慮し81歳で献血を引退した。最後の献血は自身が命を救った赤ちゃんとその母親に見守られながら行われた。「長期間続けてきたことの最後であり、私にとって悲しい日だ」とハリソンさん。

ハリソンさんを最初のドナーに選んだRhプログラムコーディネーターのロビン・バーローさんは「ハリソンさんは何百万人もの赤ちゃんを救った。それを考えるだけで涙がこぼれてしまう」とコメント。

前代未聞の偉業を成し遂げたハリソンさんは、オーストラリアで最も権威のある「オーストラリア勲章」を授与された。

現在、オーストラリアではこのワクチンを作るため、160人が献血に参加。そしてハリソンさんのDNAを利用した研究プロジェクトが開始されている。