EVENT | 2019/03/29

空前の「働き方改革関連法案」が施行!企業と働く人はどう変わる?【連載】FINDERSビジネス法律相談所(10)

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日々仕事を続ける中で、疑問や矛盾を感じる出来事は意外に多い。そこで、ビジネスまわりのお悩みを解決するべく、ワールド法律会計事務所 弁護士の渡邉祐介さんに、ビジネス上の身近な問題の解決策について教えていただいた。

渡邉祐介

ワールド法律会計事務所 弁護士

システムエンジニアとしてI T企業での勤務を経て、弁護士に転身。企業法務を中心に、遺産相続・離婚等の家事事件や刑事事件まで幅広く対応する。お客様第一をモットーに、わかりやすい説明を心がける。第二種情報処理技術者(現 基本情報技術者)。趣味はスポーツ、ドライブ。

(今回のテーマ)
Q.4月から順次施行となる「働き方改革関連法案」で企業がやらなければならないこと、それから働く人はどんなことが変わるのか教えてください。

そもそも「働き方改革」とは?

4月が迫り、耳にすることが増えてきた、働き方改革。そもそもなぜ働き方改革がなされることになったのかと言えば、その背景には、我が国の深刻な労働力不足の問題があります。現在の人口減少率からすると、内閣府の予測では、2050年には9,000万人、2110年には日本の人口は4,500万人まで減少する推計となっています。

また、労働力人口(生産年齢人口)は、1995年のピーク時で8,000万人を超えていましたが、2060年には4,418万人と、半減してしまうというのです。そこで、国が一億総活躍社会となる日本にしようということで、本格的に「働き方改革」に乗り出しました。労働力不足の解消として考えられるものとしては、「働き手を増やす」「出生率の上昇」「労働生産性の向上」が挙げられます。

そして、これらを実現していく上での課題として、「長時間労働の解消」「非正規と正社員の格差是正」「高齢者の就労促進(労働人口不足の解消)」という問題があるのです。

そうした課題をクリアしていくべく、2018年6月29日の国会で成立したのが、労働基準法改正、労働安全衛生法改正、パートタイム労働法改正、労働契約法改正、労働者派遣法改正で、これら法改正の総称がいわゆる「働き方改革関連法案」です。

働き方改革関連法案のポイント

今回の法改正のポイントは以下の通りです。

① 時間外労働に上限規制
② 有給休暇取得の義務化
③ 正社員と非正規社員の格差是正(同一労働同一賃金)
④ 中小企業の時間外労働の割増賃金率の変更
⑤ 産業医・産業保健機能の強化
⑥ 高度プロフェッショナル制度の新設
⑦ 勤務間インターバル制度の導入

内容によっては、努力義務ではなく罰則を伴う義務とされるものもあるため、企業にとっては特に注意が必要です。以下では、それぞれについての概要を説明します。

①時間外労働に上限規制

現行法でも労働基準法により時間外労働に一定の上限はあります。もっとも、労使間で締結する協定(36協定)の内容によっては上限を超える時間外労働も可能で、その場合の上限規制はありませんでした。

改正により、上限規制が設けられました。時間外労働は年間で720時間まで、月最大100時間未満、繁忙期であっても「2カ月平均」「3カ月平均」「4カ月平均」「5カ月平均」「6カ月平均」がすべて1カ月あたり80時間までに抑える必要があります。また、月45時間を超えることができるのは、年6カ月までとなります。これらを超える時間外労働は違法となります。

違反に対しては「6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金」という罰則が定められていますので、これを超えないことは非常に重要になってきます。企業としては、まずはこの上限を把握・理解した上で、現状ですでに年間時間外労働時間が720時間を超えていないか、繁忙期でも残業が平均80時間を超えていないか、単月で100時間を超えていないか確認しておきましょう。

②有給休暇取得の義務化

年次有給休暇が10日以上付与される従業員については、有給消化日数が年5日未満の場合、企業側が指定して年5日に足りない日数分について有給休暇を「取得させる」ことが義務付けられました。

企業としては、まずは年10日以上の有給休暇が付与されている従業員を把握しておく必要があります。その中で、消化日数が5日以上になっているかを確認し、5日未満になってしまいそうな従業員については、会社が従業員の意見を聞いて、できる限り従業員の希望に沿った時季になるよう意見を尊重した上で、有給を取得させなければなりません。

対象となる従業員に有給休暇の指定をしなかった場合は、企業側には30万円以下の罰金が科されるので、注意が必要です。

③正社員と非正規社員の格差是正(同一労働同一賃金)

雇用形態の違いによって、正社員同様の仕事をしているにもかかわらず、正社員と比較して不合理な待遇差を設けることが禁止されます。

違法とされる可能性が高いケースとしては、通勤手当、皆勤手当、家族手当といった各種手当について、正社員のみに支給する一方で、フルタイムの契約社員やパート社員には支給しなかったり、一定の上限を設けたりする場合です。

これには例外もあって、たとえば、正社員には住居手当を支給し、非正規社員には支給しないが、その理由として正社員には全国転勤があるが非正規社員には転勤は生じないケース。それから、役職手当について非正規社員は半額支給とするが、その理由が非正規社員の勤務時間が正社員の半分であるといったケースが考えられます。

企業としては、まずは自社の従業員の雇用形態が、正社員、契約社員、パート社員、嘱託社員、派遣社員など、どのような種類の雇用形態の従業員を抱えているのか把握する必要があります。さらに、それぞれに応じた賃金体系に不合理な内容の有無を確認し、合理性を欠く待遇差については解消しておかなければなりません。

④中小企業の時間外労働の割増賃金率の変更

時間外労働については、25%の割増賃金率で給与を支払うことが原則とされています。2010年4月以降、残業が月60時間を超える分については50%の割増賃金率で給与を支払うことが義務付けられたものの中小企業は適用が猶予されていましたが、2023年4月からは、この猶予措置は廃止されます。

この点については先の問題のように思われますが、数年のうちに多い月で残業を60時間に抑えられるような就業体制に整えていく必要があるのです。残業の多い社風を急に変えることは難しいですし、正しい残業代を支払わない場合の罰則として、30万円以下の罰金が課されることを考慮して、今のうちから改善が必要です。

⑤産業医・産業保健機能の強化

事業者が衛生委員会・産業医に対して健康管理に必要な情報を提供することが義務付けられました。

また、その一環として事業主には、客観的な方法での労働時間把握義務が課されます。これまでも、判例上では事業者が従業員の労働時間を把握する義務があるとしていて、これを明文化した法律はありませんでしたが、改正により法定されました。

具体的な把握方法については、省令で定められることが予定されていますが、タイムカードやPCログの記録などが把握方法になることが予想されます。もし、従業員の労働時間を把握できていない場合は、把握方法を整備しておく必要があります。把握義務については罰則までは定められていませんが、労働時間の把握は時間外労働の管理にも絡む部分ですので、対応は必須といえるでしょう。

⑥高度プロフェッショナル制度の新設

高度に専門的な職務に就き、一定の年収を有する労働者については、本人の同意を要件として、労働時間規制や割増賃金支払の対象外とすることができるようになります。

制度の詳細は省令で定められる予定ですが、一定以上の年収(1,075万円以上)の従業員で、対象業務としても、研究開発業務、アナリスト業務など、適用範囲は限定されています。

この制度の趣旨は、裁量性が高く労働時間の長さと成果が比例しにくい業務を対象とし、成果に対して賃金を支払う仕組みを創設しようとする点にあります。もっとも、「残業代ゼロ制度」などという批判が上がっているように、過重労働に繋がる点も一部で懸念されています。

まだ未確定な部分も多いため、制度を利用する企業は、今後の厚労省の省令内容に注意しながら動向を見守りつつ、採用を検討していく必要があるでしょう。

⑦勤務間インターバル制度の導入

勤務の終業時間と始業時間の間に、一定時間のインターバルを置くことを定める制度の普及促進に努める必要があります。

その制度趣旨は、疲労の蓄積を防ぐため、勤務後から次の勤務までは少なくとも10時間、あるいは11時間、心身を休める時間を設けるのが望ましいという点にあります。

ただし、これは努力義務であって今のところ罰則はありませんが、罰則がないからといって無視していいものでもありません。従業員の健康を考え、労働生産性を上げていく観点からは、勤務間インターバル制度の促進は重要といえるでしょう。

企業としての対応

以上のように、働き方改革関連法案は、厳格な罰則規定のあるものから、努力義務とされるものまでさまざまです。個々の厳格な規制は、企業によっては大きな改革を迫られる厳しいものとなるかもしれません。「仕事量は減らないのに、どうして労働時間を減らせるのだ」という意見もあるでしょう。

しかし、働き方改革は、日本を支える一社一社の企業が雇用の在り方の改革を通じ、日本の将来の労働社会をバージョンアップさせる形で、日本社会を支えていく手段でもあるように思います。

企業は従業員や社会のために存在する視点を持ちながら、生産性を上げていく工夫をするなど、積極的に受け止めて取り入れる姿勢が望まれます。

働く人にとっての影響は?

これまで説明した内容は、一見すると企業にとってさまざまな規制がかけられ、他方で労働者にとってはより労働環境を保護される内容にも思われます。もちろん、そうした側面もあります。

しかし、これからの日本の労働環境がどんどん変化していくことは間違いありません。長時間の残業手当で生計を立てようと考えていた人たちにとっては、それも難しくなります。正社員と非正規社員の差がなくなれば、新卒一括採用や年功序列賃金、終身雇用といった従来型のシステムは崩壊し、労働市場にも流動性が生じるでしょう。

AIの進化によって、労働時間の長さと成果が比例しやすい業務などは、人の仕事からAIの仕事へと置き換わっていくことも予想されます。労働者にとって安住できる環境が訪れるわけでは決してありません。

企業の側にも改革が求められるのと同様に、働く人の側にも、自分自身がより生産性を高め、成果を上げる努力が求められる社会が到来しているとも言えるのです。

いつの時代もどんな場面でも、目の前に現れるイベントを好機として積極的に受け入れるか、障害として消極的に捕らえるかで、人も企業もその後の在り方が大きく分かれていくのではないでしょうか。


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