Photographed with a Camtraptions camera trap. Laikipia Wilderness Camp, Kenya.
https://www.camtraptions.com/2019/02/black-leopard-in-africa/
取材・文:6PAC
ウィル・バラード・ルーカス(Will Burrard-Lucas)
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野生動物フォトグラファー
Camtraptions Ltd(カメラトラップ企業)創業者
http://burrard-lucas.com/
http://www.camtraptions.com/
インドで黒豹の撮影に成功後、ケニアへ急行
2019年2月、アフリカのケニアで野生の黒豹がはっきりと写った写真が公開され、世界中でニュースとなった。この写真を撮影したのは、イギリス人の野生動物フォトグラファー、ウィル・バラード・ルーカス(Will Burrard-Lucas)氏。これまでにもピンク色のカバの撮影に成功したり、カメラのレンズの上に乗ったミーアキャットの写真などで話題になったことのあるフォトグラファーだ。今回の黒豹関連の報道では、撮影した張本人の話があまり見受けられなかったので、本人による黒豹撮影の裏話をご紹介しよう。
アフリカのタンザニアで幼少期の一時期を過ごした同氏は、「子どもの頃から黒豹の話に魅了されてきた」そうだ。何年もの間、黒豹とは「キャンプファイヤーで語られる夢物語」だったそうだが、誰も見たことがないという黒豹を見る夢だけは失うことはなかった。
そんな彼の子ども時代からの夢が現実のものとなったのは2018年9月のこと。インドのバンガロールで開催された「Nature in Focus Festival」というイベントでの講演依頼が舞い込んできた。数年前にインドのカルナータカ州にあるKabini Forestで、鮮明ではないものの黒豹の写真が撮影されたことに触発された同氏は、イベントの合間をぬって、黒豹撮影のために3日間を費やし、見事レンズに収めることに成功したのだ。
インドでの旅が終わりに差し掛かる頃、アフリカの旅行会社に勤める友人から「ケニアのLaikipia Wilderness Camp(ライキピア・ウィルダネス・キャンプ)で黒豹が目撃された」という話を聞いた同氏は、旅行会社の経営者に事実確認をした。すると旅行会社の経営者もこの数年で何頭もの黒豹を目撃したという。
幼少期の一部を過ごしたアフリカでは「黒豹を見た」という目撃談は数多くあれど、鮮明に撮影された黒豹の写真は見たことがなかったという同氏は、現地撮影を企画する、米サンディエゴ動物園グローバル保全研究所の生物学者、ニコラス・ピルフォード氏らとのチームに合流すべくすぐさまLaikipia Wilderness Campへと向かった。
黒豹の獣道と思われる場所にカメラトラップを多数設置
バラード・ルーカス氏が仕掛けたカメラトラップ。動物の動きをセンサーが感知して自動で撮影する。
Photographed with a Camtraptions camera trap. Laikipia Wilderness Camp, Kenya.
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Photographed with a Camtraptions camera trap. Laikipia Wilderness Camp, Kenya.
https://www.camtraptions.com/2019/02/black-leopard-in-africa/
ケニア到着後、「黒豹を見た」という女性から黒豹の習性や縄張りについて情報収集すると、黒豹の獣道と思われる場所にバラード・ルーカス氏が自ら創業したCamtraptions社のワイヤレスモーションセンサー、デジタル一眼レフカメラ、ミラーレス一眼カメラ、フラッシュなどで構成されたオリジナルのカメラトラップを多数設置した。だが翌日にカメラをチェックしても、黒豹の姿はそこにはなかった。さらに数日カメラをチェックし続けたが、ハイエナの姿こそあれど黒豹の姿を捉えることはできなかった。
失望しかけた同氏が最後のカメラをチェックした時、そこには暗闇の中で一対の目が光っている黒豹の様子が映し出されていた。
最初に撮影に成功した黒豹
Photographed with a Camtraptions camera trap. Laikipia Wilderness Camp, Kenya.
https://www.camtraptions.com/2019/02/black-leopard-in-africa/
「最初は黒豹の写真を撮影できたことが信じられませんでした。自分の夢が叶ったと実感するのに数日かかりました」と同氏はこの時のことを振りかえる。カメラトラップの設置場所が最大の課題だったものの、関係者から黒豹の獣道に関して最新の情報を得られたことが成功要因だとしている。
黒豹の撮影の様子
そして最初の写真を撮影した獣道で2枚目の撮影にも成功、まるで上質なベロアのコートをまとっているかのような質感が印象的だ。
Photographed with a Camtraptions camera trap. Laikipia Wilderness Camp, Kenya.
https://www.camtraptions.com/2019/02/black-leopard-in-africa/
次の写真はまるで映画のワンシーンのようなワンショット。幻想的や神秘的といった言葉がチープに感じられるような出で立ちだ。
満月に照らし出される黒豹
Photographed with a Camtraptions camera trap. Laikipia Wilderness Camp, Kenya.
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「黒豹の目に驚かされました」と語る同氏は、「可能な限り背景を暗くするように照明を調節した」そうだ。
闇夜に光る眼
Photographed with a Camtraptions camera trap. Laikipia Wilderness Camp, Kenya.
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また、今回は普通の豹も撮影されているのだが、見比べてみると黒豹の醸しだす神秘的な雰囲気は普通の豹の比ではない。フラッシュの光に反射して体毛が明るく映し出される普通の豹と、背景に溶け込む黒い体毛の黒豹のコントラストが暗示的に陰陽を表しているようにも見える。
Photographed with a Camtraptions camera trap. Laikipia Wilderness Camp, Kenya.
https://www.camtraptions.com/2019/02/black-leopard-in-africa/
実は「100年ぶりに撮影成功」ではない?
バラード・ルーカス氏によれば、「私が知り得る限りでは、これらの写真はアフリカの野生の黒豹を撮影した初の高品質なカメラトラップ写真です」とのこと。同時に、「ナショナルジオグラフィックの記事の見出しには“100年ぶり”という文言があり、その後のメディアの報道でも“この100年に撮影された最初の写真”という意味に誤解されて伝えられています。これまでにも捕獲された状態や不鮮明な写真は公開されていますし、私はこれらの写真が“初めてアフリカで撮影された黒豹の写真”だとは主張していません。ただ“初めてアフリカで撮影された黒豹の高品質カメラトラップ写真”であることは信じています」とも語る。
黒豹はアルビニズム(先天性白皮症)とは正反対のメラニズム(黒色素過多症)の個体のことだ。数多くの目撃談などから、ケニア周辺での黒豹の存在は公然の事実だったそうだが、野生の個体であるという科学的な裏付けを伴った報告は稀だ。アフリカで黒豹が撮影されなかった理由として同氏は、「豹という動物は人目に触れないように行動します。同時にメラニズムの個体の割合が低く、体が黒いことから深い森の中では視認しずらいこと」を挙げてくれた。