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伊藤僑
Free-lance Writer / Editor
IT、ビジネス、ライフスタイル、ガジェット関連を中心に執筆。現代用語辞典imidasでは2000年版より情報セキュリティを担当する。SE/30からのMacユーザー。著書に「ビジネスマンの今さら聞けないネットセキュリティ〜パソコンで失敗しないための39の鉄則〜」(ダイヤモンド社)などがある。
保護主義的色彩を強める世界の国々
米トランプ政権が、非常事態宣言という大統領の切り札まで使って建設を強行しようとしている「国境の壁」だが、不法移民対策や犯罪の抑止力としての効果を疑問視する声も多く、識者からは支持者に対するパフォーマンスに過ぎないという指摘も出ている。
2月18日時点で、すでにカリフォルニアなど16州が憲法に反するものだと提訴していることからも、壁への反発の大きさが分かる。今後の展開を注視したいところだ。
いずれにしろ、メキシコとの国境に建設される強固な壁は、米国が自由経済の盟主から自国優先の保護主義へと大きく舵を切ったことを象徴する存在であると言えるだろう。
世界の潮流が保護主義へと傾いているためか、ここにきて国境などないはずのインターネットでも同様のことが起こっている。
ネット上における「国境の壁」Great Firewall
インターネット上における「国境の壁」的存在というと、中国が推進している金盾(きんじゅん)計画のファイアウォール機能「Great Firewall(防火長城)」が知られている。
金盾計画とは、個人情報の管理やアクセス情報の監視など、国民・在中外国人の監視や情報収集を行う国民管理システムの構築を目指すもの。その情報収集には、電子メールやSNS、電話などの各種コミュニケーション手段の傍受に加え、音声認識、画像・顔認識などのパターン認識技術も活用されているという。中国政府が2020年に完成を目指している、国民の信用度を算出するための「社会信用システム」との連携も予想される。
Great Firewallは、この金盾計画の一部と言われており、同国の内外で行われているインターネット通信に対して、接続規制や遮断を行うための大規模な検閲システムとしての役割を持つ。
中国を訪れると、世界的に普及しているSNSの大半が利用できなくなるのもこのためだ。以前は、仮想プライベートネットワーク(VPN)を用いた抜け道もあったが、現在ではVPNの利用も困難になっている。
インターネット利用者にとって、中国国内とのコミュニケーションには見えない「国境の壁」が厳然と存在しているのだ。
ロシアでも海外のインターネットからの遮断を模索
国境に縛られることなく、自由に情報発信やコミュニケーションを行えることにこそ、インターネットの真の価値がある。多くのインターネットユーザーはそう考えてきたはずだった。
ところがここに来て、中国以外にもネット上における鎖国政策を導入しそうな国が出てきた。
ロシアでは、「デジタル国家経済計画」と呼ばれる法案を連邦議会に提出。サイバー攻撃対策の一環として、一時的に国内を海外のインターネットから遮断する実験を行うことを検討しているという(参考:BBCニュース)。
これは、ロシアが諸外国にサイバー攻撃などネット上の妨害行為を仕掛けているとの疑念から、北大西洋条約機構(NATO)と加盟各国による対ロ制裁の可能性があり、これに対抗するものとされる。
具体的には、外国勢力がロシアをオンラインから排除しようとした場合に対抗できるよう、ロシア独自のDNS構築を行おうというもの。国外に設けられたサーバへの接続が遮断されても、ロシア独自のネットワークサービスを維持するのが狙いだ。
この環境が整えば、中国と同様に、ネット上の鎖国政策を採用することも可能になるだろう。
部分的にサービスや機能を制限する動きも
中国やロシアのように、国際的なインターネットから自国のネットワークを全面的に遮断しようというものではないが、部分的にサービスや機能を制限する動きも拡がっている。
韓国政府は、2月11日からアダルトサイトなど有害と判断したサイトへのアクセスを全面的に遮断する措置を実施。表現の自由の萎縮や盗聴、検閲問題を指摘する声も上がっているようだ(参考:中央日報)。
その他には、メールは利用できるものの、ウェブやSNSに関してはかなり制限があるのはイランだ。FacebookやTwitter、YouTubeは政府がブロックしていて利用できないという。ただし、中国とは異なり、VPNを利用すればアクセス可能なので、隠れて利用している者も少なくないようだ。
このように、インターネット上には、情報発信やコミュニケーションを各国の実情に合わせて制限する動きが拡がっている。世界を一つにつなげるインフラとしてのインターネットの魅力を損なわないためにも、過度な制限が行われることがないよう、注視していきたいものだ。