いつもの「接待」では、どんな店をセレクトしていますか? きっちりとプレスされたナプキンがセットされたような、はたまた、白木の一枚板のカウンターが光るような店? 今回紹介する東京・湯島にある「鳥栄」は、そのどちらでもない、素朴な非日常を体感できる創業110周年を迎える鳥鍋の名店だ。
チェリー先生
食べ歩き部・部長
東京生まれ東京育ち。10代では外食好きな家族と、20代では目上の方々にあまたの東京レストランガイドをしていただき、30代以降は自分で開拓するのが楽しくなり、あらゆるスタイルの「外食」を楽しんできたグルメ女。プロならではのこだわりが見える瞬間、女王様気分を味わえる接客、味というよりも人に惹かれる瞬間などに魅力を見出し、レストランの楽しみ方を広げている。
立地は千代田線湯島駅を降りてすぐ。まるでタイムスリップしたような、田舎のおばあちゃん家にワープしてしまったような錯覚を覚える、雰囲気たっぷりの2階建て木造屋が現れる。
暖簾にお店の名前があるものの、何となく恐る恐る引き戸を開けると、「いらっしゃーい」と温かいお出迎えの声を掛けていただけて、ひと安心。靴を脱ぎ、階段脇の調理場から聞こえる「トントントントン…」という軽快な包丁の音をBGMに、ギシギシときしむ階段を上がる。
畳に座布団、そして中央には炭が焼べられた囲炉裏。外観のみならず、内装もレトロで小津安二郎の映画の世界に入り込んだようだ。
料理は、7,000円の鳥鍋のコース一択。ドリンクの選択肢も、ビール、日本酒、ウーロン茶といった少ないラインアップだが、シンプルな料理とドリンクを合わせてあるのでバランスがいい。
さっそく囲炉裏に鍋がセットされ、ゆっくりと食事がスタート。クリアな鶏出汁の中に、入れる具は3種のみと潔い。鶏肉、千住ネギ、焼き豆腐。以上。鶏肉と言っても、若鶏のさまざまな部位を堪能でき、胸、もも、脾臓、ハツ、砂肝、肝臓などが用意される。鶏の旨味が口の中でほろほろとほどけ、大根おろしと醤油の味付けで充分堪能できる。
お次は、つくねを投入。どんぶりに入って登場したそれは、一瞬とろろかと見紛うほどのなめらかさ。調理場から聞こえるリズミカルな包丁の音は、この仕込みだったのだ。
つなぎは卵黄のみ。こんなに潔いつくねにはそうそう出会えない。木べらからぽとん、ぽとん、と落とされ、ふんわりと仕上がったつくねをいただく頃には、同席している方々の表情もふわふわと優しいものになっているはずだ。
最後は、鶏のお出汁がしっかり出たスープをご飯にかけ、香の物で締める。このお出汁、雑味がまったくなく、まさに五臓六腑に染み渡るうまさ……!
手入れの行き届いたレトロな日本建築であぐらをかいて囲炉裏を囲み、素材の良さが際立つ料理を味わう。こんな非日常の中なら相手との距離が自然と縮まり、腹を割った話ができること請け合いだ。
ボリュームは決して多めではなく、二次会に行きたくなる人が多いと思う。徒歩圏内に上野のネオン街もあるので、呼び込みに釣られて入るもよし。それがいつものチェーン店だとしても、鳥栄の後なら、いつもと違った表情に出会えるかもしれない。
そうそう、囲炉裏効果で暖かい室内だが、冷房がないので夏場は覚悟して訪問するように!
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鳥栄 (とりえい)
東京都台東区池之端1-2-1
03-3831-5009
営業時間 18:00~21:00
定休日 日曜日、祝日(夏季休業あり)※カード不可
東京メトロ千代田線【湯島駅】徒歩1分、東京メトロ銀座線【上野広小路駅】徒歩5分、都営地下鉄大江戸線【上野御徒町駅】徒歩6分