EVENT | 2018/11/20

川田十夢さんと語る「AR活用で次に求められる、革新的アイデアとは?」 「FINDERS SESSION VOL.3」動画・レポート

「クリエイティブ×ビジネス」をテーマに新たなイノヴェーションを生むためのウェブメディア「FINDERS」が定...

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「クリエイティブ×ビジネス」をテーマに新たなイノヴェーションを生むためのウェブメディア「FINDERS」が定期的に開催するトークイベントの第3弾「FINDERS SESSION VOL.3」が、8月29日に東京・中目黒の株式会社シー・エヌ・エスのコミュニケーションラウンジにて行われた。

今回は、黎明期からARの先駆者として活躍するAR三兄弟・長男の川田十夢氏が登壇した。

ARとは「Augmented Reality(拡張現実)」の略称。現実の風景にバーチャルの視覚情報を重ねて表示することで、目の前にある世界を“仮想的に拡張する”というテクノロジーのことを指す。

ARを使った代表的なサービスとしては『Pokémon GO』の大ヒットが記憶に新しいが、他にも主にスマホ向けのエンタメとして、あるいは日常生活の利便性を向上させるアプリとして広く浸透し、新しい楽しみを生み出せる新機軸の技術として各分野で注目を集めている。

だが、すでに今はもう各種技術が出揃ってきた段階を過ぎ、次に必要になるのは「それをどう扱うか」というアイデアの部分である。まだ誰も見たことがないエンタメや、より生活が便利になるソフトウェアをつくり、かつビジネスとして成り立たせるにはどうすればいいのか。川田氏から見たARの過去・現在、そして未来の展望を聴くため、多くの来場者で会場は埋まった。

文:立石愛香 写真:神保勇揮

川田十夢

開発者/AR三兄弟 長男

1976年 熊本県生まれ。1999年 ミシンメーカーに就職、面接時に書いた『未来の履歴書』の通り、同社Web周辺の全デザインとサーバ設計、全世界で機能する部品発注システム、ミシンとネットをつなぐ特許技術発案など、ひと通り実現。2009年 独立、やまだかつてない開発ユニットAR三兄弟の長男として活動。主なテレビ出演に『笑っていいとも!』『情熱大陸』『課外授業 ようこそ先輩』など。近年では、六本木ヒルズで『星にタッチパネル劇場』、広島で『ワープする路面電車』、渋谷で『テクノコント』を旗揚げするなど、実空間の拡張にも乗り出している。毎週金曜日22時00分からJ-WAVE『INNOVATION WORLD』が絶賛放送中。ジャンルとメディアを横断する、通りすがりの天才。

2018年は「AR2.0」にフェーズが移行

当日のダイジェストはこちら

編集長米田と川田氏の出会いは8年前に遡る。当時米田が運営していたウェブメディア「TOKYO SOURCE〜東京発、未来を面白くする100人〜」で川田氏を取材したのが始まりである。

のべ2週間かけて、ツイッターでのインタビューや、トーン記号、伝書鳩に至るまで、実験的なインタビュー方法論が数多く盛り込まれ、2ちゃんねるのスレッドで質問したり、アメーバブログを立ち上げ、そのコメント欄でやりとりをしたりして、最後はイベントで対談、それをUstreamで中継する、と、一風変わったインタビューであった。

10年前からAR業界を先導している川田氏に状況の変化を聞くと、最近では至る所でARについてのセミナーが行われたり、Apple、Googleが新製品やサービスを紹介する際、AR関連の機能をまず最初にプレゼンするようになったことを挙げた。iPhoneが出た当初は、AppleにARアプリを申請したが審査が通らなかったことがあったそうだが、それくらい今現在AR業界は盛り上がっていることがわかる。

またこれまでWeb1.0や2.0などと言われてきた中で、ARにも同様な捉え方があるという。AR1.0の時代は、二次元の画像を特徴点からみてレイヤードする、画像認識に過ぎなかったが、Appleが今年6月に発表したiOS向けAR開発キットの「ARKit 2」がAR2.0の到来を告げたという。

ARKit 2で使用できる技術のひとつ、「AR WorldMap」では、3次元の空間的な地図情報として空間を把握できる。今までは2次元の情報を立体のように見せていたに過ぎないが、重力方向の縦軸、奥行き軸のxyzの値を正確に測れるようになり、端末単位で把握できるようになった。

また「AR ImageTrackingConfiguration」では、2次元画像情報のトラッキングのみで、そこからの相対的、絶対的な距離を把握できるようになった。地図と重力と特徴点で立体情報として読み取れるようになったのだ。

次に注目しているのは素材感

では、川田氏自身は現在どんな作品を制作しているのか。例えばこれは、三鷹のおじいちゃんをAR技術でトロフィー化したものである。

これらは川田氏(AR三兄弟)がスマホで実装できる要素技術(赤外線 / ARKit / ARCore)を駆使して開発したものだ。川田氏は「議事録を文書として残すのはもう古い」と言う。なんと斬新な考え方だろうか。打ち合わせの風景を石化し、それをみんなで眺めて、あのころは良かったね、と質感を変えることが身近になる、そんな未来も遠くはないかもしれない。

さらに空間を空間として残す。例えば誰かの足取りを空間的に残すといったことも一般的になってくるかもしれない。

川田氏が考えるARの未来像

さらに川田氏は、某企業のプロジェクトでお蔵入りとなった企画「ドライブアウトシアター」を紹介してくれた。これは自動運転車が一般化する未来を見越して、運転をしなくて済むことで浮いた時間を有効活用するコンテンツを整備しよう、という提案だ。

「ドライブインシアターじゃなくてドライブアウトするんですよ、次のエンターテインメントは。僕が考えるARの未来は自動運転の時代とつながっている。だからハンドルを握っていた分の時間の余白が生まれるんです。その車に委ねた行き先、さて、どうしましょうとなったときに、ドライブアウトシアターがいよいよ開幕するわけですね」

例えば、助手席に建築家を投影して通り過ぎる建物の紹介をしたり、落語家が助手席で一席ぶつなど、従来は車との関連性が薄かったコンテンツも広く流通させられるかもしれないし、車に乗っているからこその方法論も考えられるだろう。こうした「余白をコンテンツ」にするというのは、川田氏がこれまで一貫して試みてきたことだ。

「行列があったらその行列をなくすにはどうしたらいいか、行列がなくなった後の時間に何がはまるか。いろんなものが形を失って場所を失っているから、それを次の段階に連れて行きたいですね」(川田)

今後、どんな「余白」を活用していきたいかについては

「渋谷なら若い人で、巣鴨ならだとおばあちゃんたちといった感じで、ファッションショーとかもやってみたい。場所に紐付くエンターテインメントは余白がすごくあって、何か面白いことができないかと注目しています」とのことだ。

またイベントの終盤に行われた質疑応答で、鉄道業界で働く人から「鉄道業界でAR活用にはどんな可能性があるか」という質問にはこんな回答があった。

「日本と海外の一番の違いは電車が時間を守るということ。あとは最近の電車回りのAPIがすごく優秀で、どの電車が何駅を通過した、あるいはこの電車だけちょっと止まっているというデータがつぶさに拾えるようになっている。そういうのを組み合わせると、電車の中でもドライブアウトシアターみたいなことが湧き起こるというのは、一つの大きなチャレンジになるんじゃないでしょうか。映像でいうところのマーカーというか、いろんな物語の起伏を地図上に収められると思っています」(川田)

川田氏のアイデアは底尽きない。これからも彼はAR業界の渦中で楽しそうに新しい発見をし、我々に伝えて驚かせてくれることだろう。

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トルク with AR三兄弟