会社員という肩書を捨て、フリーランス、個人事業主、自営業、起業家という生き方を選択した人たちが毎日どんな生活を過ごし、どのようにしてどれぐらい稼ぎ、「幸せ」になっているのか。現在進行系で道を切り拓き生きている人たちの生の声をお届けするシリーズ第3弾は、ポールダンサーや一般社団法人日本ポールダンスセラピー協会の代表理事といった多彩な肩書きの所有者、柚月恵氏に話を訊いた。
取材・文:6APC
柚月恵
ポールダンサー一般社団法人日本ポールダンスセラピー協会 代表理事
幼少時からのダンス歴37年。2014年に一般社団法人日本ポールダンスセラピー協会を設立。15年に映画『兄弟 -Kyodai-』出演。16年にTEDxKobeでパフォーマンスを披露。18年公開の映画『マンハント』ではダンス振り付け指導を統括。現在、女性の悩みの深い部分にアプローチするダンスセラピーの普及に邁進すると同時に、企業とのコラボレーション、講演、ワークショップ、テレビ出演など活動の幅を広げている。
偏見を受けることも多いポールダンスで社会的信頼を勝ち得るには
柚月恵氏
ポールダンサーやインストラクターとしての活動、神戸でレッスンスタジオ兼カフェ「Studio Ambrosia(スタジオ アンブロジア)」を運営、そして一般社団法人日本ポールダンスセラピー協会の代表理事などの顔を持つ柚月恵氏。過去にはゴールデンボンバーのライブでダンサーとして出演した経験もある。
ポールダンスというと、派手な衣装に身を包んだ女性の“エロかっこいい”パフォーマンスを思い浮かべる人が多いだろう。だが同氏は単にその技術を教えるだけでなく、女性にとって「自身がセクシーで魅力的である」という状態、つまり男性社会で抑圧されがちな“女性性そのもの”を肯定し、非日常的なパフォーマンス空間でエネルギーを発散することを通じて、ある種のセラピー要素も見込めるとして普及に励んでいる。そんな中で設立されたのが、前述の日本ポールダンスセラピー協会だ。
「偏見を受けることも多いポールダンスの社会的信頼を得たい」ことと、「セクシーなダンスをセラピーとして研究したい」ことが動機となって、一般社団法人日本ポールダンスセラピー協会を設立したのが2014年。フリーのポールダンサーから社団法人の代表理事になったことで、社会的な信頼を得ることができた一方、責任も重くなったという。
「自分の主張を世に広めたいというだけでなく、ダンサーの地位向上に関する活動も増えてきました。日本ではダンス系のアーティストは社会的地位が確立されていないので、イベントのレベルやギャラもピンキリです。場合によってはノーギャラの時もあります。ですからフリーのダンサーとして依頼を受ける時もありますし、企業などからの出演依頼であれば協会を通します。一般社団法人は基本的には非営利で、わりと自由にやっています」という。
インストラクターとして生計を立て、社団法人で還元する
2016年にはTEDxKobeにも登壇した
「ダンスを広めていく中で、心身や女性性を解放し、幸せになる人を日々たくさん見てきました。その現場にいて、もっと普及したくならないわけがないのです。人が笑顔になることは広めるべきです。そして、そこには信頼できる形も必要です。パッションだけでも形だけでもダメ、両方が必要です。私は幸い、名前のとおり色々と恵まれていて余裕もあるので、パッションが続いています」と熱く語る同氏は、日本ポールダンスセラピー協会の名の下、女性としての性の解放と女性としての魅力アップをテーマにした講演・トークショー・メディア露出を精力的にこなしている。
読者の方が一番気になるであろうおカネの話。メインの収入源は、インストラクターとしてのレッスン代だそうだ。社団法人の代表理事としての収入について伺うと、「協会からはお金をいただいていません」という。ただ、「自費で賄うのは厳しい研究資料などを協会の経費で落とすことができます。これはすごく助かります」とも話してくれた。毎月の収入に関しては、「安定していません。身体が資本ですし、ケガをしたら収入は無くなります」と明かす。
それでも、「結婚しているので、収入がゼロでもなんとかなります。ホームレスになったりご飯を食べられなくなることはありません」とのこと。貧乏なフリーのダンサー時代だった頃から、「お金の心配をしたことはありません。貧乏だった時も、“お金がないとは絶対言わない”、“笑顔でいること”を心掛けていました」という。
収入が安定しない現実はあるものの、「社団法人を立ち上げ、法人格になったことで大きなお仕事の依頼を受けられるようになると、同時に信頼や知名度も上がります。なので、収入も上がることになります」という現実もあるそうだ。年間収益や取引相手など諸事情が絡んでくるものの、フリーランスから個人事業主(税務上で言うと白色申告から青色申告へと変化)、個人事業主から法人へと適宜変化していけるのも「会社員ではない」立場で仕事をする人たちのメリットと言えるだろう。
落ち込む時間は無駄。気持ちの切り替えが大事
仕事上での悩みや問題に直面した時や落ち込んだ時は、夫に相談するという。それでも、「結局、答えを出すのは自分です。落ち込む時間は無駄だと思ってますし、1日以上は落ち込む時間を持ちません」と語る。プロのアスリートが結果を残せなかった場合、気持ちの切り替えが大事という話を良く聞くが、失敗やミスを犯してしまった時に気持ちの切り替えが素早く出来るかどうかは会社員にとっても重要なことではないだろうか。
「会社員ではない」立場でさまざまな仕事をこなす柚月氏に「会社員ではない」立ち位置のメリットを聞くと、
・完全に自由なこと
・自分の人生を自分の手で、光のある場所に向かってどんどんひらいていける
と答えてくれた。逆にデメリットを聞くと、
・ありません
としている。
「会社員ではない働き方」をしている人が仕事をする上で一番大切なことはと訊ねると、「会社員でもフリーランスでも、人として素直で、心が真っ当であることが一番大事だと思います。社会を作っているのは生身の人間ですから」という考えを示してくれた。昨今、ビジネスの場でとかくコミュニケーション能力が取り沙汰されることが多い気がするのだが、どれだけコミュニケーション能力が優れていようと、一個人としてのトータル的なバランスを意味する人間力がなくては話にならないのではないだろうか。その点で、同氏の言う「人として素直で、心が真っ当であること」は人間力の基本なのかもしれない。
今あるもの、傍にいてくれる人を当たり前だと思わないことが大事
最後に柚月氏の人生の設計図について聞いてみた。
「設計図はありません。目標は、“最高の自分”です。ダンスセラピーで、1人でも多くの人をハッピーにしたいです。“人間一人ひとりが会社”というくらいの感覚が、これからの時代は大事だと思います」
あなたにとっての幸せとは?と話を振ると、「幸せとは、置かれた環境ではなく、心の状態ですよね、なので 自分が幸せになれる時間は、自分でガッツリ取りに行くべきだと思ってます。幸せに生きていくには、今あるもの、傍にいてくれる人を当たり前だと思わないことが大事だと思います。あと、自分が“これが大好き!”と言えるものを見つけて、つきつめていくと物事の本質を見る目を養えます。それは人を幸せへと導くと思います」と答えてくれた。
最後に、会社組織に縛られない生き方を模索している人達へ柚月恵氏からのメッセージをお届けする。
「自分の好きなことを継続することです。それが大きな資産、財産になります。オタクなマインドは尊いものです」
柚月恵氏の平均的な一日のスケジュール
10時 起床
11時 飼い猫と遊ぶ・ヨガ・家事
13時 レッスン
15時 ランチ
21時 レッスン終了
25時 就寝