最近、日本に帰国するたびにママさんたちに相談されることがあります。しかも、かなり真剣 に。そう、それは子育てについてです。でも、一体どうして、ただの40代おじさんである筆者に、世の中のママさん、しかも優秀なママさんが子育ての相談を持ちかけてくるのでしょうか?
吉田和充(ヨシダ カズミツ)
ニューロマジック アムステルダム Co-funder&CEO/Creative Director
1997年博報堂入社。キャンペーン/CM制作本数400本。イベント、商品開発、企業の海外進出業務や店舗デザインなど入社以来一貫してクリエイティブ担当。ACCグランプリなど受賞歴多数。2016年退社後、家族の教育環境を考えてオランダへ拠点を移す。日本企業のみならず、オランダ企業のクリエイティブディレクションや、日欧横断プロジェクト、Web制作やサービスデザイン業務など多数担当。保育士資格も有する。海外子育てを綴ったブログ「おとよん」は、子育てパパママのみならず学生にも大人気。
http://otoyon.com/
確かに筆者は「保育士」の資格を持っています。しかし、その資格を実戦で使ったことは、ほぼありません。ペーパードライバーならぬ、ペーパー保育士。ただでさえ忙しい子育てママ。もしかしたら、仕事だってしているかもしれない。さらに優秀な日本のママさんたち。ペーパー保育士に相談するほど、暇ではないですよね。
実は、40代おじさんである筆者は、今から4年前に1年間の育休を取った経験があります。ついでに言うと、その期間を利用して家族でアジアを放浪。いや、正確に言うと、アジアを放浪しながら、子どもの学校や教育環境を見て周った経験があります。
さらに言うと「世界一子どもが幸せ」と言われているオランダに、世界一の子育て環境を求めて2016年に移住もしてみました。当時、勤めていた会社を辞めて。
そもそも育休を取る時にも、周りからは「やめておけ」「戻る場所がなくなるぞ」などと心配され、大企業を辞めての移住に際しては、もはや「理解不能」というような反応もされましたが。
それが不思議なもので、今となってはママさんたち、そして最近ではパパさんからも、子育ての相談を受けることが非常に多くなっているのです。
さてさて、ちょっと前置きが長くなりましたが、今回はそんな相談を受ける際に話しているオランダと日本の子育ての、分かりやすい違いをお伝えします。なぜならこれを知っていると、子育てがきっと楽になるのでは?と思うから。特に子育てをがんばりすぎている優秀なママさんに届くといいなあ…と。
熱がある? じゃあ、家で寝てなさい。
ということで今回は、実際に現地に住んでみるとわかる、オランダの病院の対応の仕方をお伝えします。なぜなら、これが最も端的に日本との違いが現れていると感じるからです。そして、ここに世界一子どもが幸せの国オランダの、子育てのヒントが隠されていると思うからです。
オランダの医療は、いくつかの調査によるとヨーロッパ一の水準であるとされています。ただし、実際に住んでいると、そうしたことを実感できるか?というと、実はそうでもありません。「オランダの医療は本当にひどい」なんてことは良く聞きますし、実感値としても日本の医療の方が信頼できる印象があります。
一般的には日本の医療に対しての印象は、特に最近は親切で丁寧、技術が高く信頼できる。しかも薬もしっかり出してくれる、といったところでしょうか。
しかし、オランダの医療に対しての印象は、真逆に近いものがあります。元来がコミュニケーション好きなオランダ人。もちろん対応は悪くなく、ドクターもみんな笑顔で接してくれます。が、技術は、病院によって大きく差があるように感じます。
ただし、ここは日本とちょっと違う医療制度を理解しておく必要があります。というのも、オランダではホームドクターといって、さまざまな相談に乗ってくれる近所のかかりつけ医に登録をしなければなりません。ですから、よっぽどの重病や緊急を要しない限り、すべての病気、ケガなどは、まずホームドクターの診断を受けるところからスタートです。
このホームドクター、良く言えばかかりつけ医として、どんな病気や怪我であっても自分担当の専属の先生が相談に乗ってくれるのですが、例えば結膜炎から、骨折、皮膚のかぶれ、もちろん風邪など、素人目にもかなりの守備範囲が求められる気がします。以前、子どもが水疱瘡の疑いがあり、ホームドクターに診断してもらったところ、「う〜ん、何かしら…?」としばらく思案顔。通っていた幼稚園で水疱瘡が流行っていたことを伝えて、「水疱瘡ではないでしょうか?」と聞いたところ、「そうよ!きっとそれよ!」と笑顔で応えられる始末。
ちなみに、我が家の場合、家族全員が同じ担当の先生ですが、自分は今まで担当の先生の予約が取れたことはありません。もしかしたらよっぽど運が悪いだけかもしれませんが…。というのは、ご存知オランダは、ワークシェアの国でもあるのです。おそらく先生も週3勤務辺りなのでしょう。ということで、まず、なかなか担当医に見てもらうことができません。
ホームドクターに相談して、必要であれば専門医や大学病院など、より高度な医療サービスを提供する病院へ紹介されるというのが、本来想定されている流れではありますが、病気がそんな都合良いタイミングで発病することはないので、時に、ほとんど役に立たないホームドクターの診察を受けるために、2日、あるいは週末を挟んで3日と待ったりすることもあります。
よくあるのは、この間に重症化してしまったりすることです。こういうことがあるので、オランダの医療はあまり信用できない、となるのです。
そして、このこと以上に日本との大きな違いは、病院があまり薬を出さない、ということです。例えば、インフルエンザで高熱でフラフラになりながら、ホームドクターの診察を受けにいっても、「インフルですね。まあ、2、3日家で寝てれば治るから」と言われておしまいです。薬も注射も何にもありません。
子どもには、そもそも伸びる力が備わっている。
この対応、特に子どもに対しても同じなので、最初は戸惑ったのですが…。今となっては逆にほとんど病院に行かなくなりました。行ってもほぼ意味がないことが分かっているからです。
さらに慣れてくると、普段から自分たちで予防するようにもなります。ちょっと風邪っぽいな、と感じたら、蜂蜜舐めて早く寝るとか、梅干しをお茶に入れて飲むとか、おばあちゃんの知恵的な対応や、あるいはアロマを使用してみたり。とにかく、少しでも体調に異変を感じたら早めに対応するのです。
そして、もし体調を崩してしまったら、もうひたすら寝るとか、栄養のあるものを食べるとか、逆に絶食するなどして、とにかく体調が自然と回復するのを待つしかないのです。
でも、これに慣れてくると、意外なことに気づきます。人間の体は本来的には治癒力があり、体調が悪くなったら、全力でその治癒力が働いて回復させてくれようとしているはず、ということ。つまり薬の力に頼らなくても健康な体に戻れる、ということでもあるのです。
そう考えると、すぐに薬を出してくれる日本の医療は、もしかしたら自分で治そうとする力を奪ってしまっているのではないか、とも考えられないでしょうか?
もちろん、薬を使わないと治癒できない病もあるでしょう。なので、なんでもかんでも薬なしが良い、ということを言いたいのではありませんので、悪しからず。
で、ぐるっと大回りして、やっと子育ての話に戻ってくるのですが、これがオランダと日本の子育ての違いに似ていると感じています。
子どもは元来、自分で伸びる力を持っている。なのに、親や学校が先回りして「あれやれ、これやれ」「ああしろ、こうしろ」「あれしちゃいけない、これしちゃいけない」みたいなことを言いすぎていないだろうか? 自分で伸びる力を持っている子に、過剰に口を出しすぎていないか? 子どもの先回りをして、あれこれお世話を焼きすぎていないか? という辺りを、振り返って見てほしいのです。子どもの先回りをして、過剰な処方箋を作って、余計な薬を与えていないだろうか?と。
これを続けていると、自分で伸びる力がなくなってしまうのではないか? 親が良かれと思ってやっていることが、返ってその子がもともと持っている可能性をなくしてしまっているのではないか? こんなことを、特に日本の優秀なママさんからは感じることがあるのです。さらに、それが結果的にはママさん自身を苦しめているのではないか?と。「ちゃんと子育てしないと!」という意識が強すぎやしないか?と。
オランダでは、病院と同じように、子どもへの過剰な手助けや干渉はほとんどしません。これは子どもを一人の自立した人間として認めている、ということでもありますが。
オランダと日本の子育てでは、こんな違いを感じます。そしてこの話をすると、優秀なママさんほど心当たりがあるようで、「そうですよね〜。どうしても心配で先に言ってしまうんですよね」と言われます。
子どもは基本的に失敗を重ねて学んでいく生き物です。その失敗できる機会を先回りして奪ってしまっていることにもなるのではないでしょうか。特に最近の日本では、大人の失敗はなかなか許されませんよね。なおさら、子どもの時に、いっぱい失敗しておかなければならないのです。
子どもの風邪を治すのは子ども自身であって、ママさんではありません。いくら優秀なママさんでも、最終的に風邪を治すのは本人です。子ども自身の伸びる力を信じて、遠くから見守ってあげてください。
子どもを1人の人間として認めて、遠くから見守る。この点がオランダと日本では一番大きな違いのように感じます。これ、結果としてはママさんも楽になる、というのがポイントです。
ぜひ、実行してみてください。
次回は9月15日頃、公開の予定です。