神保慶政
映画監督
1986年生まれ。東京都出身。上智大学卒業後、秘境専門旅行会社に就職し、 主にチベット文化圏や南アジアを担当。 海外と日本を往復する生活を送った後、映画製作を学び、2013年からフリーランスの映画監督として活動を開始。大阪市からの助成をもとに監督した初長編「僕はもうすぐ十一歳になる。」は2014年に劇場公開され、国内主要都市や海外の映画祭でも好評を得る。また、この映画がきっかけで2014年度第55回日本映画監督協会新人賞にノミネートされる。2016年、第一子の誕生を機に福岡に転居。アジアに活動の幅を広げ、2017年に韓国・釜山でオール韓国語、韓国人スタッフ・キャストで短編『憧れ』を監督。 現在、福岡と出身地の東京二カ所を拠点に、台湾・香港、イラン・シンガポールとの合作長編を準備中。
ビットコインの勢いは絶対に止まらない
紙幣や硬貨といった物理的な通貨というものは、近い将来なくなるかもしれない。クレジットカード、電子マネー、そして仮想通貨の普及によって、そう予感する人は確実に多くなっているはずだ。堀江貴文『これからを稼ごう―仮想通貨と未来のお金の話』(徳間書店)は、新しいテクノロジーが実現する未来について、「わかること」と「わからないこと」が明確に書かれている一冊だ。
まずは著者が「わかること」から紹介していこう。題名から自明の通り、著者は仮想通貨が「これから」を切り開いていくことを確信している。仮想通貨の中でも、日常生活で使われて経済を回していく用途を持つビットコインの展望に関して、2014年2月、朝日新聞から著者が受けたインタビュー記事の一部が本書の冒頭で引用されている。
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ビットコインの広がりは止められません。簡単には供給量を増やせないし、他の通貨と交換ができる。必ずしも国に管理されている貨幣が信用できるとは限りません。紙幣をお金として使うのは習慣的なもので、惰性です。日本でも、何かの拍子で紙のお金が消える時代がくるかもしれません。(P20)
4年以上前のインタビューだが、著者のスタンスはいまだに変わっておらず、人々に繰り返しこのことを説いているという。それだけ、通貨というものは根強い。国や企業など、中央集権によって管理されていない、今までとは違うお金。それゆえ、事件や失敗もあった。しかし、著者はそうしたネガティブな情報は気にしていないし、かといって「これで誰でも一攫千金!」と投機のテクニックを説いているわけでもない。ビットコインというテクノロジーから生まれる「おもしろいこと」「おもしろい社会」に興味を抱いているのだ。
とはいえホリエモンでも「確実な未来」はわからない
それでは、著者が「わからないこと」は何なのだろうか。著者は単純に、未来というものはわからないというスタンスを本書で明らかにしている。
何をすれば幸せに生きてけるのか、昔はわかったが今はわからない。そう感じる人は多いという。筆者は先日『はじめてのおもてなし』という、ヨーロッパの難民問題をコメディの流れの中で描き大ヒットしたドイツ映画を鑑賞したが、その劇中でも「何をどうすれば正解なのか、誰しもが困惑している」というようなセリフがあった。日本だけではなく、世界中でそうした気運が高まっているのだろう。今まで何の問題もなかったことが突如通用しなくなる。そうしたことが社会の各所に散見される。
例えば、人口が増えることによって消費が拡大する「人口ボーナス」も、アメリカや日本といった先進国が経験してきたセオリーが通用しなくなってきていると著者は語る。
2040年頃まで人口ボーナス期が続くベトナムに多くの外資企業が進出している。途上国であっても既にスマートフォンが普及しているといったように、「成長国ではこんな順番で産業が伸びていく」ということが予測しにくく、思うように投資が機能しなくなってきている。
また、ビジネスだけでなく、人々の暮らしに関しても同様のことが起きている。著者は、子育てを例にとって投資の本質を説明する。
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もし、あなたが子供を生み育てるということを「投資」として見てしまうと、これはもう、宝くじみたいなものだ。「ウチの子供は将来、自分をなんとかしてくれるんじゃないか」—。残念ながら、そんな根拠はどこにもないし、神頼み、運まかせなところも、宝くじを買う心理と一緒だ。(P51)
先進国での出生率の低下はある程度しかたのないというのが著者の見解だ。子供を産んで育てなくても、生きていける選択肢が多くあるからだ。かつては労働力確保の必要があったが、そうしなくてもよくなった。すると、子育てに投資と同じような、期待や希望が生じてきてしまう。
未来はわからない。しかし、投資というのは未来の成果に賭けて行うものだ。そこに、未来の投資手段の主体としてビットコインが注目を集めている。多くの人がまだビットコインへの不安を持っていて、「本当に安全なのか」と疑問に思っているものの、インターネットが無くならない限りビットコインはなくならない。インターネットが今の世の中からなくなることはまずないからだ。
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誰しもが正解を求めたいと思っている。未来永劫続く正解がほしいのだろう。ただ、残念なことに、そんなものは存在しないのだ。(P97)
テクノロジーの力を著者は最も信じている。そして、それは国を超越した力をも持つという。もちろん、100%確実ではない。しかし、そこを信じずにこの波に乗らないのが最大の損だと、著者は読者に語りかける。
「私でも未来を作れる」と思える手段の一つがビットコイン
ビットコインにシフトするのがためらわれる人にとっても、クラウドファウンディングが今後どのような使われ方をしていくのかという点に関する著者の見解は、投資手法の変化をより身近に感じさせてくれる。
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日本の航空運賃は高すぎだ。同じことを思っている旅好きの人は多いはず。クラウドファウンディングで1000億円ぐらい集めれば、自分たちで安価に使えるLCCのエアラインは実現できる。
1人10万円として100万人。その出資者たちに超格安優待航空チケットをつけるなど、魅力的な報酬を工夫すれば、無理な話ではない。(P194)
クラウドファウンディングで集められたお金は課税されず、利益が出た場合は優待チケットに回せばよいと著者は語る。利益を出さない、法人税ゼロで運営する会社が成立可能だというアイデアだ。このように、著者は徴税というものが難しくなる時代の到来を予測している。
総じて、著者が繰り返し語るのは、既存の常識を安易に信じず疑ってかかることである。
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何かやることがないと、何かを生産し続けていないと「不幸になる」と思い込んでいる。仕事をしていないと、満足できなくっているのが、現代人だ。さらには、働いていないと金は得られないという常識にとらわれている。(P205)
「私には無理」ではなく、ひとりひとりが考えて行動していけば「これから」は変わっていく。そう信じさせてくれる一冊だ。