iPhone X(左)とmoto g6(右)
文:伊藤僑
モトローラブランドの最新機種“moto g6”
今では中国のPCメーカー「レノボ」の1ブランドになってしまったが、かつて「モトローラ」といえば、モバイルデバイス好きには憧れのメーカーだった。ブランド戦略に長けているレノボは、IBM時代からファンが多いノートパソコン「ThinkPad」も買収し自社ブランドのひとつに取り込んでいる。
モトローラのスマートフォンといえば思い出すのは「M1000」だ。
ビジネスユーザー向けに、2005年7月に発売された「M1000」。
海外向けの「A1000」をベースに、日本市場向けに開発されたM1000が発売されたのは2005年7月。その頃はまだ、「スマートフォン」という製品カテゴリーも存在しなかった。iPhoneが日本市場にデビューする3年も前のことだ。
基本スペックを紹介すると、OSには「Symbian OS」を採用。画面は2.9インチの感圧式タッチパネルで、スタイラスペンを本体に格納しソフトウェアキーボードや手書き入力が可能だった。カメラを2つ(131万画素と31万画素)搭載、Wi-Fiも利用可能と、まさにスマホの先駆け的製品だった。
今回紹介する「moto g6」は、そんなM1000の血統を受け継ぐモトローラブランドのSIMフリースマートフォンだ。同ブランドの製品構成ではミドルクラスにあたる「Gシリーズ」の製品で、価格.com(2018年7月25日)では28,000円代からと、極めてコストパフォーマンスが高い。同条件で115,000円代からのiPhone X(64GB)に比べると、およそ4分の1の価格で購入できることになる。
3万円を切るミドルクラスながら機能は充実
moto g6のボディは、高さ約153.8mm×幅約72.3mm×厚さ約8.3mm(最薄部)。やや縦長でホールド性は悪くない。ただし、背面が光沢感あるガラス仕上げのため滑りやすく、うっかり落とさないよう注意したい。
ディスプレイには、フルHD+の2,160×1,080表示対応5.7型液晶を採用。2,436×1,125表示の高価な5.8型有機ELを使ったiPhone Xは別格だが、ワンランク上の製品と較べても遜色のない鮮明で美しい映像再現が魅力だ。ブルーライトを低減するモードも利用できる。
多くのAndroid端末では、OSにメーカー独自のカスタマイズが施されているのに、moto g6はGoogle製スマホのように、Android 8.0がほぼ素のままで搭載されている。筆者がAndroid 8.0の評価用にmoto g6を選択した理由もここにある。プリインストールされているアプリも少ないので、スッキリしていて使いやすい。
認証機能には、インカメラを利用した顔認証に加え、指紋認証も搭載している。ただし、iPhone Xのように精密な深度情報を得るセンサーを使うわけではないので、2次元画像による顔認証となる。
気になる処理能力面では、プロセッサにはSnapdragon 450(1.8GHz×8 オクタコア)を採用し、メモリ3GB、ストレージ32GBという構成。ゲーム好きには物足りないかもしれないが、普段使いでストレスを感じることはなかった。バッテリーも3,000mAhと大容量なので、ゲームや動画鑑賞を長時間しない平均的な利用状況なら1日もつだろう。
2枚のnano SIMとmicroSDを利用できるトリプルスロットを採用しているのもmoto g6の特徴のひとつ。2回線同時待ち受け可能なDSDS(デュアルSIMデュアルスタンバイ)にも対応している。接続端子にはUSB Type-Cを採用しているが、3.5mmミニジャックも残されており、イヤフォンで音楽を楽しみながら充電することもできる。次期iPhoneは、DSDSやUSB Type-Cを採用するとの噂もあるから、この点ではiPhoneよりmoto g6は進んでいると言える。
競合するAndroid製品との違いとしては、moto g6にはモトローラ独自の「Motoエクスペリエンスユーティリティ」がインストールされており、利便性を高める多様な機能を提供してくれる。例えば、本体を「ひねる」、「振る」といった動作を加速度センサーで検知してカメラやフラッシュライトを起動したり、画面を下向きにして着信音や通知音を無効化するなど、なかなか気の利いた機能が多い。
moto g6のカメラ性能をiPhone Xと比較してみた
moto g6では、カメラの性能を大幅に向上させている。中でも特筆すべきはLEDフラッシュも付いたインカメラだ。セルフィーをキレイに撮りたいというニーズの高まりに応え、1600万画素(F2.2)の高性能カメラを採用。画素数だけで言えば、iPhone Xのインカメラ700万画素を大きく上回っている。
アウトカメラには、1200万画素(F2.0)+500万画素(F2.2)のスマートデュアルカメラを搭載。深度検出によってボケをいかすポートレート撮影などを実現できる。これは、すでにiPhone等でお馴染みの機能だ。
ただし、同じデュアルカメラでも、広角レンズと望遠レンズ(どちらも1200万画素)を使い分けられるiPhone Xと違って、500万画素カメラは深度の検出などに特化して用いられるようだ。iPhone Xの場合には、デュアルカメラの両方に光学式手ぶれ補正機能も搭載されている。
動画撮影に関してはフルHD(60fps)となっており、4K(60fps)が可能で光学式手ぶれ補正まで利用できるiPhone Xに大きく差をつけられている。
では、実際の作例でmoto g6とiPhone Xのカメラ性能の比較をしてみよう。
2枚並んでいる写真のうち、左側がiPhone Xで、右側がmoto g6。アウトカメラでは画素数が同じだ。
左側がiPhone Xで、右側がmoto g6で撮影した画像。
全体的に言えるのは、iPhone Xが実際の見た目の印象に近い、やや暖色系の発色なのに対し、moto g6はやや寒色系に偏る傾向があると言うことだ。ちょっと残念なのは、moto g6は明暗の差が大きい被写体が苦手で、暗部は黒くつぶれがち、明るいと白トビしがちなのだ。だが、約4倍の価格差があり、カメラの描写力で定評のあるiPhone Xと較べてしまうのは酷かもしれない。
最後の赤いオブジェは、どちらもインカメラで撮影した。右のmoto g6は、こちらをアウトカメラにしたいぐらいの高精細な描写力に驚かされる。ただ、ポートレート撮影に最適化されているため、残念ながら無限遠の撮影はできない。
どちらもインカメラで撮影した画像。さすが1600万画素、moto g6(右)の高精細な描写力に驚かされる。
機能面、性能面でもバランスのとれた製品
moto g6を1週間ほど使ってみた印象としては、3万円以下とは思えないボディの質感や鮮やかな画面は、ビジネスツールにこだわる層にも十分受け入れられそうだというもの。機能面、性能面でも、これがないと困るというような「穴」は見当たらず、バランスのとれた製品と言えるだろう。
もし予算的に余裕があるなら、Gシリーズには一回り大きなディスプレイや、より高性能なプロセッサを搭載したワンランク上の「Moto G6 Plus」もあるので、そちらを検討してもいい。
スマホにはあまり予算をかけたくないという人だけでなく、メインにはiPhoneを使いたいが、Androidにしかないアプリも使いたいという欲張りな人にもオススメしたい。価格以上の満足度を得られるコストパフォーマンスに優れた製品だ。