傘のかたちをした銃や小型盗聴器など、スパイ映画にはさまざまなガジェットがつきものだが、最近では小道具として正式に採用されそうなものまで商品化されていたりする。
例えばペン、眼鏡、腕時計などにカメラ機能が内蔵されているものは通販サイトでも気軽に購入可能だ。USBポートに差し込むだけでパソコンを使用不能にしてしまう『USB Kill』や、骨伝導の仕組みを活用し、指を耳にあてるだけで電話での通話が可能な『Sgnl』など、より高度な商品まで購入できる時代になっている。
そして、遂に“極めつけ”と言えるような恐ろしいアイテム「スマホ型拳銃」がアメリカで発売された。
文:6PAC
物議を醸し続けるスマホ風折り畳み式拳銃
“隠し持つには理想的”という意味の“Ideal Conceal”を社名とする米ミネソタ州のアイディール・コンシール社が販売するのが、現在特許申請中となるダブルバレル38口径(Double Barreled .380 Caliber)の折り畳み式小型拳銃だ。
この拳銃の最大の特徴は、スマホ風の折り畳み式拳銃というところ。まさに最新のスパイ映画にでも登場しそうな見た目だ。大きさはサムスン・ギャラクシー・S7とほぼ同サイズの3×5インチ(7.6×12.7センチメートル)。2018年7月に事前予約分の出荷が始まっている。また、米中西部の一部ガンショップでも流通している模様。価格は575ドル(約6万4,000円)となっている。
2016年からこの拳銃の開発を始めた同社だが、当時からこのスマホ風折り畳み式拳銃は物議を醸してきた。銃による乱射事件が引きも切らずに発生するという社会背景があることから、民主党のチャック・シューマー上院議員は「これから起きるであろう惨事だ」と批判し、司法省およびアルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局にこの拳銃が市場に出回る前に合法性について精査するよう要請した。しかし、同局は17年にこの拳銃を合法だと判断した。
だが全米の警察も、子供がおもちゃと勘違いしての誤射、隠しやすいという特性からアメリカ国外へ密輸される危険性、スマホに見えることから銃を所持していないと判断した警官がこの銃により撃たれるリスクなどがあることから警戒を強めている。
さらに、アメリカ国内ではスマホを銃と勘違いされ一般人が警官に撃たれる事件も非常に多い。2018年5月に米テキサス州ダラスで開催された全米ライフル協会(NRA)の年次会合でこの銃がフィーチャーされるという情報が広まると、一般人からも批判が強まった。あるTwitterユーザーは「どういう問題が起きるのだろう?」と心配するつぶやきを投稿。「非合法にすべき」、「全米ライフル協会はクソすぎる」、「警官はどうやって本物のスマホかスマホ風の銃かを見分けるんだ?」、「警官に撃たれるアフリカ系アメリカ人が増えるだけ」、「警官に発砲する口実を与えるだけ」、「こういう銃が出てくると、警官だろうが一般人だろうが関係ない。全ての人の生命に関するリスクが高まるだけ」といった非難が強まった。
「拳銃型スマホケース」は一部都市で所持禁止
皮肉な話だが、拳銃の形をしたスマホケースはすでにアメリカ国内で流通しており、これに端を発した事件も起きている。2018年2月にはフロリダ州の学校に拳銃型スマホケースを持ち込んだ15才の少年が逮捕されるという事件が発生した。スマホケースを本物の銃と感違いした生徒が「誰かが銃を学校に持ち込んだ」と警察に通報。持ち込んだ張本人が見つかるまでの45分間、学校が閉鎖される事態となった。ちなみにこの拳銃型スマホケース、シカゴやインディアナポリスといった一部の都市では所持が禁止されている。
スマホ風折り畳み式拳銃は、まさにスパイが万が一の時に使用する近距離での護身用として設計されているようだ。弾も2発しか連発できないので、暗殺用としても相当接近してからではないと難しいと思われる。まして、短時間で何十発も撃てる類の銃ではないので、乱射事件に使用される危険性は低いだろう。
それでも9ミリの弾丸には十分殺傷能力はある。製造したらその数だけ市場に流通し、一般人でも入手可能だ。どういった使用シーンを想定しているかは関係なく、こうした銃の登場には「警官だろうが一般人だろうが関係ない。全ての人の生命に関するリスクが高まるだけ」という一言に尽きるだろう。