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「この人とは考え方がまったく合わない」と、人付き合いで悩んだ経験はないだろうか?
もしくは、「無意識に怒り方の度が過ぎてしまいパワハラにならないか心配だ」と、自分の個性が強く出過ぎて不安を感じている人もいるかもしれない。
ビジネスだから結果さえ出せれば問題ないというドライな考え方がある。しかし、人間関係にかけている余計な労力を減らして、クリエイティブに時間を使えることはよいことだ。人間関係の悩みを解決するヒントが、半世紀ほど前に心理学の世界で提案されている。
心理学者カール・グスタフ・ユングが提案した「タイプ論」では、人間を8種類に分類し、個性の傾向を細分化している。個性の種類が認識できれば、違いを受け入れやすくなる。
自分の性格がわかれば、個性が暴走して周囲に迷惑をかけないように気をつけることもできる。クリエイティブの現場やチャレンジングなビジネス環境では、強い個性が求められることがある一方で、「あいつは変人だ」と他者を遠ざけたり、自分自身が距離を置かれたりするリスクもある。不必要なすれ違いを避けるために、個性の種類を確認していこう。
文:関口雄太
タイプ論は劣等機能と付き合うための技術
タイプ論は人間の個性を8種類に分類する分析心理学である。分析心理学というと、フロイトの「オイディプス・コンプレックス」や最近のアドラー心理学などが注目されがちだ。フロイトの「すべての人間は父親殺しの欲望がある」と一括りにする思想に対して、アドラーは「自己の価値を守り、高める」という姿勢をとった。その折衷案としてユングはタイプ論を提案し、「性格にはひな形があり、その上で個性が表れる」という姿勢を確立した。
たとえば、書類作成などの事務処理を正確にこなすことが得意な人がアーティストを目指したり、アイデアのひらめきが得意な人が法律家を目指したりすると、成果を得るまで時間がかかることがある。目標は達成できるが、より多くの苦労が求められるのだ。
得意と苦手を認めることは、生き方のヒントになり、他者の才能を認めやすくなる。
内向型と外向型でエネルギーの使い方が違う
内向型と外向型、2つの精神的構えがある。この分類は、エネルギーの流れ方を説明している。
内向型は目にした情報や刺激を、「自分がどう感じたか」で満足する。外からの刺激よりも、自己の内省に価値を見いだす傾向が強い。全社飲み会のような交流が活発な場面が苦手な人はたいてい内向型だ。交流を好むとしても、ゆっくりと少人数での場合が多い。
外向型は情報や刺激に、どんな影響を与えたかで満足する。笑わせてもらうよりも、笑わせることが好きなタイプだ。当然、外向型は交流が活発な飲み会を好む。たくさんの人と関わることが、彼らにとって素晴らしい体験になるのだ。
対象との向き合い方で優位機能がわかる
精神的構えの他に、判断機能がある。1つは合理判断、もう1つが非合理判断である。それぞれに2つの機能があるので、全部で4種類の判断機能があることになる。4種類のうち、もっとも強い傾向がある機能を「優位機能」と呼び、対になる機能は「劣等機能」と呼ばれる。
合理判断には、感情機能と思考機能がある。たとえばバイクの新商品を目にしたとき、感情機能は好き・嫌い、楽しい・つらいなど、気持ちによって情報を判断する。感情機能に対立する、思考機能では、プロダクトの型や機能性などを論理的に分析する。
非合理判断は、直観機能と感覚機能に分類される。直観機能が強い人が、同じようにバイクのプロダクトを目にすると、関連するさまざまな情報を発想する。プロダクトそれ自体よりも、「旅に出かける」「洗練されたデザインで女性にも人気が出そうだ」など、異なるアイディアが想起されるのだ。対して、感覚機能が強い場合は、色や触感など具体的に情報を受け取る傾向が強い。
以上のことから、性格は8種類に分類ができる。
内向型感情タイプ
内向型思考タイプ
内向型直感タイプ
内向型感覚タイプ
外向型感情タイプ
外向型思考タイプ
外向型直感タイプ
外向型感覚タイプ
劣等機能とうまく付き合ってトラブルを避けよう
ここで紹介したタイプは、ユングの著作『心理学的類型』に紹介されているが、その論文のなかで劣等機能がもつ問題点が頻繁に指摘されている。
「感情優位」の人は「思考劣等」でもあるので、論理的な分析が求められる場面で活躍しづらく、問題すら起こすこともある。逆に、「思考優位」の人は、感情をコントロールすることが苦手である。気持ちを制御できず、相手の気持ちに気が回らず、一方的に怒りを表現してしまう人は「感情劣等」が原因かもしれない。
私たちが性格を活かして働くには2つのアプローチがある。
1つは優位機能を尊重することだ。「長所を伸ばす」とよく言われるが、直観が冴えている人がいる一方で、感覚が研ぎ澄まされている人もいる。優位機能が無視された役割分担は会社にも個人にも損失になりやすい。
もう1つのアプローチは、劣等機能を理解したうえで、苦手な分野に挑戦することだ。ユングは錬金術について研究していたこともあり、神秘性が強く、トンデモ思想家として認識されることがある。おそらくユングは優位機能も劣等機能も認めた上で、バランスのとれた人間になることを目指していたのかもしれない。結果はどうであれ、錬金術という調合によって「無」から「有」をつくることに注目したように、苦手を鍛えて人間として成長することが、性格を生かすことにつながるだろう。
そして、忘れてはいけないのが、すべての人が個性をもっていることだ。同じタイプの人でも、同じ人間であることはない。性格が発露される度合いは人それぞれであるが、すべての性格が1人の人間のなかに存在しているものでもある。
違いを認める尺度の1つとして、ユングのタイプ論を参考にしてみてはどうだろうか。