会社を退社したあと、あなたは何をしているだろうか?
来る日も来る日も漫然と働いて余暇を楽しんで気がついたら定年を迎えているかもしれない。いや、成長しない人はいつクビになってもおかしくない時代は来ている。そうだ、スキルアップしよう。
筆者の職業はITエンジニアで、最新技術をキャッチアップしなければ仕事にならないことも多い。サラリーマン時代に副業経験もあり、現在はスタートアップでCTOとして開発・制作を行う人材を雇用する立場でもある。
副業を志す際、最初の障壁となるのが「自分を雇ってくれる人がどこにいるのか」というマッチングだろう。今回紹介する「シューマツワーカー」は、そんな人たちと企業を結びつける画期的なサービスだ。
筆者も雇用側として利用してみたのでその感想をレポートしつつ、運営会社の社長インタビューもお届けする。
高見沢徳明
株式会社フレンバシーCTO
大学卒業後金融SEとして9年間勤めたあと、2005年にサイバーエージェントに入社。アメーバ事業部でエンジニアとして複数の案件に従事した後、ウエディングパークへ出向。システム部門のリーダとなりサイトリニューアル、海外ウエディングサイトの立ち上げ、Yahoo!などのアライアンスを担当。その後2012年SXSWに個人で参加。また複数のスタートアップ立ち上げにも参画し、2016年よりフリーランスとなる。現在は株式会社フレンバシーにてベジフードレストランガイドVegewel(ベジウェル)の開発担当。
副業ニーズとスタートアップをマッチング
シューマツワーカーの使い方はいたって簡単だ。アカウント登録して案件一覧から「気になる」仕事を探し、応募するだけ。基本的に「副業」前提の仕事なので関わり方は応相談。土日しか充てられなければその工数でできる仕事を依頼される。
案件一覧には社名が公表されていないケースもあるが、経験がまだそこまでなく、スキル向上や業界知識などを求める部分が大きい場合は相談してみるのも良いだろう。
社食コレクションCEOの松村幸弥氏
サービスを運営する社食コレクションのCEO、松村幸弥氏によれば「利用企業は人手は欲しいがフルタイム雇用の人件費が割けないスタートアップが中心」とのこと。本記事を読まれているスタートアップ経営者はWantedlyだけでなく、シューマツワーカーの併用も検討してみてはどうだろう。
依頼には2種類のパターンがあり、中長期目線で働いてもらう人材アサインだけでなく、プロジェクト単位でも依頼可能だ。我々も両方のパターンで利用したことがある。業務を行う前の週までに作業予定時間を入れてもらい、スケジュールを立てる流れだ。支払いは時給制なので、たとえば時給2,500円×月間40時間なら月あたり10万円(+シューマツワーカー仲介手数料)で依頼ができる。
筆者が勤める株式会社フレンバシーでも、シューマツワーカー経由で数名に参画してもらっている。2017年の年末にコーポレートサイトのリニューアルを行ったのだが、これを担当したのがシューマツワーカー経由で来てもらった人たちである。1カ月の工期だったが他社見積の半額以下できれいなサイトに生まれ変わった。
(左)元のフレンバシーコーポレートサイト (右)現在のフレンバシーコーポレートサイト
コンシェルジュがマッチングを丁寧にサポート
紹介される人材はそれぞれ名の通った会社で本業でバリバリ働いている優秀な人も多く、手を動かすだけのエンジニアでなく、困ったときに相談できるコンサルタントにもなってくれる。あえて欠点を挙げるとすれば、当たり前だが本業が最優先なことと、99%リモートなのでコミット力に限界があることや、細かいニュアンスの伝え方が難しいところである。
シューマツワーカーでは人材を個別にマッチングさせるだけでなく、企業側の要望を聞き、案件に合った人材を組み合わせて小プロジェクトチームを作ってくれる。
今回のウェブサイトリニューアル案件で窓口になってくれた女性の担当営業は、ウェブディレクションの知見があるので話がスムーズだった。なので御用聞き営業にありがちな、何かと「宿題にさせてください、と言って後から回答」ということは生じない。デザイン、レイアウト、テキストのワーディングからサーバ移転までまとめてやってもらった。
一方、副業ワーカーの立場からこのシューマツワーカーを見てみる。案件にもよるが、基本的に事業者と直接契約するよりは報酬が安くなる。幅広い人脈があり、安定的に副業先を見つけられる人にとっては不要なサービスかもしれない。だが、クライアントが見つからない人や、金額などの条件交渉が苦手な人にとっては仲介として間に入ってくれるメリットもあるだろう。
現在、シューマツワーカーには1000人を超える登録者がいるという。エンジニアだけでなく、デザイナー、広報、ビジネスデベロップメント、ライターなど職種はさまざま。稼働率はまだまだとのことだが、案件数が増えれば自ずと増えていくだろう。ちなみに今登録・稼働しているワーカーたちはきちんと企業側に副業申請していているので「バレて困る」といった心配もないようだ。希望者には源泉徴収や税理士紹介も行っており、会社に内緒にしたいケースや税金対策で悩む人にもサポート制度が用意されている。
各種転職者向けサイトでは登録しているだけで放置というケースも多いが、ここでは女性の副業コンシェルジュが手厚く、丁寧なサポートをしてくれるのが特長だ。シューマツワーカーと受入企業のコミュニケーション向上にも一役買っている。
松村氏はサービスの着想を得たきっかけについて、「ある経営者から、自社のサービスではD社やS社といった有名なIT企業に勤めている知り合いに手伝ってもらっているという話を聞きました。それどころかフルタイム勤務のエンジニアがいなくても業務が回っていると知り、こうした働き方をする人がもっとたくさんいるのではと思ったんです」と語る。
ITエンジニアは同じ職場にい続けると考えが凝り固まってしまったり、技術の陳腐化と言った問題に遭遇する。彼・彼女らは知的好奇心を満たし、スキルが向上する場所を常に求めている。なのでconnpass(IT勉強会のイベント共有サイト)は常に盛況だし、技術系のコミュニティではボランティアが相互に支え合う姿も散見される。こういった人たちは自分の得意スキルが役に立つシーンがあれば常に関わりたいと考えていて、さらに一定の報酬が出るならモチベーションアップにもつながるという仕組みである。
当社以外の受け入れ企業の反応はこうだ。
「社内のエンジニアはいるがユーザ向け機能開発に注力したい。重要だが緊急度の高くない仕事(管理画面開発とか)をリーズナブルにやってもらえるのがありがたい」(スマートフォン向け動画広告配信事業)
「社内にデザイナーがいないがフルタイムで入れるほどの仕事がない。週1、2日程度の作業を受けてくれる副業デザイナーがありがたい」(ロボットスタート:ロボット関連事業)
「ウェブマーケティングをやりたいが社内に専門家がいないのが悩み。経験豊富なスペシャリストに指導を受けたい」(BizteX:クラウドソリューション事業)
いずれもニッチなニーズにガッチリとハマっているようである。
副業が「コモディティ」になる世界を目指す
松村氏の経営ビジョンは「働く人を楽しくしたい」である。個人がスキルを身につけることができて、ちょっとした仕事でいろんな所で活躍できるという世界を目指している。
そのためにも、現在はスタートアップが中心となっている顧客層を、中堅レベルのところに拡大していきたいとのこと。また、大手とも組んで、副業斡旋を会社側から行えるようにしたいという目論見もある。企業側としても、自社の社員が競合やよくわからない会社の仕事を担当するよりは、目の行き届く会社の仕事をやっている方が安心できるだろう。
また、斡旋する人材の領域もどんどん拡大していきたいとのこと。競合サービスの中には会社の顧問を斡旋してくれるサービスもあるという。会社の中である程度の地位を持ち、社外にも影響力を持っている人が顧問としてベンチャー企業につくことで開けるアカウントもある。こういった「副業」のあり方があってもいいだろう。
また、たとえば長い間営業としてやってきた人の中には説明・プレゼン資料を作ることが苦手という人もいるだろうが、そういったピンポイントのスキルでサポートしてもらうというのもニーズがあるのではないだろうか。
副業解禁の流れはもはや止められない。企業も個人も国全体がハッピーになるような仕事のあり方が問われている。厚生労働省によれば週49時間以上働く人の割合はワークシェアリングの進んだヨーロッパに比べると倍くらい(日本20%、ドイツ・フランスでは10%)違う(*1)。しかし、ここ日本でも変化は確実に進んでいる。余った時間を副業に充てることで、今までにない価値創出につながることも出てくるに違いない。シューマツワーカーの今後の挑戦に期待したい。
(*1):長時間労働の背景と是正策について(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/0000138377.pdf)