EVENT | 2018/04/25

進化するスマートフォンの生体認証技術、だが弱点もある

Photo By Shutterstock

スマートフォンに搭載されている生体認証機能が進化している。安全性の向上...

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スマートフォンに搭載されている生体認証機能が進化している。安全性の向上に加えて、使い勝手もかなり良くなってきた。手軽に利用できるキャッシュレス決済機能の搭載や、ノマドワークにおけるパソコン代わりなど、スマートフォンの用途が大きく拡大してきてきたことで、より安全性が高く、スマートに利用できる認証技術が求められているのだ。そこで、話題の顔認証技術「Face ID」を搭載した“iPhone X”の事例を中心に、生体認証技術の動向について紹介していこう。

文:伊藤僑

進化する生体認証で安全・快適なスマホライフを

スマートフォンやタブレット端末などで生体認証の利用が広がっている。中でも注目を集めているのが“iPhone X”で採用された新世代の顔認証技術「Face ID」だ。

顔認証というと、繁華街などに設置された監視カメラの映像を使って、町中を歩く人の中から指名手配犯を探すような用途を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。通常のカメラによる映像を使った顔認証は、これまで不審者の侵入を防ぐ防犯システムや一部のスマートフォンなどでも利用されてきた。

しかし、ビデオカメラ等で撮影した平面的な映像を使った顔認証では情報量が限られるため、誤認識を生じやすく、本人を写した鮮明な写真があれば、なりすまして認証されてしまう恐れもあった。

iPhone Xの顔認証では、顔を2Dではなく3Dで認識することによって認証精度を大幅に向上させることに成功している。

iPhone XのFace IDを支える高度な技術

顔を立体的に認識するためにiPhone Xでは、フロントカメラ、赤外線カメラ、環境光センサー、近接センサー、ドットプロジェクターなどを組み合わせた「TrueDepth」カメラシステムを画面上部に搭載。機械学習の機能と組み合わせることにより安全な認証ソリューションを実現している。

Face IDで顔を登録する時には、3万点以上の赤外線ドットを顔に投影し、そのデータを解析することで顔の深度マップを作成、合わせて赤外線画像も作成する。こうして得られた正確な顔のデータは、暗号化された後に「A11 Bionic チップ」の「SecureEnclave」で保護されるので安全だ。

認証時には、深度マップと赤外線イメージを数学的モデルに変換し、登録済みの顔のデータと照合する。他人がロックを解除できてしまう確率は100万分の1に過ぎないというから優秀だ。しかも、メガネをかけたり髭を生やしても、Face IDは自動的に認識してしまう。

また、Face IDには「画面注視認識機能」も搭載されており、目が開いていて、意識して画面を見ているかどうかも認識するので、寝ている人の顔を使って他人がロックを解除することは困難とされる。

ただ、双子芸人「ザ・たっち」による顔認証突破実験でも報告されているように、双子や顔が似ている親族の場合には、本人でなくてもロックを解除できてしまう可能性はあるようだ。

お馴染みの指紋認証技術も進化を遂げている

顔認証の他にも、指紋、虹彩、網膜、静脈、声紋、耳型、歩き方など、様々な生体認証技術が生み出されている。このうち、スマートフォンでの利用件数が最も多いのは指紋認証だろう。iPhone X以外のiPhone(5s以降)や、Android製品の多くが採用している。

指紋認証技術における最新のトピックとしては、ディスプレイに内蔵できる指紋センサーの登場がある。

CES2018でVivo社が発表した“Vivo X20 Plus UD”は、ディスプレイ内蔵指紋センサーを搭載した初のスマートフォンといわれる。指紋認証時には画面に指紋マークが表示され、そこで指紋を読み取ることができるのだ。これを実現したのがSynaptics社のディスプレイ内蔵指紋センサー“Clear ID”とみられている。

指紋センサーを別に設ける必要がなくなるのでデザインの自由度が上がり、見た目もスッキリする。ディスプレイ内蔵指紋センサーは、今後多くのスマートフォンに採用されるに違いない。

このほかにも指紋認証関連では、読み取り~認証までの速度の向上や、指紋と汗腺の同時検出による認証精度の向上、なりすましを防ぐ体温の検知など着実に技術開発が進んでいる。

また最近では、虹彩認証と指紋認証の両方を搭載するなど、複数の生体認証技術を搭載する製品も出てきている。花粉対策でマスクを使用している時期には指紋認証を、乾燥肌などで指紋が読み取りにくい時期には光彩認証をというように、状況に応じて使い分けできるのはなかなか便利そうだ。

最新の生体認証といえども弱点はある

利用者の増加とともに、なりすましが困難といわれる生体認証システムを突破しようとする挑戦者も増えてきた。

例えば、指紋認証の場合には、指紋を写し取ったゼラチンやシリコンラバーでつくった人口指で、多くの認証システムを騙すことができることが実証されている。高解像度のカメラなら、ピースサインをしている記念写真から指紋データを読み取ることも可能なので、注意が必要だとニュース番組で取り上げられたこともあった。

そこで、盗み取った指紋データによるなりすまし被害を防ぐために研究開発が進められているのが、前項で紹介した指紋と汗腺の同時検出や体温の検知などの技術なのだ。

ただ、これらの最新技術をもってしても寝ている間に指を拝借してロックを解除する手口には対抗できないので、うっかりうたた寝することがないようにしたい。

狙われているのは指紋認証だけではない。虹彩認証の場合も、虹彩画像を印刷した紙で認証を突破できたという研究例が報告されている。どんな認証技術も100パーセント安全なわけではないことを理解した上で利用すべきだろう。

すべての生体認証が対象となる問題点もある。それは、パスワードのように、盗まれてしまったら違う文字列に変更すればいい、というわけにはいかないことだ。一度盗まれてしまったら、もうその生体認証は使えなくなってしまう。生体認証用データの管理には万全を期す必要がある。