文:岩見旦
日本においては反捕鯨団体として知られている、国際環境保護団体グリーンピース。地球規模の環境問題に取り組む一方、過激な抗議活動で知られる。
そんなグリーンピースの創設メンバーであるパトリック・ムーア氏の動画が注目を集めている。ムーア氏は1980年代前半にグリーンピース・カナダの事務局長を務め、1985年に辞任し、グリーンピースを離れた経歴の持ち主。
動画のタイトルは「私がグリーンピースをやめた理由」だ。全文を読みたい人は日本語をオンにしていただきたい。
グリーンピースの誕生
1970年代初頭、ブリティッシュ・コロンビア大学で生態学の博士課程に在籍していたムーア氏は、グリーンピースの設立に参加。核戦争反対という立場で、アラスカでの米国の水爆実験に海上で抗議活動を行い、成功を収めた。
1975年、グリーンピースは反核運動から捕鯨反対運動へと大きく舵を切り、ロシアや日本の捕鯨船に抗議活動を実施した。逃げ惑う鯨と銛(もり)の間に入って抗議する若い活動家の姿を撮影し、その映像を世界中のテレビで放映。すると、一般からの寄付金が転がり込んだ。
人類は「地球の敵」に
1980年代前半、活動対象を有毒廃棄物、大気汚染、娯楽としての狩猟、シャチの生け捕りにまで広げたグリーンピース。しかし、ムーア氏は同僚の理事たちの方向性に違和感を覚え始めていた。6人の国際理事のうち、正式な科学の教育を受けたのはムーア氏だけだったのだ。グリーンピースは当時、毒物・化学・人の健康など、複雑な問題を含むテーマに取り組んでいた。どの化学物質を禁止するかを分析するには、本来科学的な知識が必要なはずだ。
さらにグリーンピースが国際的な団体に成長するにつれ、毎年100万ドル以上の資金が集まるようになると、大きな変化が起こった。ムーア氏いわく、グリーンピースの「ピース」はどこかへ抜け落ち、「グリーン」が重んじられるようになった。グリーンピースの言葉を借りれば、人類は「地球の敵」となったとのこと。
産業の成長を終わらせるべきであり、有益なはずの科学技術や化学物質を禁止することが運動の共通のテーマとなったグリーンピースは、科学や論理を重視しなくなった。扇情主義、デマ情報、恐怖を使ってキャンペーンを推進するようになった。
どんな団体もはらんでいる危険性
ムーア氏がグリーンピースを辞める最後の一撃となったのは、同僚の理事たちが世界中の塩素の禁止に取り組むことを決定したことだ。塩素が悪者扱いし「悪魔の元素」と呼ぶことにした。
しかし、ムーア氏はこの決定は馬鹿げていると指摘。飲み水に塩素を加えることは、公衆衛生の歴史で最大の発明のひとつであり、化学に関する基本的な知識を持つ者なら、医薬品に塩素が不可欠なことを知っているはずである。このキャンペーンが成功すれば、苦しむのは本来支援しようとしている発展途上国の人々なのだと主張した。
こうした硬直した後ろ向きの思考は通常、無知蒙昧で非科学的な人々のものだとされている。しかし、どんな崇高な団体でもこうした考えに侵される可能性があることをムーア氏は身をもって体験したという。
ムーア氏のスピーチに、巨大化しすぎた団体の主義主張を貫くマネジメントの難しさを痛感させられた。