LIFE STYLE | 2019/02/13

たった1枚の紙からとんでもない作品を作る、切り絵創作家の「切り剣」こと福田理代氏|なにげに世界で有名な日本人

©2019 KAZAANA Co.,Ltd.
十把一絡げ的に「日本人は手先が器用」だと言うつもりは毛頭ないが...

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十把一絡げ的に「日本人は手先が器用」だと言うつもりは毛頭ないが、日本人に限らず箸を使う食文化圏に手先が器用な人が多いのはなんらかの因果関係はあると思っている。同時に柔道や茶道のように、道を究める「道」という考え方も相まって、手先が器用で探究心の強い日本人にかかると、とんでもないものが誕生したりする。

今回、「なにげに世界で有名な日本人」に登場いただく切り絵創作家の福田理代氏(切り剣、もしくはMasayo名義でも活動)は、専業の職人さんではなく、普通の主婦だ。だが作品を見るととんでもないアーティストとしか思えない。約25年の切り絵歴を誇り、日本国内だけでなく海外メディアからも複数取材依頼が来ているという。一枚の紙を切り抜き、まるで生命が宿っているかのような作品を創り続ける同氏に話を聞いた。

取材・文:6PAC

切り剣・切り絵創作家 Masayoこと福田理代 (まさよ)

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千葉県出身。美術系短大卒。

手作りの切り絵メッセージカードで切り絵の魅力に取りつかれる

福田理代氏
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同氏と切り絵が最初に出会ったのは、高校生の頃だそうだ。「友達への誕生日カードを送る際に、ただの四角いカードでは物足りないと思い、ハート型に紙を切り抜いたことが、切り絵に出会ったきっかけ」だと言う。花束や女の子の横顔などをモチーフにして、カードをカットして家族や友達に贈ることが定番化していったという。最初は「これが切り絵なんだ」という実感はなかったものの、手作りの切り絵メッセージカードを何枚も作っていくうちに、徐々に魅力に取りつかれていった。

そんな福田氏に切り絵制作過程について訊ねてみた。「基本的な切り絵の作り方は、まず薄い紙に下書きを描き、それを作品となる黒い紙に載せて、2枚切りを行うことで作っていくというものです。初めの頃は私も同じような手法で作っていましたが、立体感や奥行き感のない、2次元的な作品に仕上がってしまうため、細い線を表現することに限界がありました。そこで、白い紙に直接下書きを描き、切り抜くようになっていきました」と、独自の制作過程があることを明かしてくれた。白ベースの作品が多いのは黒い紙だと下書きが見えにくいためだそうだ。ちなみに下記の「海蛸子/Octopus」 の制作には2カ月かかったという。

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彼女の作品を見ると、恐ろしいまでに手先が器用な人だということが伝わってくる。本人曰く、「小さな時から手先を動かすことが好きで、漫画や絵を描くことが大好きでした。漫画のキャラクターを模写したり、自分でオリジナルキャラクターを描いたりしていました。20年前くらいからは鉛筆画にハマり、切り絵を続ける傍ら、オードリー・ヘップバーンなどを鉛筆画で描いていました。また、現在も時計修理の仕事をしていますが、それも切り絵の良い訓練になっています。他の切り絵作家さんは、小さな丸を切る際にはカッターを固定し紙を回して切るそうですが、私は紙を固定し、カッターを回して切っています。時計修理で培った、ドライバーやピンセット使いの技術が活かされているんだと思います」とのこと。どうやらご自分では、手先の器用さは後天的なものと見ていられるようだが、果たして長年の訓練・鍛錬・反復作業の結果だけで、ここまで手先が器用になるものだろうか。

“不気味で神秘的な面を持ち合わせる実在の動物”に魅力

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作品のモチーフに関しては、キレイなものや可愛いものよりは、“不気味で神秘的な面を持ち合わせる実在の動物”に魅力を感じるという。そうした中で自然と深海魚などの海洋生物のモチーフが多くなっていたそうだ。こうした海洋生物のモチーフを多く手掛けてきた結果、鱗を機械的な模様で表現する技法を編み出した。この技法により、モチーフを浮かび上がらせ、立体感を表現することが可能となった。

作品を完成させる上で一番重要なのは、“下書き”だそうだ。「下書きの良し悪しで、完成度が決まる」と言う。また、「他の作家さんにはない特徴だと思いますが、私の場合は紙の裏に下書きを書くため、完成品は左右逆になります。左右の逆転を考えつつ、全体のバランスを計算しながら下書きを作成するのがとても重要な工程です」 とも言う。「切り絵で奥行きや立体感を表現したい」と語る同氏は、「線の太さと細さのコントラストに非常に気を使いながら作品を作っています」とのこと。

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ご主人に止められない限りは、制作に没頭するあまり、気が付くと朝になっていることがままあるという。そこまで根を詰めての作業だと職業病みたいなものがあるはずだと思い訊いてみた。すると、「好きな音楽を聴いたり、何度も見て内容を覚えているDVDを流しっぱなしにしたりすると、気持ち良く筆が走ったり、カットが進む気がしています。“肩凝りにならないの?”と良く聞かれますが、自覚症状は全くありません。切っている最中が一番幸福を感じます」との答えが返ってきた。筆者のような座り仕事の文筆業だと、首、肩、手首、肘、腰などを痛めるケースが多いと聞くが、同氏はよほど良い姿勢で作業に没頭しているようだ。

国内外のメディア多数に取り上げられた同氏の作品だが、「反響が多く、色々な方に見てもらえるのはすごく嬉しいです。しかし作品が独り歩きしているようで、少し怖い印象もあります」と言う。「Twitterで海外からのコメントも多くありますが、外国語を読めないので、良いコメントなのか、悪いコメントなのか分からず、どんな感想なのだろうと気になっているのかもしれません。インターネットで広く知られることはもちろん嬉しいですが、なんとなく漠然とした不安も感じているような感情です」とも言うが、海外ではメイドインジャパン=高品質という評価につながりやすいのではと感じているそうだ。

今年は“全体の空間を意識した作品”を作りたい

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今後、切り絵創作家としてどういう方向を向いているのかと問うと、「一枚の紙を切り抜いて描く単色の世界の中で、鉛筆画のような美しく繊細なアートを目指しています。写実的、美しい、繊細、存在感、立体感がある作品を目指して、皆さんに毎回、驚きと感動を与えられる切り絵作品を作っていきます。制限のある世界だからこそ、究め、追求していく楽しさがあると思っています。現在製作中の作品では、不気味なものから少し離れて、花や蝶を作っています。今までの作風と違う対象にも挑戦していきたいと思っていますが、今の作品が終わったら、引き続き少し不気味で神秘的な魅力のあるモチーフに再度挑戦していきます」と語ってくれた。

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「たくさんの人に作品を見てもらうために、切り絵作家として私自身が有名になることも必要であると思います。そして、その結果“切り絵をやってみよう”という人が増えたら嬉しいです。そのためにまず、海外で個展を行えるようになりたいです」という同氏だが、今年はすでに2月と10月にフランスで作品を展示する予定だ。日本国内のイベントや展示会への作品出品も、2019年上半期は毎月のように予定が組まれている。同氏はこれまで作品を販売して収益を得ていたわけではないが、こうしたイベントや展示会で実物を見たアートコレクターたちから「売って欲しい」という声が挙がってくるのは想像に難くない。実際に専門家がどれくらいの値札を付けるのかも興味があるところだ。

2019年は“全体の空間を意識した作品”を作りたいと言う同氏。「モチーフ自体に立体感を出すことはもちろん、画面全体、背景を含めて、空間としての立体感を表現できるような作品」が今年のテーマのようだが、どういった驚きを見る者に与えてくれるのか、今から楽しみである。

今年開催予定の作品展(※2月4日時点)

2/2~4/8 アートギャラリー蝶々企画展 in 石川県ふれあい昆虫館(石川)
http://www.furekon.jp/topics190202.html

2/15~2/22 世界らん展2019 花と緑の祭典 in 東京ドーム(東京)
https://www.tokyo-dome.co.jp/orchid/

2/22~2/24 ジャパン・トゥール・フェスティバル2019「日本人伝統部門」(フランス)
https://www.japantoursfestival.com/

4/13~4/21 八百万之紙&切藝展 in GALLERY心(東京)
https://twipla.jp/events/356377

4/1~4/21 SAMURAI主催 第1回切り絵博覧会 切り博(大阪)
http://samurai-cut.wixsite.com/samurai

4/24~4/30 光と彩り/線と密度 in ミライエギャラリー(大阪)

5/16~5/18 グループ展 in 丸の内KITTE(東京)

6/17~6/22 個展 in 銀座アートポイント(東京)

9/6~9/10 グループ展 東京早稲田ドラードギャラリー(東京)

10月下旬 サロン・アート・ショッピング in カルーゼル・デュ・ルーブル(フランス)