CULTURE | 2019/01/11

ミシュランガイド掲載!中古車販売店にしか見えない鳥取のラーメン店『ホットエアー』 出汁や旨味の魅力に取り憑かれた店主に聞く

取材・文:6PAC
副業で始めたラーメン店がミシュランに掲載!?

吉田克己氏(C) Katsumi Yoshid...

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • line

取材・文:6PAC

副業で始めたラーメン店がミシュランに掲載!?

吉田克己氏
(C) Katsumi Yoshida

ゲームが好きすぎて独学でプログラミングを学び、自分でゲームを作ったら売れに売れて会社員を辞めました…といった成功ストーリーを耳にしたことがある人は多いだろう。では、中古車販売という本業のかたわら、ラーメンが好きすぎて副業でラーメンを提供していたら、ある日ミシュランガイドに掲載され行列ができる店になってしまった…というストーリーは聞いたことがあるだろうか?

このストーリーの主役は、鳥取県鳥取市で「ホットエアー」という中古車販売店とラーメン店を営む吉田克己氏だ。

こだわりはない、やらなきゃいけないことをやっているだけ

店舗の外観。写真左の電柱に隠れている民家がラーメン店部分だ。
(C) Katsumi Yoshida

「本業は決めていません」というオーナーシェフの吉田氏が、夫婦2人3脚でラーメン店の営業を始めたのは2015年秋のこと。ラーメン店を探しながらの運転であれば高確率で見過ごしてしまいそうな、紛れもなく車屋さんにしか見えない店舗で、塩・醤油の2種類の化学調味料が入っていないラーメンを提供する。

透明感のあるスープは、完成形となる味から導き出された方程式から作りだされる。素材は地元の地鶏や魚介類が基本だ。「ラーメンが好きというか出汁や旨味が好き」と語る同氏だが、実はラーメン店での修行経験や料理学校で学んだ経験などはない。自分の味覚を頼りに、独学で試行錯誤しながらスープを作り上げたそうだ。裏にはかなりの苦労があったのではと思ってしまうが、本人は苦労を感じてないという。

ホットエアーで提供している塩ラーメン(800円)。100円プラスすると味玉子がついてくる。
(C) Katsumi Yoshida

スープの中には細麺が踊り、麺の上には低温調理されたチャーシュー、玉子、キクラゲ、カイワレ、ネギなどが顔を並べる。ラーメンの素人からしてもこだわりが感じられるのだが、本人は「こだわりはありません、やらなきゃいけないことをやっているだけです」と語る。自分が目指すラーメンの完成形は?と話を向けると、「時代に合わせて変えますので、完成形はありません」という答えが返ってきた。

記事執筆時点での食べログの点数は3.16。口コミ欄には「ラーメンマニアが作るラーメン」、「ラーメンに対するこだわりがビシバシと伝わってくるお店でした」、「進化していく無化調のこだわりラーメン」、「ラーメンへの情熱は間違いなく本物」、「ワイルドな店構えからの繊細な味わいの、まさにギャップ萌えラーメンです」、「鳥取でこんなに並ぶと思わなかったけど並ぶ価値があった」、「上品で爽やかな一杯」といったコメントが並ぶ。

ミシュランガイドのビブグルマン部門に選出されると環境が一変

2018年10月に発売された『ミシュランガイド京都・大阪+鳥取2019』で、5,500円以下でコースやアラカルトを提供し、“価格以上の満足感が得られる料理”を提供する店が選ばれるビブグルマン部門に選出されて以降、行列と取材が増えるという変化が起きた。開店前から行列ができるようになり、テレビ・新聞・雑誌などからの取材依頼が後を絶たない。1日で4社から取材依頼が入ったこともあったという。周囲を取り巻く環境が一変したわけだが、本人曰く「ジェットコースターに乗っている気分」だそうだ。ミシュランガイド恐るべし。

(C) Katsumi Yoshida

ふと、一昔前に個人が開発して大ヒットしたアプリゲームを思い出した。ある日突然、アップルから目が飛び出すくらいの金額が振り込まれるようになったり、マスコミからの問い合わせや他社からのビジネスオファーが多数舞い込んできたり、著書の出版依頼が飛び込んできたり、売上の増加に伴い法人化したりと、短期間で急激に環境の変化が起きたそうだ。芸能界でもM-1グランプリで優勝すると、優勝した芸人のスケジュールが翌日には瞬く間に埋め尽くされるという話も有名だ。いずれにせよ、「ランキング1位」、「〇〇で優勝」、「〇〇百選に選出」といった肩書きがつくと、一夜にして人生が変わることが多々あるのは業界問わずといったところだ。

ミシュランガイド認定プレート
(C) Katsumi Yoshida

東京で勝負したい気持ちもあるという同氏は、「投資家から話が来たら考えます」と言うが、当然ホットエアーにも袋麺やカップ麺のコラボ、イベント出店、鳥取以外での出店話、ラーメン業界でトレンドとなっている他店とのコラボといったビジネスオファーの話も舞い込んでいることだろう。ホットエアーの味に惚れ込んだ投資家などからの支援を受け、東京で食べられる日は果たしてくるのだろうか。東京に出店してもあまりの行列で食べられないということにもなりかねないが。


ホットエアー

ホットエアー@吉田(Twitterアカウント)